摂食障害の回復に関与する因子
[2013.10.21]
『「待てない」気持ちと短期精神療法』で書いたように、対人関係療法も含まれる短期療法では治療効果が一番伸びるのは8回までと言われていますし、認知行動療法(これも短期精神療法)でも最初の数週間における治療での変化の程度が転帰の有力な指標となると言われています。
また、治療初期の食行動と社会適応の改善が予後を予測する因子となることがわかっています。
では摂食障害が回復するとはどういうことなのでしょうか?
一般的には「拒食症」では、標準体重の-15%未満まで体重が回復し月経が再来したものとされていますし、「過食症」では過食嘔吐が月に1回以下とされています。
これまでの報告では、
過食嘔吐がないこと(「過食症・非排出型」あるいは「むちゃ食い障害」) パーソナリティ障害を伴わないこと 治療までの症状持続期間が短いこと 入院治療が短期間であること 両親との関係が良好であることなどが予後良好の因子として報告されていました。 『摂食障害の回復過程に関与する因子の検討』によると(岡野百合・他、総合保健科学:広島大学保健管理センター論文集 vol 29: 1-6, 2013)、初診時の家族内葛藤の有無より、治療開始後の家族の理解や支持が、回復にとって重要と考察されていました。 対人関係療法でも、治療は患者さん任せにせず、ご家族も回復のプロセスを歩んでいただくことになっていますから、この考察は理に適っていますよね。 また親しい友人のサポートやソーシャルサポートが回復にとって非常に重要であること、バイトやボランティアなどの社会活動の体験、あるいは他者からよい評価を受ける体験が回復を促進する要素になったことが示されています。 摂食障害のため交遊関係から孤立してしまう場合も多いのですが、対人関係療法では「心のブレーキを外すトレーニング」としてソーシャルサポートの再構築を行っていきますよね。 またストレスに対して、回復初期では情緒的な反応(感情爆発)は改善するものの、冷静に判断し客観的な対処を行えるようになるにはより時間がかかるのではないかと考察されていました。 対人関係療法でも、気持ちは感じた以上正当なものと認め、感情を抑圧(あるいは爆発)するプロセスではなく、
何が起きたのか?(整理・位置づけ) 本当はどうなって欲しかったのか?(期待) そのためにはどうしたらいいか?(現状を変える)というスキルを身につけていくことが治療目標になりますから、16回の治療が終わってからも、治療の中で学んだことを生活の中で続けていくことで対人関係のストレスが軽くなり、自分のコミュニケーションに自信がついて、精神的に楽になってから、徐々に過食は減ってくるのです。 もう一つ重要なことが、社会適応が良好だった6割が回復のプロセスで不安や抑うつを呈したということでした。 この不安や抑うつは病的なものではなく、その他のいろんな病気の回復のプロセスでみられます。 ある意味、中年期のうつ病も「人生の午後」と言われるように、それまでの生き方を振り返り、新しい生き方を始める際の変曲点、立ち止まってメタモルフォーゼ(変容・変態)するためのインキュベーション(培養・潜伏)の時期と考えられています。 摂食障害では感情爆発や過食嘔吐に結びつく情緒的反応が改善し、心のなかで不安や抑うつなどのネガティブな感情を抱えることが出来るようになったという「心の体力がついた」状態ですよね。 院長