食行動障害や自傷行為を引き起こす愛着外傷にともなうアタッチメントの問題
交際相手との関係や夫婦関係のトラブルを抱えていらっしゃる患者さんも多くいらっしゃいます。
パートナーに対する暴言や暴力を何とかしたいとこころの健康クリニックを受診された方の中には、幼少期、とくに3〜5歳までの愛着形成の時期に傷つき体験を抱えた方も多く含まれています。
こころの健康クリニックで診ているこれらの人たちは、①ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動症)など発達障害特性を有する人たち、②家庭内暴力の目撃や虐待体験など機能不全家庭で育った人たち、そして、③養護施設や里親など産みの親以外からの養育体験を有する人たち、の大きく3つの群に分けられるようです。
この3つの群は、オーバーラップしていることがほとんどです。
養育者との愛着関係上でのさまざまな傷つきを総称して「愛着外傷」と呼びます。
人生のかなり早い段階で「愛着外傷」を被ったこの3つの群に共通しているのは、幼少期の自己感ができあがっていく時代に、養育者が子どもの心をメンタライズし、言葉でミラーリング(照らし返し)される体験の不足です。
ほどよい母親のミラーリングの一致率が3割であるという点からもわかるとおり、ミラーリングに失敗しない子育てなど現実的にありえません。
池田『メンタライゼーションを学ぼう——愛着外傷を乗り越えるための臨床アプローチ』日本評論社
上記の引用でわかるように、ミラーリングは失敗することが多いのです。
ミラーリングが失敗して子どもの心の中のイメージとのずれがあっても、子どもの側に信頼する人の意見の積みかさね(認識的信頼:メンタライジング機能)が培われていれば、信頼できる大人から学ぶことができ、どういうときに自分の判断を信じるべきかを知ることができるようになります。
これが「安定型アタッチメント(成人の場合は安定−自律型)」の土台となります。
関係性の構築には、ネガティブな感情に伴うアタッチメント(ストレスを経験している際の随伴的な関わり)、ポジティブな感情に伴う互恵性(ストレスがない状況での随伴的な関わり)と温かみ(日常生活全般における温かみのある情動的な雰囲気)の3つの要素からなります。
アタッチメント対象が子どもの働きかけに拒否的・回避的に振る舞ったり、強度の侵襲的(指示的)な関わりを体験しがちであるASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動症)などの発達障害特性を有する人たちは、他の人たちが教えてくれることを信じることが安全であるとは思えず、認識的不信から論争的になり「回避型アタッチメント(成人であれば軽視型)」を示すことが多いようです。
一方、1〜7歳までに愛着対象からの別離を経験した人たちは、強い分離不安を示し、再会時に怒りや反抗を表現する両価的な「アンビヴァレント/抵抗型のアタッチメント(成人の場合はとらわれ型)」を示しやすいようです。
養育者側も気分や都合により反応が一貫せず(過保護あるいは感情的)、子どもに心配をかけまいとして応答が微妙にずれてしまうために養育者から学び言うことを信じても安全なのだろうか、と、子どもは認識的不確実感を引き起こす可能性があります。
「アンビヴァレント/抵抗型(とらわれ型)」は、成人では以下のような関係性障害の症状として顕れることが多いようです。
彼が元カノ宛てのメッセージを、間違って私に送ってきてしまったことがきっかけで、その後、彼のことを何でも疑うようになってしまった。
感情の起伏が激しくなり、浮気しているのではないか?、とか、私のことを愛してないのではないか?、さらには、私と別れて他の女と付き合ってしまうのではないか?、など、未来のことを常に心配している。彼のことを考えると眠れなくなり、過食嘔吐がひどくなった。
このような経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
家庭内暴力の目撃や虐待体験など機能不全家庭で育った人たち(養護施設や里親など産みの親以外からの養育体験を有する人たちも含む)の養育者は、精神的に不安定で、子どもを怯えさせるか子どもに怯えるなど不安定な対応をしがちです。
子どもの側は、近接と回避が混在した反応を示し、顔を背けながら近づいたり、親の前で固まったり、あるいは、初めて会う大人に馴れ馴れしく振る舞ったりなど、「無秩序/無方向型(成人の場合は恐れ型、あるいは未解決−無秩序型)」の特徴を示すことが多いようです。
さらに、機能不全家庭や養護施設などで育った人たちの中には、選択的なアタッチメント対象は持つものの、関係性が混乱されているか、障害されている「安全基地の歪み」のアタッチメントを示す場合もあります。
「安全基地の歪み」は、小児では以下の1つ以上の特徴を呈するとされます。
- 自己を危険にさらす、および/または、攻撃的な行動をする(特定の他者といる時に限定され、他の養育者ではそうとは限らない)
- 探索が制限された過剰なしがみつき(特定の養育者+見知らぬ大人)
- 特定の養育者に対して過剰な警戒心と不安定な過服従を示す
- 役割逆転した面倒見
「恐れ型、あるいは未解決−無秩序型」や「安全基地の歪み」は、成人では以下のような関係性障害の症状として顕れることが多いようです。
ストレスを感じた時に酒量が増えるようになり、仕事のプレッシャーから過食嘔吐をするようになった。その後恋愛のストレスから食事をとれなくなった。さらにリストカットの頻度も増えた。
交際相手と同棲を始めたところ、大きな生活音を出された時にとても驚き、苛立ち、ひどい頭痛と耳鳴りに悩まされた。
生理前には叩く・蹴るなど暴力をふるったり、相手の人格を否定するようなひどい言葉を発してしまうことがある。
以前引用して解説した『死にたいの根っこには自己否定感がありました。』に書いてあったような内容ですよね。
今回は、食行動障害と関連した関係性の障害を例に挙げてみました。
食行動障害や摂食障害を引き起こす背景には、心理的虐待(20%)、心理的ネグレクト(60%)、DVの目撃頻度や性的虐待の頻度も優位に高く、幼少期のトラウマ体験、および「恐れ型、あるいは未解決−無秩序型」のアタッチメントに代表される不安定なアタッチメントが媒介要因になっていると考えられています。
また不安定型のアタッチメントでは、食行動障害や摂食障害の他に非自殺性自傷行為を合併する頻度も高く、無秩序なアタッチメントを含む小児期のトラウマ体験や、感情的ネグレクトを感じていることが非自殺性自傷行為の素因あるいは促進要因になるとされています。
このようなアタッチメントの問題が関係しているとき、摂食障害に特異的な治療の前にアタッチメントにもとづく介入を行うことで、併存症を含む改善率が高くなるといわれています。
愛着外傷や乳幼児期のトラウマ体験に起因する食行動異常などで悩んでいらっしゃる方は、こころの健康クリニックに治療を申し込んでくださいね。
院長