「過食性障害/むちゃ食い障害」の病理と治療
近年では、摂食障害のうち「特定不能の摂食障害」が38.6%と増えており、「神経性過食症(嘔吐を伴う過食症)」が37.8%、「神経性やせ症(拒食症)」23.5%と言われています。
とくに過食症や拒食症の罹患率はほぼ一定に対し、DSM-IVで「特定不能の摂食障害」とされた「過食性障害(むちゃ食い障害)」の増加が特徴とされています。
(「嘔吐のない過食症」と「むちゃ食い障害」はDSM-5では「過食性障害」となりました)
『ストレスを麻痺させるための「過食/むちゃ食い」の誘因』でふれたコットーネ(Cottone)助教らの研究では、標準的な食餌を与えているラットに糖分の多いチョコレート風味の美味な食飼を与えることを繰り返し、その後、標準的な食餌に戻すと、ラットは、摂食意欲の低下や、食餌摂取の拒絶、さらに不安を呈するようになったということです。
糖分の多い食餌を制限されたラットでは、恐怖や不安、ストレスに反応するとされる扁桃体で、ストレス関連のペプチドホルモンであるコルチコトロピン放出因子の増加が認められました。
このラットに糖分の多い食餌をふたたび与えるとラットは過食するようになり、不安に関連した行動は正常に戻り、コルチコトロピン放出因子が正常レベルに戻った、と報告されています。
これを人間に当てはめて考えると、「アレキシサイミア」や「気分不耐」がある人が、イヤな気持ち(ストレス)を緩和するために脂肪と糖分を含む食事を摂取することを繰り返すと、身体は高脂肪・高炭水化物食が通常の状態であると学習します。
そこで通常の食事に戻したり、ダイエットを行うと、身体はストレス状態と錯覚し、コルチコトロピン放出因子が増えるることで惹起されたネガティブな感情や意欲低下、不安に対する解消行動が過食衝動として表現されるということのようです。
何かストレスフルな出来事が起きているわけではなく、いつもの高脂肪・高炭水化物食ではなくなっただけですが、人間の場合は、コルチコトロピン放出因子による「感情と情動喚起に伴う身体感覚の区別が困難」、あるいは「ネガティブな感情や不安など感情を抱えられない」など「アレキシサイミア」に伴う「気分不耐」のため気分解消行動である過食が起きるということのようです。(『アレキシサイミアと情動対処行動〜多衝動型過食症』参照)
そう考えると「過食性障害/むちゃ食い障害」では、食事制限やダイエットにより反動過食が起きやすく、これらの時期を繰り返すことで病像が進行すると考えられます。
コットーネ(Cottone)助教らの共同研究者であるサビーノ(Sabino)助教は、過食とダイエットをくりかえすこの状態は、神経生物学的に、薬物依存やアルコール依存に起因する情動状態と類似していると述べています。
つまり、「神経性過食症(嘔吐を伴う過食症)」と異なり、「過食性障害/むちゃ食い障害」は情動対処行動による嗜癖・依存の病気という病態が含まれるということですよね。
(『「むちゃ食い障害」のサブタイプ(亜型)』参照)
対人関係療法での治療は、「過食症(自己誘発嘔吐を伴う過食症)」が、「役割期待の不一致」や「評価への過敏性」を中心に進めていくのに対し、このような「過食性障害/むちゃ食い障害」に対し、『対人関係療法では気分不耐をどう治療していくか』や『摂食障害の衝動性の背景』で書いたように、「出来事と感情、症状との関連」をみていくとともに、「気分変調性障害」に対する対人関係療法と同じように「これまでの乏しかった対人学習」に対して新しい対人スキルを身につけるという「役割の変化」の文脈で治療を進めた方がうまくいくことが多い、ということが三田こころの健康クリニックの実績でわかってきました。
心のアクセルとブレーキの使い分けを身につけることで、少しずつ、むちゃ食いは減ってくるということですよね。
院長