摂食障害思考をメンタライズする
三田こころの健康クリニック新宿が芝大門に移転して、こころの健康クリニック芝大門としてリニューアルしてから、今日でちょうど1年目です。
(2km以上の距離に移転する際にはクリニックを一度閉院して新規開院とせざるを得ず、クリニック名も変えなければならず、患者さん方にはご不便をおかけしました。)
この地に移転しようと決めたのは、幸福を運ぶという言い伝えのあるツバメが飛んでいるのを目にしたからです。新宿御苑前はツバメの天敵であるカラスが多くて、ツバメの姿を目にすることはありませんでしたから。
そして今年4月には、摂食障害治療を専門に行ってこられた心療内科医であり産業医でもある風間先生を副院長としてお迎えして、過食や過食嘔吐などの摂食障害の一般外来を開設するとともに、メンタルヘルス外来も充実させることができました。
さて、こころの健康クリニック芝大門では、対人関係療法でもリワークでもメンタライゼーション(メンタライジング能力)を重視していますよね。
メンタライジング能力とは、自分と他者の行動と心理状態を関連させて理解することです。
自分自身の心を通して「人の心の仕組みと動き方を知る」ことが「協調性」の土台になる、と対人関係療法による治療の導入時に教えていますよね。
自分自身と他者についてのメンタライジングは、脳神経回路に共通する部分が多いことが知られています。
自分自身の心を通して、他者の心理状態を理解していくことで、自分自身との関係と対人関係(二者関係)のパターンが共通していることを理解していくのです。
つまり、対人関係上の機能不全を修正するには、メンタライジングの回復を支援することによって達成できるのです。
ジェニーさんは、行動の仕方を変えていくために、エド(摂食障害思考)に支配された状態から、エドを客観的に認識することに取り組まれていますよね。
この次にエドが私に話し始めたら、私はまずゆっくりと落ち着いて、深呼吸をしてみる必要があるでしょう。
エドの考えを即実行に移し、エドから離れそびれると何が起きるのかを、よく覚えておかないといけません。エドは私のことをいらいらさせて、もう私の手には負えないと思わせるんだということを、覚えておかないといけません。
この次に同じ状況になったときに一番大切なことは、自分自身をエドから引き離して、自分が何を考えているのかをはっきりさせて、エドが何を言わんとしているのかをきちんと認識することです。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
思考にとらわれてしまうと、思考の内容があたかも現実であるかのように感じられてしまい、抜け出すことが難しくなってしまいます。この状態を心的等価モードと呼びますよね。
ジェニーさんは、この状態を「エドの言葉しか耳に入っていない」と表現しています。
この状態から抜け出すためには、ジェニーさんがやっているように、思考から距離を取り客観的に観る視点を獲得すること、つまり自分自身に対するメンタライジング能力が必要なのです。
摂食障害行動にすっかり操作され、そのままそこに居続けて、なぜ症状が再燃したか理解しようとしたのです。
どうしてまた同じことをしてしまったのだろう、と考えました。同じことを防ぐために、これからは何をどう変えたらよいだろう。回復への道からはずれないようにするためには、今週は何をしたらいいだろう。
こうした問いは有意義なものだと、トムでさえ認めました。
ただし、炎に囲まれていないときに考える必要があるのです。シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
症状のぶり返し(再燃)の時だけでなく、普段の過食や過食嘔吐の時に、皆さんもジェニーさんと同じように「なんとか過食を止めたい」と考えると思います。
しかし、ジェニーさんが「炎に囲まれていないときに考える必要がある」と書いているように、衝動の波に乗る練習は、普段から、過食衝動が起きていないときに練習しておく必要があるのです。
これはたとえば、車の運転の練習に似ています。
初めて車を運転する人がいきなり路上に出てしまうと、事故を起こしてしまいますよね。
ですから、アクセルの踏み込む強さやコーナーの曲がり方について、教習所のコースの中で練習する必要があるのです。
この練習が「人の心の仕組みと動き方を知る」ことなのです。
普段から、自分が何を考えていて、どんな気持ちになって、身体にはどんな感覚があるのか、についてセルフ・モニタリングの練習をしておくからこそ、いざ過食衝動が起きたときに、衝動の波に乗りながら5分から10分ほど内面を探り(セルフ・モニタリング)、「何を感じているんだろう」とHALTをキャッチことができるようになるのです。
そのために、エド(摂食障害思考)との関係を変えようと決心すること、そして、変化に伴って誰しも感じる一時的な痛みを回避して苦悩や苦痛に変えない、という心の姿勢が必要不可欠です。
摂食障害から回復するためには、エドと私の関係性を変えることが不可欠で、そのためになら私は何にでも挑戦する、と決心する必要がありました。
(中略)
回復についてまわるつらさを自ら進んで体験しようという覚悟が必要でした。(中略)
「どんなことでもするつもり」というのは、たとえエドが脅しをかけてきても、あえて危険を覚悟しながらも行動する、という意味です。エドの脅しなんて、どうせ根拠も何もないのです。
回復のために、あなたは何をしようと思いますか。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
過食や過食嘔吐など摂食障害症状から回復するためには、現実と思わせ症状を引き起こしている摂食障害思考とのつきあい方を変える必要があります。
以前にも書いたことですが、思考は思考に過ぎない、思考は現実ではない、思考は自分自身ではない、などの普段の思考とのつきあい方から変えていく必要があるのです。
そして、思考に身体が反応して引き起こされた感情を受けとめることができるだけの心の枠組みを広げていくこと、つまり感情耐性を高めることが不可欠なのです。
院長
※日本摂食障害協会からのお知らせ
(1) 【無料・イベント】摂食障害について考える~私たちの主張2020~【2020年6月7日】
(2)【有料・オンライン講座】家族ができる神経性やせ症の食事支援【全6回講座】
(4)外出自粛で食事リズム乱れ 摂食障害の悪化が懸念
https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/202005/0013377234.shtml