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「うつ病」と間違われやすい「適応障害」と発達障害的特性

[2020.11.25]

「ストレス性の出来事あるいは生活の変化」に対する順応反応がうまく機能しないために起きた、主観的な苦悩とともに情緒面の障害または行動面の障害を伴う「不適応状態」が「適応障害(反応性抑うつ)」です。

 

「うつ病」と間違われやすい「適応障害(反応性抑うつ)」は、ストレス因(ストレス性の出来事)あるいはその結果が終結すると症状は6ヶ月以上続くことはない、とされています。

 

「反応性の抑うつ状態」はどんなものか想像できますよね。皆さんの多くが経験されたようなことです。

試験に落ちたり、リストラにあったり、恋愛が破綻したり、そうした気落ちする出来事に直面すれば誰だって「うつ」っぽくなる。身体の病気を患っても、症状のつらさや経過に対する懸念から「うつ」に陥りやすい。

こうした経緯は分かりやすい。納得がいく。でも、(反応性の)うつ状態になるのは決して不自然ではないが、だからといってそれがそのまま「うつ病」のレベルにまで発展するとは限らない。大概は一過性のうつ状態で終わってしまうものでしょう。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

「適応障害(反応性抑うつ)」は一過性のうつ状態で終わってしまうはずなのですが、多くの患者さんが「適応障害」の診断で半年以上、場合によっては1年以上通院して抗うつ薬による治療を受けていらっしゃいますよね。

それで改善することはほとんどなく、時には1年半の傷病手当金の給付期間が切れる1ヶ月前になって、慌ててリワークを紹介されてくる患者さんもいらっしゃるのです。

 

北里大学の宮岡先生が、日経メディカルの記事の中でこう述べていらっしゃいます。

環境への適応力の弱い方が現在置かれている環境のストレスでうつ状態になった場合や性格的な脆弱性が問題になるうつ状態は、かつて抑うつ神経症という、あいまいであるが、詳細に問診しないと診断確定できない病名が用いられていた。

抑うつ神経症は適切な環境調整や精神療法が不可欠であり、抗うつ薬の効果は乏しいとされていた。

「新しい抗うつ薬」は優れているのか」日経メディカル

 

本来であれば環境調整によるストレス因の軽減が必要な「適応障害(反応性抑うつ)」に対して、環境調整や本人のコーピングスキルを改善することなく、漫然と抗うつ薬が投与されることで治りきらずに長引いていると考えられるわけです。

 

そもそも適応は、生体が環境と調和した関係を保つことで、刻々と変わる環境の要請に応じ、かつ自らの欲求も充足できることで、生体側の努力、環境への積極的な働きかけというニュアンスが含まれます。(濱田『精神症候学』弘文堂)

 

では、環境の変化に対して対応できない「適応障害の発症と症状の形成に大きな役割を演じている」と言われる「個人的素質あるいは脆弱性」とは何なのでしょうか?

 

多数派は生活上のストレスに関連したうつなのが現状である。これはつまり「広義の適応障害」である。ゆえに、この患者はなぜ適応に失敗したのか?と考えることが重要になる。

発症にストレスが関連していたとしても、同じ学級、同じ職場にいる他の人は適応障害になっていないのに、なぜ彼(彼女)は適応障害になったのであろうか?

(中略)

そもそも、適応障害のなりやすさは個体差が大きいのであるから、「適応障害になりやすい素因を彼が持っていた」可能性を考えざるを得ず、その素因とは何かと言えば、発達障害的特性が多いことが容易に想像がつくだろう。

村上「成人発達障害における「解説者」」in『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

「適応障害」の個人的素質あるいは脆弱性は「発達障害的特性が多い」と考えられていますよね。

 

ここでいう「発達障害的特性」とは、非障害性の自閉症スペクトラム(AS)や自閉症スペクトラム障害(ASD)に伴う「併存群」と呼ばれることがあります。

 

自閉症の特徴は強くないのですが、うつや不安障害など、本来の自閉症スペクトラムの特徴以外の精神的な問題が併存するために、生活の支障が生じてしまっている人たちです。

もちろん、自閉症の特徴が強く、なおかつ、他の問題も合併するひともいるので、重なり合いもあります。

本田『自閉症スペクトラム』SB新書

 

たとえば、妄想と幻覚ははっきりせず精神病的な面が明確でないものの、陰性症状(感情鈍麻、意欲低下)など「神経認知機能の障害」が少なくとも1年以上にわたって進行し、社交(対人)機能低下(社会認知機能の障害)が増大するにつれ、自分のことだけに没頭したり、怠惰で無目的になる(生きている意味がわからない)「単純型統合失調」は、現在では「自閉症スペクトラム障害(ASD)」との重なりが大きいと考えられています。

単純型分裂病では、仕事そのものはできても、自己流にこだわって立場をわきまえず、「何となく周囲から浮いてしまう」「一緒にやってもタイミングが合わない」などと評されることが少なくない。

濱田『精神症候学』弘文堂

 

対人関係の問題がある場合の休職と復職』で触れたように、「反応性抑うつ(適応障害)」の人や、社交不安障害や全般性不安障害などの「不安障害」と診断されている人の背景に、ASやASDの要素があり、後天的な学習が状況に応じて機能していない場合、「回避性」・「強迫性」・「自己愛性」・「妄想性」など、さまざまなパーソナリティの問題をきたしやすく、これらは職場復帰支援プログラム(リワーク)を阻害する因子の1つにも挙げられていることがあるのです。

「適応障害(反応性抑うつ)」で鑑別していく「パーソナリティ障害」については、こころの健康クリニックでは、初診時にクロニンジャーの「気質・性格検査」を行って鑑別をしていますよね。(『「うつ病」と間違われやすい「適応障害」の診断』参照)

 

それと同時に、2種類以上の抗うつ薬や気分安定薬、抗不安薬や睡眠薬など多剤が処方されている場合、神経認知機能の改善が阻害され、短期間で休職をくり返すことにつながっているようです。

抑うつ状態あるいは適応障害と診断されていて、数種類以上の薬剤が処方されている方、何度も休職を繰り返している方は、こころの健康クリニック芝大門のリワーク外来に相談してみてくださいね。

 

院長

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