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愛着トラウマと発達障害

[2014.12.01]

浜松医科大学の杉山先生は書評『上岡陽江、大嶋英子「その後の不自由」』で、「複雑性トラウマの成人例は、実は発達障害の臨床像も、もち合わせていることが多い。」と述べておられます。
こころの科学 177: 105, 2014, 日本評論社)

たしかに、杉山先生が挙げられている例で「重篤気分調節症(DMDD)」では、うつ病に似た午前中の抑うつと境界型パーソナリティ障害でみられるような夕方や深夜の不快気分(イライラや怒りの爆発)があるようで、愛着形成の困難が原因ではないか、と考察されています。

この非定型で難治性の気分変動の起源は、学齢児の愛着障害の児童に認められる激しい気分の上下ではないか。
彼らには、抑うつとハイテンション(一般に午後になると)が認められる特有の気分変動があり、それが徐々に怒りの爆発など、気分調節不全へと発展する。
その背後には愛着形成の困難があり、それによって自律的な情動調律困難があるからこそ、この激しい気分変動が生じるのである。
「神経発達障害とは何か…杉山登志郎」in『発達障害のすべて』日本評論社

ということは「愛着トラウマ」である「発達トラウマ障害(DTD)」があり、その後の「修正アタッチメント体験」で改善されない状態は

・トラウマが、修正アタッチメント体験を凌駕している場合
・修正アタッチメント体験は十分だが、児側の適応が働かない場合

のうち、後者を考えていらっしゃるようですよね。

 

成人の臨床例で診ていると、愛着形成の困難があったかどうかの判断は難しいのですが、心の「外側(母子関係という二者対人関係)から内側(個人的内的過程)への変容発達」が未熟で、自分の精神状態は自分の心の働きであるという理解ができず、「自分の気分を悪くするのは他人や出来事そのものである」と他罰(外罰)的な対応に終始する方もいらっしゃることから、たしかに、広義の発達過程の障害と言えそうです。(『発達障害・愛着障害から「ボーダーライン・チャイルド」へ』参照)

 

また愛着形成とはちょっとずれるのですが、7〜11歳の小児期(学童前期)にいじめを受けた体験は、青年期早期(20代前半)から中年期(45〜50歳)の精神的苦痛を増し、うつ病や不安障害、自殺念慮を増やすなど後々までネガティブな影響を残すことが報告されており、小児期の不安、対人関係の困難、健康状態、社会的状況などにより脆弱性が増大すると考えられています。

さらに杉山先生は子ども側だけでなく、親の側にもトラウマあるいは発達障害があるとおっしゃいます。

しかし受診して軽快をしたという例がきわめて少ない。
その理由を考えてみると、トラウマを抱える症例にはトラウマ処理が必要であるが、その視点が治療者側になかったこと、気分変動に対して、うつ病と診断され抗うつ薬のみが処方されると逆に悪化していること、たとえ双極性障害としても難治性で、一般的な気分調節薬の服用による治療のみでは気分変動を止めることが非常に困難であることがあげられる。
この難治性の理由は、先に述べたように気分変動の引き金にフラッシュバックがあるからである。
この親は、つまりは、発達凸凹を基盤にもつ複雑性トラウマである。
「神経発達障害とは何か…杉山登志郎」in『発達障害のすべて』日本評論社

 

典型的な「発達障害(自閉症スペクトラム症)」と定型発達者の間に広がる「発達凸凹(Broad Autism Phenotype)」は小児期には診断されず、思春期〜青年期、あるいは成人期に、不適応をきっかけに生来的な発達障害の特性が強く表現されるタイプで成人の精神科臨床では、かなり多く診られます。

これらのことから考えると、発達障害が先か、トラウマが先かということはさておき、愛着トラウマや不適応という環境要因によって発達障害らしさが顕著になるだけでなく、各発達段階(年齢)に応じて特異的な表現型を示すようになるということですよね。

つまり「非定型で難治性の気分変動」や「感情がコントロールできない」などの症状を示す「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」や「双極性障害」、あるいは「過食症/むちゃ食い障害」と診断されている人は、トラウマという視点での診断見直しが必要ということですよね。

 

とくに愛着トラウマを含む愛着障害や複雑性PTSDの場合、そもそもソーシャルサポートの乏しさや
トラウマを受けた時点でのストレスによってフラッシュバックが明確でないPTSDとして「慢性のうつ病」のような症状を呈することも多いのです。

 

しかし、多くのカウンセリングや心理療法では、クライエントの病態水準の問題(脆弱性)やパーソナリティの問題(パーソナリティ障害)とみなされ、個人の問題とするアプローチがなされてしまいます。
また、一般の精神科でも抗うつ剤や抗不安薬などが投与され、あくまでも個人が対象になっていますから、これらが遷延化の一因にもなっているようです。

個人の内面に焦点を当てるやり方では、トラウマで最も影響を受ける「周囲の人たちへの信頼感(ソーシャルサポート)」の回復は期待できないだけでなく、他者との関係性で育まれる「自尊心(自己肯定感・自己効力感)」の回復も望むことができませんよね。

 

三田こころの健康クリニックで行っている対人関係療法では、「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」や
「過食症/むちゃ食い障害」の背景にある「愛着トラウマを含む愛着障害」や「複雑性PTSD」の治療も可能ですので、感情コントロールがうまくいかないと感じられている方は相談してみて下さいね。

院長

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