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摂食障害だから食事が摂れない

[2020.12.11]

生活リズムが乱れていたり、1日3回の食事摂取が困難な患者さんに対しては、なぜ3食食べることが大切なのかを説明していますよね(院長ブログ「聴診器」の“摂食障害からの回復の土台になる規則的な食事の確立”もぜひ参考にしてみてください)。しかし、そのような話をすると「摂食障害だから3食食べられないんです。それができるならここには来ていません。」という反応が返ってくることも少なくありません。確かに患者さんがそう言いたくなる気持ちもよくわかります。そこでこんなふうにお話しすることがあります。「“摂食障害だから食べられない”という枠をいったん外してみませんか?」と。お話を伺うと、例えば炭水化物が怖くて食べられないとおっしゃる方が、好きなお寿司やパンだけは食べられるということがあったり、友達とは一緒に食事ができないけれどパートナーとだったらできるということがあります。病気の真っただ中にいるときは、どうしても実行するのにハードルが高いことを「できないこと」ととらえがちですよね。ジェニーさんは、著書の中で「できない」と「しない」の重要な違いについて述べていますよね。

「できない」と言うときには、私には選択肢がなく、私の行動に対する責任を私自身が引き受けていません。それに対して「しない」では、私には選択肢があって、私の行動に対して、私がすべての責任を引き受けます。「過食はしない」と言うときには、私は自分の行動の全責任を引き受けています。私は私の人生に積極的に関与し、勝手に他のものに私の生活を操作させないのです。

(中略)

考え方を「できない」から「しない」に変えただけですが、それは私が、主体的に自分の人生の選択をしているということを示しています。

ジェニー・シェーファー、トム・ルートレッジ著 「私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した」より

皆さんもきっと経験があると思いますが、「できない」という言葉には私たちが無力で無能な人間だと信じ込ませ、圧倒するような負のパワーがありますよね。しかし、「しない」という言い方に変えたとたん、自分には選択肢があり、右も選べるけれど今回は左を選んだのだという主導権が戻ってきますよね。さらに、自分で選んだわけですからそれは自分の責任を引き受けるということを同時に意味しているのです。そのうえで、例えば1日1食の人でしたらまずは1日でよいので1日2食にトライしてみませんか?とお話ししています。

思い返してみると、私自身も大学時代は過食以外満足な食事をしていませんでした。例えば朝はヨーグルト1個、お昼は大学構内のコンビニで悩みに悩んで選んだサラダと豆乳、そして夜は「今日こそは絶対しない」と固く決意するのに毎回過食嘔吐してしまう。そんなことの繰り返しでした。朝起きると顔はむくんで身体はだるくて気分は最悪でした。真夏でも身体はいつも冷えていて、冷房の効いた教室で1日中授業を受けていると、冷えすぎて泣きそうになるほど足が痛くなっていました。過食しているとき以外は1日のほとんどが飢餓状態でしたから、常に頭の中は食べ物のことでいっぱいで集中して授業を受けることができませんでした。自分の経験からも言えることですが、過食(過食嘔吐)と絶食の連鎖を断ち切るためには、やはり3食食べることが必要不可欠なんですね。絶食して身体が飢餓状態になれば、次の食事は必ず過食になります。そして過食すると、体重増加を何とか防ごうとまた空腹を通り越して身体が飢餓状態になるまで次の食事を摂らない。ですが、実はこれが最も太りやすい食べ方なんですよね。私もそうでしたが、あれほど食べたいものを我慢して体重やカロリーを気にして食べることにほとんどのエネルギーをかけていた頃と比べて、今はカロリー計算もせずに食べたいものを食べ、きつい運動もしていませんが、体重がどんどん増えていくことはありません。むしろ過食嘔吐がひどかった時期よりも数キロ少ない程度で安定しています。このからくりについて、「摂食障害から回復するための8つの秘訣」ではこのように説明していますよね。

拒食したり、嘔吐したりすることによって身体に入る食べ物の量を減らそうとすると、それに反応して身体は、消化活動や代謝機能など、ほとんどの身体機能を抑えて、エネルギーをなるべく消費しないようにします。つまり、エネルギーをできるだけ多く蓄えるようにするのです。

(中略)

摂食行動を正常にすると、身体は、これからも定期的に必要な栄養をもらい続けられると安心し始めます。身体に定期的に栄養を与え続けると、代謝率は正常に戻るのです。頭で語りかけて説得しても、運動をして強制しても、代謝は正常に戻せません。代謝率を元通りにしても大丈夫だと体に伝えるためには、定期的に健康的な食事をする方法しかありません。もしそのまま食べ物を制限し続けて、身体が代謝を落としエネルギーをため込もうとする自然なプロセスを逆転させないままでいると、やがて代謝は元に戻りにくくなり、時間が経てば経つほど健康的な体重がますます維持しにくくなります。

(中略)

代謝活動を健康で活発な状態にするためには、定期的に頻繁に食べることが一番なのです。逆に代謝を遅くしたいのでしたら、断食または食べ物を制限するのが一番です。

キャロリン・コスティン、グエン・シューベルト・グラフ著 「摂食障害から回復するための8つの秘訣」より

私自身もそうですが、「〇〇だから△△できない」という言い方をほとんど無意識のうちに使っていた、ということは皆さんも経験があるかもしれません。一見もっともらしそうなことに聞こえてしまうのですが、本当にそうなのか?と一旦その枠組みを外してみると新たな道が見えてくるかもしれませんね。

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