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「神経症性抑うつ」と「性格と間違われやすい気分変調症」

[2021.02.22]

年度末が近くなり、春の気配が感じられるようになったこの時期、こころの健康クリニック芝大門のリワークは卒業ラッシュを迎えています。

 

一方、適応障害の診断で休職し復職したけれども調子が悪いために、こころの健康クリニック芝大門のメンタルヘルス外来を初診される患者さんが後を絶ちません。

適応障害と診断されているにもかかわらず、抗うつ薬を処方されるだけで、主治医と産業医が休職に至った要因を明確にして環境調整を行わずに復職させてしまうと、適応障害は容易に再発してしまうのです。

 

「うつ状態」や「適応障害」の診断で半年以上休職されている人の中には、休職期間ギリギリになってリワーク(職場復帰支援プログラム)を申し込まれる方もあります。そのような場合は、診断あるいは治療のどちから、もしくは両方がマッチしていない可能性が多いようです。

 

「うつ病」や「うつ状態」あるいは「適応障害」と診断されているケースの中には、「神経症性抑うつ」と診断せざるを得ないケースが多く混在しています。

再休職とリワーク』や『適応障害の治療は抗うつ薬ではなく環境調整』で引用した『はじめての精神科』には、「パーソナリティの偏りに由来する抑うつ状態(治療というよりは自分の心とのつきあい方を学ぶべき)」とされているものが、「神経症性抑うつ」に該当します。

 

「神経症性抑うつ」とは、「通常、心痛体験後に明らかに続いて起こった不釣合なうつ状態を特徴する神経症性異常で、症状の中に妄想や幻覚を含まない。……不安と抑うつの混合状態もここに含まれる」とされています。(『ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店)

ICD-10では「神経症性抑うつ」は、「気分変調症」「混合性不安抑うつ障害」や、「適応障害」の下位分類である「遷延性抑うつ反応」等に分類されています。

 

「神経症性抑うつ」は状況依存的な症状の変動が特徴で、「呈する抑うつがうつ病よりも軽く、病像も曖昧で、抑うつ気分自体が外部の状況やストレスによって変動しやすく、当然経過も動揺性で治癒しにくい」とされています。(前掲書)

 

職場における神経症性抑うつの輪郭を知る上で、Horneyが提出した状況神経症の概念が役立つ。
Horneyはもともとの神経症性格が素地にある人がある特定の状況における困難にぶつかり、神経症を発症する一群の事例を状況神経症と把握する。

(中略)

神経症の症状の内容についてHorneyは詳しく記述していないが、例えば職場に行き上司と顔を合わせるのが怖い、そのため職場に向かう途中で、動悸、不安が生じる。また仕事をする意欲が低下し、集中力が出ないといった症状を思い描くことが可能である。つまり、神経症性不安(社会恐怖)をあわせもった神経症性抑うつがその1つである。

加藤: 職場のメンタルヘルスに見る内因性うつ病と非内因性抑うつの診分けと対応. 精神科治療学 27: 300-304. 2012.

 

上の引用の中で「状況神経症」と言われる部分が、多くの場合、職場不適応という意味での「適応障害」と診断されてしまうわけです。

 

「神経症性抑うつ」が「適応障害(反応性抑うつ)」と異なるところは、以下のような特徴が知られています。

 

①心身の疲労状態が起きていないこと
②心痛体験後に続いて起こったうつ状態であるものの、出来事との関連が不釣り合いであること
③外部の状況やストレスによって抑うつ気分が変動すること
④さまざまな自律神経症状を伴う不安など病像が曖昧であること

 

とくに「さまざまな自律神経症状を伴う不安」によって、身体表現性障害やパニック障害、あるいは社交不安障害と診断されていることもよくみかけます。この状態は、厳密には「混合性不安抑うつ障害」と診断されるところです。

 

また一方で、「神経症性抑うつ」が「うつ病(軽症内因性うつ病)」と診断されてしまう理由はどこにあるのでしょうか。

ちなみに「軽症内因性うつ病」は春日先生の本では「過酷なストレスによるうつ病(つまり一線を越えてしまった。治療も必要だし環境改善も必要)」とされていて、「心身の本質的なリズムの失調」を特徴とします。

 

(軽症内因性うつ病の)重要な指標は、

(1) 夜、いったん眠りについたものの、途中で何度も目がさめるという中途覚醒の頻発

(2) 朝がどうしても調子が出ず、集中力に欠け、午後から夕方になると自然と力が出てくるという自制的な気分変動としての日内変動

(3) ある場合には、朝全く仕事に手がつかないのに、夕方ぐらいから特別な理由もなしに調子が出てきて、いつも以上に仕事をしてしまうという、活動性の低迷と高揚が対になって出現する軽度の双極性の性格を帯びる日内変動、軽度の過活動の出現

(4) 食事を食べても砂を噛むようだという味覚異常、頭に重い甲をかぶったような、何とも言えない体の重苦しさ

(5) 時に(自分の)死のことがなんの理由もなしに時々浮かび、怖くなるといった言葉が聞かれることがある

等である。

患者は、自分の不眠や、一日の内での気分の波、食事の味覚異常などについて、病的であるという自覚はもてており、行動面で間違ったことはせず、パーソナリティとしての自律性は保たれている。なお筆者は、患者において一個の主体としての自律性が保持されている点から、この病態を内因性うつ病の「神経症段階」と呼んでいる。

加藤: 職場のメンタルヘルスに見る内因性うつ病と非内因性抑うつの診分けと対応. 精神科治療学 27: 300-304. 2012.

 

「神経症性抑うつ」は「性格と間違われやすい気分変調症」に分類されることもあるように、早朝覚醒や起床時の得も言われぬ気分不快、あるいは日内変動など、うつ病に特徴的な生体リズムの変調は伴わないにもかかわらず、「ボロが出ないように頑張る」など自律性が保持された上記(3)の部分によって、「うつ病(軽症内因性うつ病)」と誤って診断されてしまうのではないか、と考えられます。

 

「神経症性抑うつ」では、出来事との関連が不釣り合いであるとか、外部の状況やストレスによって抑うつ気分が変動する、あるいは、自律神経症状を伴う不安など、ストレス因に対する脆弱性が考えられています。

 

環境の変化に対して対応できない「適応障害の発症と症状の形成に大きな役割を演じている」と言われる「個人的素質あるいは脆弱性」には、「発達障害的特性が多い」と考えられていることを、『「うつ病」と間違われやすい「適応障害」と発達障害的特性』で説明しました。

 

「神経症性抑うつ」に含まれる「性格と間違われやすい気分変調症」の治療では、こころの健康クリニックの対人関係療法外来やリワークで行っているように、セルフモニタリングを通じて自分の心の仕組みと動き方を知る、感情とのつきあい方を身につける、メンタライゼーションを身につけることで自分の心を通して他者の心の状態を理解し、対人関係が構築できるようになることが治療課題になるのです。

 

院長

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