さまざまな年齢での摂食障害の発症
摂食障害は、思春期から青年期女性に好発しやすいことが知られていますが、近年、働く女性あるいは既婚例など30〜40歳以降の遅発発症や、前思春期(8〜14歳)の若年発症もまれではなくなり、今年の第17回日本摂食障害学会総会では摂食障害の若年化がテーマになっています。
若年発症の場合、『摂食障害と「役割の変化」』で挙げたストレス要因のうち、家族内葛藤(同胞間の葛藤)から母親の関心を引くような形で発症するものが多く、また、「やせ願望」「肥満恐怖」という摂食障害に特異的な心性を欠き、摂食障害としては非定型的であるのが特徴です。
(『「回避/制限性食物摂取障害」と子どもの摂食の障害』参照)
一方、遅発例(青年期以後の発症)では、思春期・青年期に摂食障害を発症していて、就職や結婚・妊娠、あるいは離婚や身内の死などライフイベントにともない再発・増悪する場合と、あらたに発症する場合が含まれます。
「働く女性(独身)例」では、自尊心の低さや上司、同僚、家族からの支援の低さが発症と関連していることが知られていますので、対人関係療法を適応する場合は「役割の変化」という誘発因子や、もしくは「役割期待の不一致」や「対人関係の欠如(評価への過敏性)」などの維持因子に注目することで治療は可能です。
また「既婚例」では、結婚前発症例では思春期・青年期例と同様、ダイエットが契機になっている事がほとんどで、結婚後発症例は夫婦関係や結婚生活での危機が多く、一部で妊娠に伴う身体変化がきっかけになることもあります。
この場合、「役割の変化」や「役割期待の不一致」が焦点になることが多いのですが、行き詰まりから再交渉へのプロセス、もしくは別離のプロセスをたどる際に友人や家族のサポートやリソースがあるかどうかが対人関係療法を進めていけるかどうかの大きな鍵になります。
再発・増悪の場合をのぞき、30〜40歳以後の青年期以降に発症する「遅発例」の特徴は、夫の死、子どもの独立や結婚など喪失体験、結婚生活および家庭生活の危機、身体疾患の罹患などが挙げられており、心理葛藤の中でも対人関係の希薄さや喪失体験が低体重や身体症状として表現され、症状による他者支配を試みる可能性が指摘されています。
そうなると対人関係療法で扱っていく症状で語るのではなく、自らのコミュニケーションパターンを変えていくというやり方はすごくマッチしますよね。
しかしながら、長年の間に身についたコミュニケーションパターンを対人関係療法の期間限定の間で変えられるかどうか、つまり生き方を変えるくらいのかなりのモチベーションが要求されますし、ソーシャルサポートやリソースがどのくらいあるかが対人関係療法の重要なポイントになりそうですよね。
院長