関係性療法にもとづくリワークプログラムの効果
いわゆる「発達障害(自閉症スペクトラム障害やADHD:注意欠如多動障害)」は、2004年には166人に1人(約0.6%)、2018年には59人に1人(約1.6%)、そして今年発表された論文では54人に1人(約1.9%)とされています。
2013年に刊行された『自閉症スペクトラム』のサブタイトルが[10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体]となっていました。
現在では[5人に1人が抱える「生きづらさ」の正体]というべきなのかもしれません。
自閉症スペクトラム
たとえば、先日参加した産業医研修会では以下のような仮想ケースが提示されていました。
Aさん24歳男性高卒(入社5年目)の機械メンテナンスのエンジニア
体調不良で会社を休む事はある。先月(9月)も、頭痛や鼻閉、倦怠感、気分不良などで時々会社を休んでいる。
体調が良い日は会社に来て、担当している業務は問題なくやれており、職場の先輩たちもいい人たちなのでトラブルなく仕事はできている。ただ、仕事に来るのは億劫で、気分が晴れない日が多い。
食欲は問題なく、3食食べている。体重は数年間増減していない(正常体重)。毎日8時間眠っており、やや寝付きは悪いが、問題ない。
趣味はテニスやスノボで、休日は時々友達とテニスをやっている。
独身、独居。
そもそも、ひどい体調ではないのに、なんで産業医面談に呼ばれたんですか?
この仮想ケースは、業務に支障がある(事例性がある)ことについて考察する産業医としての考え方のトレーニングとして出題されたのですが、『適応障害は流行しているんですか?』で例に挙げた医師国家試験の問題ケースにそっくりですよね。
このケースでは、傷病名:うつ状態、内容:上記診断にて約2ヶ月の自宅療養が必要、との診断書が後に提出されたことになっていました。
産業医からみた一般的な精神科医のイメージはこんなものなのかと落胆すると同時に、精神科医療の貧困さに無念の思いを抱いてしまいました。
それはさておき、このケースは『はじめての精神科』で「パーソナリティの偏りに由来する抑うつ状態(治療というよりは自分の心とのつきあい方を学ぶべき)」と説明されている「不適応状態」と考えた方がよさそうです。
「不適応状態」は、過集中による長時間勤務でのさまざまな身体症状や体調不良の自覚や、ミスが続いたり、遅刻や欠勤が増えたりすること、さらには、他者がいる空間での「感覚過敏(特に音や匂い)」などによって引き起こされます。
なかには通勤電車の中での嘔吐恐怖や便意、あるいは呼吸困難感などが起きやすいので電車に乗れないという人もいらっしゃいます。(本人はパニックと表現されますが、パニック発作とは違うようです)
これらの人たちは、生来的な「発達障害の要素(自閉症スペクトラムやADHD傾向)」を有していることが多く、上記のケースのように休職の診断書がでて自宅療養をしても、「適応障害」とは異なり、症状は緩徐にしか軽減しないのが特徴です。
発達障害の(要素がある)人たちへのトレーニングプログラムは、さまざまなものが開発されています。
1例をあげると『大人の発達障害の真実』では認知機能リハビリテーションとして、「前頭葉・実行機能プログラム(FEP)」が紹介されていました。
こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、発達障害の要素を有する人たちに対して、感情認知、原因帰属様式、結論への飛躍、心の理論といった複数の領域を治療対象としたプログラムを導入しています。
こころの健康クリニック芝大門のリワークで行っている上記のプログラムでは、さまざまなビデオ場面を見ながら、表情の変化を見ること、他者の感情を推測すること、あるいは、注意の方向づけ、などのトレーニングを行うのです。
このプログラムも「メンタライジング・アプローチ」「対人関係療法」に加え、対人関係での相互作用性と相互反応性などを調整していく「関係性療法」のなかで実践しています。
他の多くの医療リワークでは、対人関係に関わるプログラムではアサーションを指導するだけのようです。
こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、このような「関係性療法」を導入し、これが対人スキルの向上に大きく役立っていることが特徴です。
これにより、職場の対人関係で傷ついた人や、あるいは対人関係過敏、感覚過敏を有する発達障害特性を持った人たちのリワークプログラムも可能になったのです。
うつ病リワーク協会では、「1日6時間(デイケア)以上のプログラムを週4日以上提供していることが望ましいが、それに満たない場合はそれを補うと判断されるプログラムを提供している必要がある」とされています。
こころの健康クリニック芝大門のリワークにいらっしゃる方は、業種も職種もさまざまです。
そのため、リワークで行われているプログラムのうち、デスクワークやパソコン入力作業など、机上での作業などの個人プログラムを省きました。そして、軽体操やレクリエーションの時間も除き、リワーク早期から通勤訓練を行ってもらうことにしたのです。(こころの健康クリニック芝大門から職場が近い人には有利ですよね)
さらに、病気について学ぶ教育プログラムを心理教育に変更し、『リワークプログラムでの精神心理療法の実際〜復職可能になるまで』で説明したように特定の心理プログラムへの配分を大きくしました。
リワークプログラムの時間対効果を高めたことにより、リワークに必要な時間は1日3時間(1.5時間x2コマ)で週4日のプログラムが可能になりました。
ちなみに、こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、週5日フルタイムでの出勤が可能な「復職可能の診断書」を提出するまでの期間は、平均3ヶ月でした。
多くのリワークが4〜9か月と期間を設けている中、こころの健康クリニック芝大門では、短期間で職場復帰準備性を高めるプログラムを実施できるのです。
このことは、リワーク利用者さんの経済的な負担を減らすことにもつながりました。
昼休みを含む6時間のリワークでは、医療費が1割負担で済む自立支援医療を適応しても、1日800〜900円の費用がかかります。週5日4週間で考えると、薬剤費も含めて月に16,000〜18,000円の費用がかかります。
一方、こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、1日3時間で450円程度ですから、月に7,200円程度で済みます。もちろん、リワークプログラム中に減薬を進めていきますから、処方箋発行料も薬剤費も減っていきます。
つまり、一般的なリワークの約4割の負担で、一般的なリワークの4〜9ヶ月に匹敵する以上の、費用対効果の髙いリワークプログラムが可能になったのでした。
休職してもある程度の期間は基本給が保障される傷病休暇制度が整っている会社はほんのひと握りの大企業だけです。
多くの場合は、休職中の収入は、給与の6割が保険者より支払われる傷病手当金だけになってしまいますから、4〜9ヶ月リワークに通うことで月に2万円弱の支出するのは、かなりの経済的な負担になります。
こういう面からもリワークの時間対効果、費用対効果を考えるようになったのです。
ちなみに私が産業医をしている企業では、復職に向けてリワークはお勧めしますが、必須としていません。こころの健康クリニック芝大門のリワークで受け入れることができるといいのですが、産業医と主治医は兼ねることができないので、やむを得ません。
リワークを勧める代わりに、月に1〜2回の産業医面談のなかで、こころの健康クリニック芝大門のリワークで用いている社会リズム療法、さまざまな精神心理療法、関係性療法などを指導し、職場復帰準備性を高めているのです。
院長