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さまざまな不安症とどう向きあうか

[2022.07.06]

対人関係療法を応用したリワークの特徴』で「回避」について触れました。

 

初発のうつ病の5年間の経過においてクラスターCパーソナリティ障害(回避性、依存性、強迫性)をもつ患者は寛解しにくく、また再発もしやすいという報告があり、うつの難治化、再発と回避性パーソナリティ障害との関連はすでに知られている」と報告されているように、うつ状態と回避行動の間に「神経発達症(発達障害)特性」が想定されています。栗原, 大江, 渡邊. 成人うつ病患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 41-46. 2022

 

うつ病・うつ状態に伴う回避だけでなく、神経性過食症や過食性障害(むちゃ食い症)もまた、自分の感情と向きあうことや、行動を変化させることを回避しようとします。

 

回避はさまざまな不安の特徴でもあるのです。

自分の思考に身体が反応して引き起こされた「不安」と名付けた感情を避けようとするのが、不安症です。

 

神経性過食症や過食性障害(むちゃ食い症)は、過食や過食嘔吐を何とかしようとしても、それを引き起こした「摂食障害思考」やそれで引き起こされた感情と向きあわない限り、乱れた食行動は続いてしましますよね。

不安症でも同じように、不安だけを何とかしようとしても、それを引き起こした思考がそのままである限り、不安の範囲はどんどん広がっていきます。

 

不安症には、幼児期の「分離不安症」や「選択性緘黙」、学童期の「限局性恐怖症」、学童期から思春期にみられる「社交不安症」、思春期頃および成人期に目立ってくる「広場恐怖症」、青年期から成人期初期に発症しやすい「パニック症」、そして成人期にさまざまなことが不安になる「全般性不安症」など、さまざまな種類があります。

 

「神経発達症(発達障害)特性」のある人では、「ASD・ADHDが併存する患者にパニック障害や広場恐怖、社交不安症といった不安症が多い」、と不安症の併存率が非常に高いこともよく知られています。(前掲論文)

不安症は、ASDやADHDにおける併存症の第1位であり、就学期(6〜18歳)のASDの約40%、ADHDの25〜50%に不安症が併存し、その割合は健常者の約2〜4倍と言われている」と報告されています。蔵満, 岡, 塩入. 成人不安症患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 53-60. 2022

 

とくに「社交不安症」と「神経発達症(発達障害)特性」の関連は、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5にも記載されています。

 

社交不安症の併存症としてのASDについては、DSM-5においても具体的に記述がなされている数少ないものである。

この両者は、対人相互性に障害が生じるという点においては類似しているが、社交不安症は他人の目を気にして社交状況での機能障害が生じるのに対し、ASDでは視線、表情、ジェスチャー、声色といった社会的手がかりの読み取りが苦手で他者の思考表象を推測することが困難なために、社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥が生じてしまうという違いがある。

蔵満, 岡, 塩入. 成人不安症患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 53-60. 2022

 

元々の「社交不安症」は、他者面前でのパフォーマンス不安(あがり症)に近いものですが、「神経発達症(発達障害)特性」、とくに自閉スペクトラム症(ASD)に併存する社交不安症は、対人恐怖症に近い印象があります。

 

「神経発達症(発達障害)特性」にともなう社交不安症の特徴は、他者の言動から相手の心の中の状態を類推することが困難なメンタライジング不全、つまり「相手にどう思われるかわからない」という得体の知れない恐怖感が基盤にありそうです。

 

メンタライジング不全にともなう不安は、『対人関係療法を応用したリワークの特徴』で挙げたのうち、「部下を持った際に指示を出したり、業務を割り振ったりできない」「わからないことがあっても周りに聞けず、未解決のままにしてしまい手がつけられなくなる」、などの訴えとして、臨床の場で語られることが多いようです。

 

「神経発達症(発達障害)特性」が目立つ人もまた、健常発達者と同じように、発達段階に特異的な不安症状を表現することが知られています。

 

例えば、分離不安症では、その発症は就学以前の小児期とされ、その後、10歳前後までに限局性恐怖症、そして30歳前後で全般性不安症が高率で併発するとされる。

(中略)

このように不安症が年齢の推移とともにさらなる不安症の併存を伴う一連の流れを、著者らは“不安スペクトラム症”という概念で捉えている。

(中略)

つまり、一般には、神経発達症の発症→不安症の発症(併存)という時系列になるということである。

蔵満, 岡, 塩入. 成人不安症患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 53-60. 2022

 

「神経発達症(発達障害)特性」を有する場合は、「初診時年齢が低く、未婚で身体疾患はないが、若くしてすでに不登校、被いじめ体験、精神病様体験、自殺関連行動および対人トラブルといった負の既往を抱えていることが多い」とされています。近藤. 背景に神経発達症があれば,いかなる治療的工夫が必要となるか. 精神科治療学 37(1): 23-28. 2022

 

ASDの好発年齢である0〜3歳、ADHDの好発年齢の5〜10歳頃から、「分離不安」や「選択的緘黙」、「限局性恐怖症」が発症することを考えると、「神経発達症(発達障害)」は不安障害の発症に先行するようです。

 

精神科を受診することの多い20歳以降は「パニック症」や「広場恐怖」、あるいは、25歳以降は「全般性不安症」が多いとされています。

 

Fones(フォネス)らは、85名の成人パニック症患者を調べた結果、ADHDの診断基準を満たしていた者が9.4%、小児期にADHD症状が存在した者が23.5%で、ADHD併存群では、独身、低学歴、小児期に逆境(例:親の離婚、性的虐待)を経験した割合が高い、と報告した。

(中略)

成人ASD患者4,049名におけるパニック症の有病率は約3%と、ASDではない成人217,645名(1.69%)と比較して高く、特に知的能力障害のないASD患者に高率に合併したという。

蔵満, 岡, 塩入. 成人不安症患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 53-60. 2022

 

さまざまな不安症の背景に潜む「神経発達症(発達障害)」は、以下のように判別することができるとされています。

 

①対人トラブル、②被いじめ体験、③精神病様症状、④若年受診(32歳未満)の4つがASDの判別に有用であり、93%のASDが1つ以上の因子を有する一方で、いずれの因子も持たない症例では98%の確率でASDの除外診断が可能であった。

近藤. 背景に神経発達症があれば,いかなる治療的工夫が必要となるか. 精神科治療学 37(1): 23-28. 2022

 

「神経発達症(発達障害)」に伴う不安症の治療においては、イギリスのNICEガイドラインでは、「不安症を併存した成人ASD患者に薬物療法を行う場合、ASDに伴う薬剤過敏性の可能性や副作用に配慮し、低容量から始めるよう推奨」されています。蔵満, 岡, 塩入. 成人不安症患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 53-60. 2022

 

最大量の抗うつ薬、あるいは、2種類の抗うつ薬を投与されているケースをしばしば見かけます。

「発達障害(神経発達症)特性」のうつ状態の特徴』でも引用した杉山登志郎先生の方針のように、薬物療法は最小限度にとどめ、思考とのつきあい方やソーシャルスキルを身に付けるトレーニングを優先させた方がいいと考えられますよね。

「発達障害(神経発達症)特性」のうつ状態の特徴

院長

 

摂食障害の対人関係療法導入ガイダンス』のお知らせ

8月6(土)10時~11時45分 (休憩15分)に、摂食障害の対人関係療法を希望・検討されている方々向けに治療導入前のガイダンスを行います。治療を申し込んで課題に取り組んでいる方も受けられます。

ガイダンスの内容を参考にして、お申し込みください。

なお、個別面談も予定しています。

摂食障害の対人関係療法導入ガイダンス

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