摂食障害からの回復への道のりで感じる不安
こんにちは。
こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタです。
こころの健康クリニック芝大門の対人関係療法では、治療を始める前に治療の準備性を高める(行動を変える準備を整える)ためのサポート面接を行っています。
今回は、このサポート面接中の患者さんたちの心の動きに注目して、治療を開始するとき、そして継続するときに感じる不安についてお話してみたいと思います。
サポート面接の中で、「良くならないのではないかと思うと…」と言って涙をこぼされた患者さんがいらっしゃいました。
ある患者さんは、三食の食事を摂れるようになり、課題図書を読みながら自分自身と向き合うことを通して過食症状がほとんど起きなくなったことで、治療へのモチベーションが下がっていることを教えてくださいました。
この患者さんのお話を伺っていくと、症状が治まってきて、これから本当の問題に取り組むことになることを理解していて、その本当の問題に向き合うことの不安、つまりその問題を解決できるのだろうかという不安があったことに気づかれました。
※本当の問題とは、体型や食べ物へのこだわりという形で表現されることで隠されている本当に向き合うべき事柄のことです。
多くの患者さんが、「本当に良くなるのだろうか」、「良くなっているのだろうか」と不安を感じながらも、治療に申し込まれ、取り組んでいらっしゃいます。
新しく何かを始めたり、今までと違うことを試してみたりするような変化を起こすときには、わくわくする気持ちと同時に不安な気持ちを感じるものです。
先のことは誰にもわからないですから、そのようなときに不安な気持ちになるのは無理もないことです。
ですが、こういった「良くなるのだろうか」「うまくいかないのではないか」という不安を苦手に感じる方は少なくありません。
誰でも苦手なことは避けたり抵抗したくなりますよね。
時には不安を避けようとして行動を起こすこと自体をやめてしまうこともあるかもしれません。
摂食障害の方であれば、この不安を避けよう(感じないようにしよう)として過食や過食嘔吐をしたくなるかもしれません。
(※治療を始めると症状が増えることもあります。これまで避けてきた感情に向き合うことになるので一時的に症状が強まることは良くあることなのです。ですが、決して後ろに進んでいるわけではないことをお伝えしておきますね)
うまくいかなかったときに、後悔したり、がっかりしないように最悪な結果を想定することで気持ちに保険をかけようとするかもしれません。ですが、そのような想像上の最悪な結果がいつの間にかこれから起こる真実のように思えてきてしまい、ますます不安になってしまいます。
あるいは、想像上の結果を避けようとして、失敗しないように完璧にやり遂げようとするかもしれません。そうすると、治したいという気持ちがいつの間にか完璧に治さなければならないという「べき思考」にすり替わってしまい、行動を起こすことが苦しくなったり、やる気を失ってしまうかもしれません。
何のために摂食障害から回復したいのでしょう。。。
その答えは人によって様々ですし、回復の段階を進む中で変わることもあります。治療を始める前の熟考期や準備期の段階では何のために回復したいのかはっきりしない人もいらっしゃるかもしれません。
具体的な理由が見つからなくても、乱れた食行動で苦しんでいらっしゃる方であれば、今のつらい状態から抜け出したいという気持ちをお持ちだと思います。
中には、自分のためというよりご家族に心配をかけたくないという想いで治療を始められた患者さんもいらっしゃいましたし、治療者のサポートに応えたいという気持ちもあって治療を続けていると教えてくださった方もいらっしゃいました。
そういった方たちも、少しずつ変化を起こす中で、自分の声(自分が本当に必要としていること)を聴くことの素晴らしさに気づいていかれます。
少し話がそれましたが、このように今のつらい状態から抜け出し少しでも自分を楽にしてあげたいという気持ちや誰かのためにという気持ちから起こそうとしている行動を、「べき思考」によって義務にしてしまうのはもったいないですよね。ましてや、失敗する前提になって行動を起こすこと自体をやめてしまうことは本末転倒になってしまいますね。
冒頭の患者さんのように、行動を起こす前にうまくいかないのではないかという不安で前に進めないのでしたら、そう考えて不安になっていることをただ認めてあげてください。それは人間だれしも感じる自然な感情なのですから。
そして、先のことがわからなくて不安になっている自分を労わってあげてください。
うまくいかないのではないかと不安に思うのは、それだけ摂食障害から回復したいと思っていることの裏返しなんだとわかってあげて、何のために回復したいと思っているのか自分に尋ねてみてください。
何のために回復したいのかが少しでも見えたら、回復への道のりを進むために今何ができそう?と尋ねてみてください。
そうやって少しずつ回復への道のりを進んでいきましょう。