何がストレス反応を引き起こすのだろうか?
年度末の三月、そして新年度の四月は、進学、異動、転勤、引っ越しなど、さまざまな変化にあふれ、それに伴い人間関係も変化する時期です。
このような変化の時期には人間はストレスを感じやすいと言われます。
そもそもストレスとは、「外界からの刺激によって引き起こされる緊張状態をストレス反応、その原因となる刺激をストレッサーという。そしてストレスとはこの一連の現象を包括的にとらえた概念であるといえる」(『心は鍛えられるのか』)と説明されます。
生体は刺激(ストレッサー)に対して一時的に緊張状態(ストレス反応)を呈し、適応しようとします。「ストレス反応を単にネガティブな問題として受け止めることは、生存のために本来必要で不可欠な適応過程そのものを排除することにつながってしまう」(前掲書)と言われます。
ストレッサーは、個人レベルから災害など地域社会を巻き込むようなレベルまで様々です。
たとえば1ヶ月を超えない「短期抑うつ反応」や、2年を超えない「遷延性抑うつ反応」、あるいは「混合性不安抑うつ反応」などの「適応障害」が多い会社では、ほぼ全員がストレス因に曝露されている状況と考えることができます。
その反応(註:ストレス反応)は個人だけでなく所属する組織にまで広がっていく。個々の職員にストレスの影響が現れると、組織内の雰囲気や人間関係が悪化しやすい。そして生産性の低下、事故の増加はさらなる士気の低下を招き、悪循環に陥ることもある。
したがってストレス対処においては単に個人の反応を観察するだけでなく、組織に現れている反応にも注意を向けておく必要がある。
藤原、他『心は鍛えられるのか』遠見書房
「情動の伝染」と呼ばれる上記の現象は、「さまざまな状況において、人がお互いの気持ちを拾い上げたり、自分たちが知覚したことに強く影響されたりする」わけです。(『鬱(うつ)は伝染(うつ)る。』)
2015年から50人以上の従業員がいる職場での、ストレスチェックの実施が義務化されましたよね。
ストレスチェックは適応障害や抑うつ状態のスクリーニングが目的ではなく、労働者にストレス状況についての気づきを促し、メンタルヘルス不調のリスクを低減させるために実施する一次予防を目的とした検査です。
私たちが何らかの刺激や要求に直面したとき、その瞬間、そして自動的に不安や怒りなどの反応が発生するわけではない。自覚の有無にかかわらずこのようなとき、私たちはその刺激が自分にどの程度関係し、影響するものなのか、さらには自分にはそれに対して対処することができるのかという判断(認知的判断)を行っている。
たとえば仕事上の問題が発生したとき、それは自分が担当する正面の問題なのか、そして対応可能な問題なのかについて判断する。それが自分が対応すべき問題であり、さらに対応困難な問題であった場合、始めてそれはストレッサーとして認識され、不安やイライラなどの情動反応が発生する。
藤原、他『心は鍛えられるのか』遠見書房
高ストレスと判定された労働者は、産業医等の医師による面接指導(高ストレス者面談)を受けることが勧奨されます。
高ストレス者面談では、ストレス反応と呼ばれる身心の反応について、不安やイライラ、急に涙が出てくるなどの情動的反応のほかに、寝付きや目覚めの悪さ、あるいは中途覚醒などの睡眠覚醒リズム、仕事が進まないとかミスが増えるなどの思考力・判断力の低下、行動パターンの変化や身体症状についても聴取します。
またストレス反応を引き起こしたと考えられるストレッサーについて、仕事の量が多いのか、仕事の内容が困難なのか、仕事の質が能力とマッチしていないのか、あるいは、仕事の進め方についての同僚や上司との意見の食い違いがあるのかなど、心理的要因だけでなく、身体的要因、物理環境的要因など、ストレス反応とストレッサーのバランスをみていくのです。
またストレスに対する緩衝因子とされる上司や同僚と、どのくらい気軽に相談できるかについてのサポート要因も考慮に入れます。
会社や企業は産業医の意見を聴取し、業務負担の軽減や休職などの就業上の措置を講じることで、労働者のメンタルヘルス状態の悪化を防ぎます。これが二次予防です。
同じような問題が起きても、個人がそれをどのように受け止めるかによって、ストレッサーとなるかどうかの結果は異なるといえる。
(中略)
したがって基本的には、問題に直面しストレス状態にある人が、いかに効果的なストレスコーピングを採用し、実行することができるかが重要であるといえる。
藤原、他『心は鍛えられるのか』遠見書房
しかしながら、ストレス因がほとんどなく、ストレス反応だけが大きく出ている人もいらっしゃいます。
こころの健康クリニック芝大門のリワークプログラムに通院された方の中にも、ストレス因よりもストレス反応の方が大きく、その状態を「適応障害」や「抑うつ状態」と診断されていた方も多いのです。
「メンタル不調に陥った人の多くは、元々の病気やストレスの原因以上に、こうした思考の悪循環によりさらに大きな苦しみを背負っていることがわかる」(前掲書)と、思考の悪循環についても言及されています。
脳は、経験を通じて測定可能なレベルで変化する。そうした経験には社会的経験も含まれる。経験と脳の化学反応の関係は双方向であり、単に一方通行というわけではない。少なくともあなたの脳があなたの経験することに影響するのと同じくらい、あなたが経験することがあなたの脳にも影響しているのである。
そのため、ゴールは、自分のために、自分の脳を新たな役立つ方法で刺激してくれるような新しい経験を探し出したり、つくり出したりすることで、脳を再教育することなのである。
ヤプコ『鬱は伝染る。』北大路書房
「外部からの刺激に対して、努めて感情的にならず冷静に向き合うこと、さらに思いこみや過去の経験にとらわれず、事実をありのままにとらえることが重要である」(前掲書)という指針が、「自分の脳を新たな役立つ方法で再教育する」ということですよね。
こころの健康クリニック芝大門のリワークプログラムでは、対人関係療法による治療のすすめ方に沿って、「自分の脳を新たな役立つ方法で再教育する」ことを「自分自身との関係を改善する」「行動の仕方を変えていく」と説明しているのです。
院長
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