気分変調性障害(慢性うつ病性障害)と心の発達
『性格と間違われやすい「慢性のうつ病(気分変調性障害)」について』で、気分変調性障害(慢性うつ病性障害)の患者さんに特徴的な『認知の枠組みに関わる内容(=「すりガラス」)』について触れ、罪悪感・自責感を伴う「前操作的」思考と抑うつ状態が現れる様子をダイアローグで示しました。
『慢性うつ病の精神療法』の著者であるマカロウは、慢性うつに陥っている人に特徴的な現象として、対人的認知に関わる思考が、通常の因果的系列を構成しないことを指摘しています。たとえば、慢性うつ病(気分変調性障害)の人はある出来事から、読心術的に他人の思惑を勝手に読み取り、"自分が特別に否定されるべき存在だ"というような客観的視点からかけ離れた結論を導き出す傾向にあるといいます。
マカロウは、このような特徴をピアジェのいう『前操作的段階』、つまり他者の視点・立場から物事を考えることが難しい、客観的根拠のない直観的思考の段階にとどまっているといいます。
ピアジェのいう「操作」とは、物事を空間的・時間的に順序立てて思考することですから、「操作=論理的思考」と考えていいと思います。
つまり「前操作期」は「前理論的思考段階」ということで、「3つの山問題」で示されるような他者の視点の欠如あるいは客観的視点の欠如した状態ですよね。
慢性うつ病患者は、理論的な反論や思考、その他の批判的分析的な認知技法を受けつけない。患者は治療者の前で、まるで独り言を言っているようだ。
また、その思考過程は、本質的に前理論的段階にある。彼らは共感的に交流することができないし、配偶者や友人、指導者、職場の同僚から受け取った反応やフィードバックに応じて行動を変化させることがない。
慢性うつ病患者は、対人関係において「閉じた」認知情動システムを示す。
手短に言うと、慢性うつ病の成人は、5歳から7歳の子どもと同水準の原始的な心的水準で機能している。
『慢性うつ病の精神療法』ジェームズ・マカロゥ
「共感的に交流することができない」ということは、「他者をよりよく理解するために、自分自身のパーソナリティを他者のパーソナリティに投影すること」が出来ないということで、「他者の視点で物事を見ることが出来ず、他者を理解出来ないばかりか、他者から理解してもらえない」ということになります。
『性格と間違われやすい「慢性のうつ病(気分変調性障害)」について』でのダイアローグでも示したように、慢性うつ病性障害(気分変調性障害)の患者さんは『逆接の接続詞を使って、否定語(症状)でコミュニケーションする』という特徴がありますから、「他者から理解してもらえない」どころか、自分の行動が他者にどのような影響を与えるのか、あるいは、他者の言動に自分はどう影響されているのかという「関係性の理解に困難がある」ということをマカロゥは『「閉じた」認知情動システム』といっているのですよね。
このような慢性うつ病性障害(気分変調性障害)の患者さんは、「5歳から7歳の子どもと同水準の原始的な心的水準で機能している」ということですので、ピアジェ(Piaget)の認知発達論をみてみましょう。
こうやってみてみると、ピアジェのいう「前操作期」は、「心の理論」の第二水準の獲得と重なっているようです。
上記の「関係性の理解に困難がある」というこの疾患の特徴は、アスペルガー症候群や発達障害などの自閉症スペクトラム障害と重なり、ほとんどが14〜16歳で発症する早発型・気分変調性障害(慢性うつ病性障害)のうち5〜8歳で発症するタイプは
○生来的にアスペルガー症候群や広汎性発達障害など自閉症スペクトラム障害を有する「軽症感情病性気分変調症」「無力型気分変調症」
○愛着/トラウマ関連の慢性うつ状態を呈する「性格スペクトラム障害」「不安型気分変調症」
の2つのタイプに分けられそうです。
これらについては『如実知自心』の「さまざまな「慢性うつ病性障害」2」で触れる予定ですので、お楽しみに。
次回は、気分変調性障害(慢性うつ病性障害)患者の「読心術」的なコミュニケーションの特徴(症状によるコミュニケーション)についてみていきましょう。
院長