治るということ
患者さんやご家族から時々こう質問されることがあります。
「病気はいつ治りますか?」「どのくらい(の期間)で治りますか?」
これは非常に難しい質問です。
なぜかというと、理由はいくつかあります。
一つは患者さんやご家族の考える「治る」がどういう状態を指しているかがわからない点です。二つ目は、治り方は人それぞれだということです。
ですから、一概に体重が何キロだから半年で治りますとか、こういう症状の人は3年かかります、というようなことは全く言えないのです。
では摂食障害が治る、摂食障害から回復する、ということはどういう状態を指すのでしょうか。皆さんはどう思いますか?
これは患者さんのご家族や、患者さんご本人ももしかしたら誤解されていることかもしれません。
摂食障害から回復するということは、例えば摂食障害の診断基準を満たさなくなった時でしょうか。標準体重に戻れば回復と言えるのでしょうか。過食や嘔吐、下剤の乱用をやめられたら治ったと言えるでしょうか。
私はそのどれもが摂食障害の回復を十分には説明していないように思います。
「摂食障害から回復するための8つの秘訣」では、摂食障害から回復した状態をこう説明していますね。
「回復した」とは、ありのままの体重と体型を受け容れることができ、身体に害を及ぼすような食べ方や運動をしなくなったときのことです。
「回復した」ときには、食べ物や体重はあなたの生活の中で重要な位置を占めることはなくなり、体重はあなたの存在そのものよりも価値のあるものではなくなっています。体重計が示す数値などは、まったく意味を持たなくなるか、持ったとしても参考程度でしょう。
「回復した」ら、健康を害して自分自身の心を傷つけてまでスタイルにこだわったり、小さいサイズの服を着たり、自分の決めた目標値まで無理に体重を減らしたり、などということはなくなります。
「回復した」としたら、摂食障害行動を使って、日常の他の問題に対処したり、問題を避けたりする必要はなくなるのです。
皆さんはこの文章を読んで、単に摂食障害行動(症状)がなくなったことを「回復した」と言っているのではないことに気が付いたでしょうか。
大切なことは、他者と比較せずありのままの自分自身を受け容れ、新しく身につけたスキルを用いて日常の問題に対処する、という点だと思います。
では私の場合はどうだったでしょうか。
治療の過程で様々な摂食障害行動や摂食障害思考が減っていき、生きることが少しずつ楽になっていきました。しかし、それでも私はどこか「ここじゃない」という感覚をずっと抱き続けていました。
その感覚から解放されたと感じたのは、心療内科というフィールドに身を置いた時でした。すとんと落ちたというのか、しっくりきたというのか、今までどこにも当てはまらなかったパズルのピースが、初めてぴったり当てはまった、そんな感覚でした。それは、私の心が望んでいた自分自身の生き方にたどり着いた瞬間だったと言えるかもしれません。
そこにたどり着くまでには本当に長い年月を要しましたが、ここまで導いてくれたのは治療者やサポーターの存在、そして自分自身の心だったと思います。心のままにやってみたいと思ったことにチャレンジし、しっくりきたら前に進んでみる。そうでないときは少し戻って方向転換。そんなことの繰り返しだったような気がします。
治療の後半は、こんな風に自分の生き方を模索していたのだと思います。蛇足かもしれませんが、私はこれまで長い間、自分は医師に向いていないとか小児科医には向いていないと考えていました。けれど、それは職業や診療科の問題ではなかったのかもしれません。
“何をするか”ではなく“どう生きるか”、という生き方の問題だったのだと今は思っています。私の場合は、心療内科での経験を通してそのことに気づかされたということだったのでしょう。
摂食障害からの回復。それはありのままの自分を受け容れ、自分らしく生き、そしてその生き方に合った行動をとれるようになっていることだと、私は自分の経験からそう感じています。