医療リワークと慣らし勤務を組み合わせた職場復帰
主治医による職場復帰可能の判断(診断書)が提出されると、産業医面談を経て、職場復帰可否の判断が行われます。
職場復帰「不可」と判断された場合は、大手企業では、リワークプログラムへの参加が義務づけられると同時に、産業医による月1回の面談が行われることが多いようです。
『自分に必要なリワークプログラムは何か』で触れたように、一般に「リワーク」と呼ばれる職場復帰支援プログラムには、医療機関が行う「医療リワーク」、企業内で行われる職場復帰支援プランである「職場リワーク(リハビリ勤務)」、そして、地域障害者職業センターやリワークセンターなどで無料で行われている「職業リハビリテーション(リワーク支援)」、の3種類があります。(「リワークプログラムについて」参照)
自分に必要なリワークプログラムは何か
このうち「医療リワーク」は、職務の継続が困難になった理由である「疾病性(症状)」の軽減・改善することに重きをおきます。そのため、こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、心理社会的治療をメインにしているのです。
また、企業内で行われる「職場リワーク(リハビリ勤務)」は、慣らし勤務あるいは時短勤務などを行う中で、「事例性(勤怠・安全・パフォーマンス)」の改善度合をみていくための勤務トライアルと位置づけることができるでしょう。
ここで、個人が特定できないようにいくつかのケースを組み合わせた、架空のケースを提示します。
仮にAさんとしましょう。大手企業の関連会社に勤めていらっしゃる方です。
会社の産業医の先生から、こころの健康クリニック芝大門を紹介されて受診されました。
産業医の先生からの情報によると、今回が3度目の休職だそうです。
数ヶ月前に通院先の主治医から復職可能の診断書が提出されたのですが、生活リズムが整っていなかったため産業医面談で復職不可と判断され、リワークを指示されたそうです。
Aさんが通われたのが各地にあるリワークセンターでした。リワークセンターでのリワークは、「職リハ・リワーク(リワーク支援)」と呼ばれています。
「職リハ・リワーク」では、4〜5週の準備期間で、生活リズムや調子の把握確認(※医療機関ではないため気分ではなく調子としか書けないことに注意)、復職に向けた課題の整理を行ない、約4ヵ月のリワーク支援を受けたそうです。
また人事担当者と上司は、「リワーク支援」の担当者から、復職時の受け入れ態勢や復職についての考え方の確認のほか、社内体制や復職時の業務見通し、労働環境等の状況などについて、会議等への参加を依頼されたそうです。
4ヶ月の「リワーク支援」を終えた時点で、Aさんから「リワークを卒業できたから復職したいので、産業医面談をお願いしたい」と要請があったそうです。(『どのくらいの期間リワークに通えば復職できるか』参照)
どのくらいの期間リワークに通えば復職できるか
産業医の先生がAさんに復職可能の診断書について尋ねると、「主治医の先生は、『リワークが終わったんなら復職してもいいんじゃない?』、と言っていた」との返事だったそうです。
産業医は診断や治療はしてはならないと定められているので、疾病性(症状)が回復しているのかどうかについての情報がないことに戸惑われたそうです。
リワーク支援(職リハ・リワーク)では、「復職の可否を判断するためのサービスではない」ことが明記され、Q&Aに以下のことが記載されています。
① センターは、リワーク支援の結果を踏まえた復職の可否判断を行っていません。
② 復職が可能か否かの判断は、休職者の回復状況、企業の受入態勢、受入れに当たっての制度利用や条件整備、業務内容の設定等を含めて、企業が行ってください。
産業医の先生は、「リワークが終わったんなら復職してもいいんじゃない?」との主治医の意見を受けて、「主治医は復職の判断ができないのではないか?」と考え、Aさんの復職可能性についての評価を、こころの健康クリニック芝大門にお願いされたのでした。
日本うつ病リワーク協会版「職場復帰準備性評価スケール(PRRS)」でチェックしてみると、Aさんには昼間の眠気がかなり残存していました。
また同時に、対人関係の問題、つまり、上司に対するネガティブな感情(トラウマ感情)が残っており、復職可能レベルには達していませんでした。(『発達障害特性を有する適応障害への対応』参照)
また、同時に行った松沢病院版の職場復帰準備性評価では、《復職準備期②:午前中からも外出できるようになる。集中力や理解力も戻ってくる》にとどまっていました。
このまま復職しても上司との関係が再燃するだろうと予測されたので、その旨を産業医の先生にお伝えしました。
Aさんが「職場リワーク(復職プラン)」の第一段階である半日慣らし勤務を1ヶ月続けた後、再度、職場復帰準備性の評価を行いました。
職場復帰準備性評価スケール(PRRS)は1ヶ月前とほとんど変わりませんでした。
とくにF作業能力(集中力・業務への関心・業務遂行能力)とG準備状況(上司との接触・業務への準備)の回復は不十分で、復職可能レベルには達していませんでした。
松沢病院版・職場復帰準備性評価でも、《復職準備期③:出社を模した通勤訓練が、継続してできるようになる》であり、フルタイム週5日の勤務が可能なレベルではありませんでした。
第2段階の短時間勤務に移行してもいいものかどうか、産業医の先生も困っていらっしゃいました。
Aさんに持参していただいた「職リハ・リワーク(リワーク支援)」のプログラムを見ていると、あることに気づきました。
「職リハ・リワーク(リワーク支援)」は、精神症状がほとんどなく、業務遂行能力の向上を目的とする人に向いているプログラムと思います。
しかし、病気(疾病性)のために業務遂行能力に問題(事例性)が生じた人には向かないプログラムといえますよね。
こころの健康クリニック芝大門のリワークは、平日4日間、半日のプログラムで、セルフモニタリングとともに、セルフケアと対人関係へのストレスコーピングを含めた心理社会的治療を行っています。
Aさんの会社の産業医の先生には、慣らし勤務(リハビリ勤務)の残り半日をこころの健康クリニック芝大門のリワークに通っていただくことを提案し、受け入れてもらえました。
さらに、Aさんはこころの健康クリニック芝大門に転院していただき、認知機能障害を改善するために前医で処方されていた抗うつ薬と抗不安薬を漸減し中止しました。
Aさんは半日慣らし勤務、半日リワークという生活を続け、抗うつ薬も抗不安薬も服用せずに済むようになり、症状(疾病性)の改善はこころの健康クリニック芝大門のリワークで判断し、勤怠・安全・パフォーマンス(事例性)の改善は産業医の先生に判断していただき、約2ヶ月で無事に復職ができたのでした。
院長