双極性障害の対人関係-社会リズム療法(IPSRT)による治療〜その3・心理社会的治療
双極性障害は、生物学的要因が関与する割合が他の疾患より高く、そのため、薬物による治療に重点が向きやすいのが現状です。
しかしその一方で、薬物療法だけでは病相のコントロールが困難で、不安定な病状や再発が繰り返される場合も少なくなく、心理社会的要因に焦点を当てたアプローチが見直されていますよね。
(日本うつ病学会・双極性障害とつきあうために)
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心理社会的(精神療法的)アプローチで行っていくことの主なものは以下の6項目です。
下のリストを三田こころの健康クリニックで行っている「対人関係-社会リズム療法(IPSRT)」を
・社会リズム療法
・対人関係療法
・心理教育
と分けてみるとこんな感じになります。
(1)心理教育
①双極性障害の原因、症状、合併症、治療に対する知識
②活用できる社会資源など
③服薬遵守性(コンプライアンス・アドヒアランス)
④家族の理解をうながす(2)症状のマネージメント
①気分と行動・病相への気づき(モニタリング)
②睡眠覚醒リズム(日本うつ病学会・睡眠覚醒リズム表)
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③社会リズム(三田こころの健康クリニックでは導入としてオリジナルの行動記録を使います)(3)対処技術(コーピング・スキル)の修得・向上
①刺激(生体リズム・活動の量と質)のコントロールと予測
②コミュニケーション能力の向上
③問題解決技法の習得(4)家族および社会との関係の構築・改善
①病気と人格を区別する
②双極性障害対策チームをつくる(5)学校および職場における機能の改善・維持
①周囲の人の理解(6)再発防止
①心理教育
(日本うつ病学会治療ガイドライン・双極性障害も参照してください)
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双極性障害に対する「対人関係-社会リズム療法」を考案したエレン・フランク教授は、もともと認知行動療法の治療者でしたが、対人関係療法に感銘を受け、対人関係療法の治療者に転向したそうです。
そのせいか、社会リズム療法の刺激のコントロールの考え方にある「自分自身の状態を客観的に見つめる」という要素は、まさにマインドフルネスを重視する第三世代の行動療法的ですよね。
この社会リズム療法のポイントの1つである「刺激のコントロール」は、左脳の「理性」の暴走、「考えすぎ(思考病)」による過度の興奮と熱中、あげくのはてに懸念や心配事、自己憐憫のとりこになってしまうというエネルギーの空費をストップし、「理性」のもともとの目的である、生命エネルギーを浪費させないようにする、ということなんですよ。
「刺激のコントロール」は、左脳の暴走を止め、左脳と右脳の協調関係を取りもどし、「自分自身の状態を客観的に見つめる」状態を作っていくことにより、行動の「抑制/活性」のバランスをとる、つまり「行動のバイオフィードバック」みたいな感じですよね。
「自分自身の状態を客観的に見つめる」状態を実現するための技法として、思考(左脳)優位の人には、マインドフルネス(観:ヴィパサナ)が向いているでしょうし、情感(右脳)優位の人には、アウェアネス(止:シャマタ)が向いていると感じています。
このことは、またいつか別のエントリーで書いてみますね。
双極性障害は、生物学的要因が関与する割合が多いため、どうしても「できないこと」に注意が向きがちですが、社会リズム〜刺激のコントロールという視点は、出来ることを増やしていく、まさに「力に目を向ける」エンパワーメントなやり方ですよね。
水島先生がエレン・フランク教授から言われた「役に立つことならなんでもやりなさい」というその言葉を私も水島先生からいただきました。
三田こころの健康クリニックで行っている社会リズム療法のバリエーションであるオリジナルの行動記録もそうですし、マインドフルネスやアウェアネスなどのやりかたも、患者さんが本来持っている「力」を発揮する一助になればと願っています。
ちなみに。
社会リズム療法について「対人関係療法を双極性障害向けにアレンジしたものを社会リズム療法と呼びます。」と書いてあるサイトを見つけて、腰が抜けるほど驚いてしまいました。
院長