気分変調性障害(慢性うつ病性障害)とコミュニケーション
『性格と間違われやすい「慢性のうつ病(気分変調性障害)」について』で、気分変調性障害(慢性うつ病性障害)の患者さんの特徴的なコミュニケーション・スタイルについて
慢性うつ病(気分変調性障害)の人はある出来事から、読心術的に他人の思惑を勝手に読み取り、"自分が特別に否定されるべき存在だ"というような客観的視点からかけ離れた結論を導き出す傾向にあるといいます。
と書いています。
マカロゥは慢性うつ病性障害(気分変調性障害)患者にみられる「「閉じた」認知情動システム」を「読心術」と呼んでいます。
「読心術」とは、何の情報も与えられていないのに他の人が何を考え、感じ、どんなことをしようとしているのかについての「推測」(不正確な「読み」あるいは「決めつけ」)のことで、「いつも」「また」「けっして」「絶対」「たぶん・きっと…にちがいない」などの表現で現実の出来事から遊離し、非適応的解釈(想像)を現実と思ってしまう「認知的フュージョン(現実と想像の混乱)」が起きてしまうのです。
このような前操作的パターンの定型発達の小児と成人慢性うつ病患者の共通点として、6つの特徴を挙げています。
一つ一つの特徴を、『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』から具体例をあげながらみていきましょう。
①一般化した前理論的な思考
前提が正しいかどうか吟味したり、仮説が正しいかどうか検証することなく結論づけること、さらに「いつも」「また」「けっして」「絶対」などを用いて一般化した結論を導き出す傾向にあります。
例「高校受験の時に自分の頑張りがきかなかったから、すっかりだめな人生になってしまった」
②他者の理論的思考に影響されない
自分の行動が周囲に人にどのような反応を引き起こしているかがわからないということです。
例「ツクシさんは自分はいつも人の中で浮いてしまうと悩んでいました。他の人たちは親しそうに話しているのにツクシさんだけはとけこめないのです。周りとのやりとりについてよく聞いていくと、話しかけることはおろか、ほほえみかけることすらほとんどしていないのです。また、他の人たちが話しているときにも、ツクシさんは決して近寄らず、興味がありそうな顔もしていないことがわかりました。」
③自己や他者に対する見方が自己中心的
自己中心的に振る舞うことで、他の人が自分の領域に入れないようにしてしまいます。
例「上司でもない人から一方的にあごで使われたらふつうは問題にすると思いますが、慢性のうつ病をお持ちなので、そういうふうに自分に厳しい物の見方をされるのですね。」
「……はい。でも、本当にそうなんでしょうか?コピーをちょっと取ってあげるくらい、大人なら文句を言わないでやるべきことではないんですか?」
④言語的コミュニケーションは独白的
声を出して考えているかのようであり、相手の反応によって発現の形式や内容は影響を受けません。
例「ハコベさんは毎年とてもきちんと仕事をしていただいていて、みんな頼りにしているんです。そんなことおっしゃらずに、今年もお願いします。」
「いえいえ、困ります。今年こそ大失敗して皆さんにご迷惑をおかけしてしまうと思います。」
⑤対人関係で心から共感する能力が乏しい
「よいこと」も、単によいこととして捉えることが出来ず、むしろ、「よいこと」の中に悪い要素を見つけて要約落ち着く、という人も多いのです。
例「上司は「もっとメンバーに任せたらどうだ」とも言いましたが、それもリーダーとしての自分の指導力不測を指摘されたと思ったのです。自分にもっと指導力があれば、メンバーはもっときちんと仕事をするはずだと思ったからです。」
⑥ストレス下での感情コントロールが苦手
社会的な失敗を繰り返すことにより、ついにあらゆる状況下で失敗するようになる。制御不能な不快気分がすべての道の行き着く先に待ち受けるようになります。
例「どうして自分はこんなに同じようなミスを繰り返すのだろう」「こんなに単純なミスを繰り返している人なんて、他にはいない」「こんなことでは社会人として申し訳ない」「みんなが本心では私に呆れているはず」
このような特徴を持つ前操作期の小児と「慢性うつ病性障害(気分変調性障害)」の成人の違いは、正常な子どもは発達途上にあるのに対し、「慢性うつ病性障害(気分変調性障害)」患者は、発達過程で「前操作期」に固着あるいは退行し、単に暗い過去の再生であるかのように構築してしまう、という点にあります。
この特徴は、ある意味、一生かかって取り組んでいく課題になりそうで、治療が終結した後も常に意識(アウェアネス)を向けておく必要があり、そうでないと、徐々に現実の出来事から遊離し、非適応的解釈(想像)を現実と思いこみ、妄想的な考えに支配されてしまうこともよくあるのです。
ちなみに。
三田こころの健康クリニックでは、原則として決まった予約以外の面接は受けていません。
それでもいろんな事で衝撃を受けて、「具合が悪くなったから、診察を早めてもらえないか」「電話で相談したいことがある」とメールや電話で希望されることがあります。
しかし、電話やメールでの相談は限定されたコミュニケーションのため、理解の相違だけでなく、後にわびしさ、物足りなさ、怒りなどが残りやすく、対人関係療法の治療にとってはあまりいい影響がありません。
そもそも。
面接そのものが治療なのではなく、面接と面接の間の1週間が本来の治療なので、つらさを心の中に収めておくことも治療の一環ですし、そのプロセスで
何が起きたのか(出来事の位置づけ)
本当はどうなって欲しかったのか(期待の整理)
そのためにはどのようなコミュニケーションを取ればいいか(行動)
ことを考えてみることが対人関係療法のやり方ですよね。
上記の「具合が悪い」という曖昧な表現は「曖昧な非言語的コミュニケーション」や「間接的な言語的コミュニケーション」に相当しそうです。その結果、「自分の言いたかったことが違う形で伝わってしまう」「相手の言いたかったことを誤解して不適切な対応をしてしまう」「言いたい事がいえない(沈黙)」などの不適切なコミュニケーション・パターンに陥ることが多いようです。
言わなかったことは永遠に伝わらないだけでなく、後から「ほんとうはこうだった」と言い訳をすると自分の気持ちを推察しなかった相手に責任を押しつけるような結果になり、相手との基本的な信頼関係にもひびが入ってしまいます。
相手に遠慮して言わなかった・言えなかったということは、決して誠実な態度ではないということを理解しておいて下さいね。
次回は、21歳以降に発症する晩発型・気分変調性障害(慢性うつ病性障害)が、どのようにして「前操作期」に退行するのかをみていきます。
院長