メニュー

「複雑性PTSD」「愛着障害」「発達障害」の関連

[2021.03.10]

一般向けの書籍にも「愛着障害」の文字を目にする機会が増えました。

それらの書籍で語られている愛着障害とは、青年期以降の親子関係の確執や、対人関係の苦手さなどであり、不安定型のアタッチメント・スタイルまでが愛着障害とされ、不安定型は対人関係の問題を起こすと説明されていることが多いようです。生野. 愛着の世代間伝達. 精神科 33(4), 305-310, 2018

 

上記の論文では、[「愛着障害」と「愛着の問題」が混同されている]と指摘した論文も引用しました。

また、「愛着障害ではないか?」「他で愛着障害と診断された」と、こころの健康クリニックを受診した人たちは、愛着障害診断の要件とされている「不十分な養育の極端な様式」の既往がなく、広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度を行うと、ほとんどの人がカットオフ値を超える、つまり発達障害が強く示唆されることもすでに指摘していました。

 

愛着障害」の原因の主なものは、虐待・ネグレクトや不適切な施設養育であり、当然のことながら虐待が乳幼児の愛着形成に障害を与えることが知られています。

また、被虐待乳幼児の虐待者に対する愛着の型のおよそ90%が、最も不適応的な愛着の型(無秩序/無方向型あるいは混乱型)であったことが示されています。

 

劣悪な養育環境にある施設で育ったり、虐待やネグレクトを受けると、愛着の形成が著しく障害される。

たとえば身体的虐待の場合、暴力を受けている乳幼児は身体的苦痛や危険を感じる。そのため児の愛着システムは活性化して、本来なら愛着対象である親に物理的に接近して安全感を得ようとするはずである。ところが、愛着対象自体から暴力を受けているために、乳幼児が親に近づくことはかえって危険であり、愛着システムは根本的に機能しない。

そのため、被虐待乳幼児の愛着形成は深刻な打撃を受けて、愛着障害が発症すると考えられる。

ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)」では、「愛着障害」は「反応性愛着障害」と「脱抑制型対人交流障害」に分けられています。このうち「反応性愛着障害」は9ヵ月の発達年齢を有し、5歳以前に発症するとされています。

 

「(反応性)愛着障害」の鑑別診断と併存についてまず問題となるのは「精神遅滞」であるとされています。

 

反応性愛着障害の子どもは認知発達のための適切な刺激や養育を受けていないために発達が遅れることは多いといわれている。

適切な里親養育や施設養育により、反応性愛着障害による発達の遅れは是正されることが多いことから、鑑別が行われる。

ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

「発達障害(自閉症スペクトラム)」は「(反応性)愛着障害」と鑑別すべき重要な疾患になります。

前掲書には「発達障害(自閉症スペクトラム)」と「(反応性)愛着障害」の鑑別について以下のように説明されています。

 

反応性愛着障害のほうが広汎性発達障害に比して、

  • ○社会的相互関係・反応性に正常の能力があり、
  • ○環境が改善すれば社会性が改善する。
  • ○言語の遅れはありうるが、広汎性発達障害のようなコミュニケーションの質的な偏りは少ない。
  • ○慢性で重度の認知の欠陥はなく、
  • ○行動、趣味、活動が制限されることや、反復的・情動的行為が少ない。

などである。

ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

乳幼児期に愛着形成を脅かすトラウマ体験があり、小児期に身体症状や行動変化を示していても、交友関係、教師や他の大人との交流が広がるなど対人環境が改善することで、愛着の問題は思春期を過ぎる頃に一旦改善し、成人期以降にはパートナーとの関係に移行していきます。

 

一方で、小児期から思春期・成人期以降の間で連続して、トラウマ体験と言えないほどの些細な出来事がリマインダーとなり、混合性不安抑うつ、不安定な対人関係、自傷や破壊行動などの衝動行為、あるいは解離や幻覚妄想など、非典型・非定型な病像を呈する場合は、愛着の問題よりも発達障害の素因の関与が大きいと考えられるのです。

 

虐待の特定的病理が「愛着障害」と「心的外傷後ストレス障害」であるため、虐待が発生した時の併存障害として「複雑性PTSD」は「(反応性)愛着障害」とは密接な関連があります。

さらに、「発達障害(自閉症スペクトラム)」と共通する素因として、「対人恐怖(小児期の社会性不安障害)」も鑑別にあげられます。

 

つまり、「発達障害(自閉症スペクトラム)」「対人恐怖(小児期の社会性不安障害)」などの脆弱性を有する個体が、虐待・ネグレクトや不適切な施設養育など不十分な養育の極端な様式を体験することで、「(反応性)愛着障害」や「複雑性PTSD」を発症すると考えた方がよさそうです。

 

Rutter(ラター)らの研究グループは、生後6ヶ月を超えて剥奪的環境に曝露されると、6歳以前からみられ増加してくる「特異的な発達パターン」があり、「自閉スペクトラム、脱抑制的対人交流、認知機能障害、不注意・多動として特徴づけられる」としています。(前掲書)

 

家庭的養育の提供により、それぞれ一定の縦断的経過を示し、もっとも改善がみられたのは認知機能障害であった。

自閉スペクトラム、脱抑制的対人交流についても減少する傾向がみられたが、不注意・多動については成人期に向けてむしろ増加していた。

ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

持続的な空虚感、無力感や無価値感などの「複雑性PTSD」の否定的自己概念(認知機能障害)は、共感的な家庭的な養育環境が提供されると改善がみられるとされています。

つまり「(反応性)愛着障害」や「複雑性PTSD」の改善に対しては、「安全基地」と対人関係における「安心感」の提供が必須であるということです。

 

その一方で、注意欠如多動障害(ADHD)から反抗挑戦性障害(ODD)、さらに素行障害(CD)にいたる「DBDマーチ(破壊的行動障害の行進)」は増加するということです。これはどう考えればいいのでしょうか?

 

放任(ネグレクト)や虐待は、素行障害や非行の初発年齢を下げる要因であることが知られています。

また家族との関係性では、放任は不注意と、虐待は多動衝動と関連するとされています。

とくに男子では不注意傾向を有するほど、共感性の「視点取得」が低く「個人的苦悩」が高くなることが指摘されています。淵上. 破壊的行動障害のマーチと共感性及び虐待・放任との関連について. 犯罪心理学研究 48(1), 21-24, 2010

 

「視点取得」とは他者の思考感情、視点を理解する能力であり、こころの健康クリニック芝大門の対人関係療法による治療やリワークプログラム(職場復帰支援プログラム)でも強調している「メンタライジング能力」です。

 

この「視点取得」は制御性、対人認知、向社会行動と正の相関があり、攻撃性とは負の相関があることがわかっています。また、「個人的苦悩」は情動性と正の相関、制御性と負の相関があることが知られています。

つまり幼少期の逆境体験が自分の今後の人生を損なわないようにするためには、共感的な環境提供と同時にメンタライジング能力を高めていくことが必要であるということですよね。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME