解離をともなうトラウマ関連障害
小児期に虐待やいじめを経験した場合、成人期の行動や情動にどのような影響を与えるか?ということはいまだによくわかっていないようです。
「愛着の問題(反応性愛着障害)」は、養育者からの不適切な養育(虐待やネグレクト、養育者の頻繁な交代など)により幼少期の対人関係の特異的な行動のことですが、成人すると「愛着スタイル」になるのかあるいは別の問題が生じるのかもよくわかっていません。
いずれにしても、下の図を見ていただければおわかりになるように、不適切な養育環境は「性格・性質」を通じ、「人格(パーソナリティ)」の形成に影響をするようです。
三田こころの健康クリニックで診ていると、幼少期に「反応性愛着障害」や「脱抑制性社交障害」の診断基準をおそらく満たしていたと考えられる人は、それぞれ「回避性パーソナリティ」「スキゾイド・パーソナリティ」、あるいは「依存性パーソナリティ」「境界性パーソナリティ」など、パーソナリティ特性としてアセスメントすることが多い印象でした。
(『反応性愛着障害・脱抑制性社交障害』あるいは『パーソナリティ障害と対人関係の障害』参照)
いじめは、後にどういう影響をおよぼすのか?についての論文が発表されていました。
予想に違わず、いじめの被害者では成人期に
・パニック障害
・広場恐怖症
・全般性不安障害
を有する頻度が高く、加害者/被害者(どちらも経験)では
・うつ病
・パニック障害
・広場恐怖症(女性のみ)
・自殺傾向(男性のみ)
という結果だったそうです。
男性と女性では、いじめに起因するストレス対処法が異なり
女性では回避傾向
男性では自殺傾向
が見られたそうです。
このことに関連して、新しいDSM-5では、PTSDに「解離型」が含まれていて、30日間以上持続する「離人感/現実感喪失」などの解離症状は
・女性よりも男性に多い
・小児期に発症する
・分離不安や特定の恐怖症との併存が多い
・小児期の逆境的体験が多い
・PTSDの発症以前に体験した外傷的な出来事が多い
・役割遂行障害が多い
・自殺傾向が強い
などの特徴が見出されています。
つまり、生まれつきなんらかの脆弱性を持った人が、親の精神疾患や物質(アルコールや薬物)乱用、家庭内暴力、親の離婚などの逆境的環境に暴露されることにより(当然、愛着の根本である安全基地の確保は困難)、これらが心的外傷として体験され、解離という症状で適応して生き延びたと考えられます。
ここで重要なことは、単回性の心的外傷ではなく、内容よりも回数が問題であること(II型トラウマ)、特定の種類の心的外傷との関連はないなど、より複雑性トラウマに近いということですよね。
(『愛着とトラウマのまとめ1~トラウマとは何か?』参照)
『対人関係療法でなおす トラウマ/PTSD』にエクスポージャーをベースにした治療が上手くいかない人の特徴として以下の3つがあげられています。
(1)苦痛に耐えて怒りや不安などの感情に対処することが苦手
(2)ストレス下で解離しやすい
(3)治療関係を維持するのが難しい
いずれも、子ども時代に虐待を受けた人には典型的に見られる特徴(42ページ「複雑性PTSD」参照)です。
つまり、抑うつ状態や不安を呈する場合、幼少期のライフイベントの聴取が必須であると同時に、解離がある場合はPTSDの効果的な治療法である「暴露療法(エクスポージャー)」が無効であることもあり、治療に関しては、解離の症状と現在の対人関係を含む出来事との関連を見ていく対人関係療法の方が向いているかもしれないということですね。
院長