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「適応障害」なのに「うつ病」リワーク?

[2020.07.29]

復職可能の診断書とともに復職希望願いが提出されると、産業医はその社員さんと面談を行います。

 

産業医面談では、①生活状況(睡眠・覚醒リズムや食事)が安定しているか②身体的な負荷や心の負担が一晩で回復できているか、そして③集中力や注意力など職務に必要な持続力が回復しているか、などをチェックしていきます。

 

ところが中には、患者さんが希望したという理由で復職可能の診断書が出される場合もあるのです。

あるいは、メンタルクリニックで薬物療法のみが行われ、不眠や抑うつ、不安など初診時の症状がある程度改善し、患者さん(社員さん)も主治医も治ったと判断し復職可能の診断書が出される場合があります。

 

復職可能の診断書を提出された社員さんと面談をして、生活状況をお聞きすると、定時起床、疲労回復、集中力・注意力の持続ができておらず、復職不可と判断せざるを得ない場合もあるのです。

 

定時起床、疲労回復が達成できていても、仕事に耐えられるだけの注意力や集中力の持続が回復している状態にあるとは言えないので、社員数が多い会社や企業であれば、職場復帰支援プランを適用することになります。

会社によって職場復帰支援プランの内容は異なりますが、試し出社と、少しずつ業務時間を延ばしていくリハビリ勤務がなされることが多いようです。

 

しかし中には、職場復帰支援プランは問題なく行えて復職したとしても、その後、休職してしまう経過を繰り返す社員さんもいらっしゃるのです。

職場復帰支援プランや職業リハビリテーション(職リハ・リワーク)では、復職準備性を的確に評価することができないことが一因ではないか、と『自分に必要なリワークプログラムは何か』で説明したことがありますよね。

 

一方、医療機関で行われている医療リワークが万全かというと、そうでないことも多々あるようです。

 

たとえば、会社から指示されたとの理由で、自分にとって役に立つかどうかわからないリワークに、復職の免罪符をもらうためのアリバイとして通う人も少なくありません。

それに、医療機関で行われるリワークプログラムの平均実施期間は約250日(約6ヵ月程度)とされ、休職の残り期間との兼ね合いで医療リワークを利用できない社員さんもいらっしゃいます。

 

精神科産業医として医療リワークに通われる社員さんを見ていると、プログラムがうつ病に特化して画一的に行われていることが、医療リワークの最大の問題点であるように思えます。

 

一般にリワークプログラムは、①個別活動などの個人プログラム、②認知行動療法などの特定の心理プログラム、③疾患教育や社会心理教育プログラム、④グループシェアリングやプレゼンテーションなど集団プログラム、⑤運動療法やレクリエーションなどその他のプログラム、で構成されています。

 

社員さんから、あるクリニックのリワークで行われている、疾患教育プログラムのノートを見せてもらったことがあります。

そこでは「適応障害」の内容が「うつ病(大うつ病性障害)」として説明されていて、非常に驚いたことがあります。

 

「適応障害」は、過重労働や仕事上のミスだとか、大きなトラブルなど、はっきりとしたストレス因のためにキャパ・オーバーになり、3カ⽉以内に症状が出現したものを指します。しかしストレス因から離れると、6ヵ月以内に回復するとされています。

ですから復職する場合、適応障害では元の職場環境の調整が必要になるのです。

 

一方、「うつ病(大うつ病性障害)」は、仕事上のミスが続いたとか、上司や同僚と上手くいかないことが続いていたりする、慢性的なストレス状態の積みかさね、あるいは、部署異動や昇進、引っ越しや環境の大きな変化などが重なっている状態に、些細なきっかけ(最後の麦わら)で発症するので、これといった誘因がはっきりしないことが多いのです。

 

大うつ病性障害は、「急性期」の静養と療養、「回復期」の体力・集中力・コミュニケーション力のリハビリテーション、そして「維持期」には、リハビリ勤務を始めて少しずつ元の職場環境に慣れ、勘を取り戻していく、という段階を進んで回復していきます。

 

ほとんどのリワークプログラムは「うつ病モデル」に準拠していて、上記の①〜⑤の要素を含み、回復期のリハビリテーションをもとに考えられていますよね。ですから、疾患教育はうつ病とか双極性障害とか、診断名にもとづいた内容に偏ってしまうのだろうと考えられます。

 

リワーク施設の規模にもよりますが、20〜30人程度のリワーク施設では、大うつ病性障害の患者さんだけが通っていることはまずありません。「適応障害」や、一般人口の10人に1人いるといわれる「自閉症スペクトラム(発達障害)」の方の職場適応不全症候群がほとんどです。

「適応障害」やその他の疾患あるいは診断基準のどれも満たさない状態が「うつ病」と診断され、休職にいたってしまう件に関連して、9月下旬頃から『社会的うつ』というシリーズで問題点を考えていく予定です。

 

「大うつ病性障害」であれば、元の部署、元の職務に戻って、徐々に元のパフォーマンスを発揮していただければいいのですが、主治医の先生からいただく情報提供書には復職時の注意事項で、コミュニケーションの促進や、職場環境の調整(部署異動や職務内容の変更)をお願いされることがほとんどです。

いかに適応障害や職場不適応症候群が多いか、おわかりいただけると思います。

 

元々、労働契約にもとづいてその業務に就いたわけですから、異動や職務の変更を行うことができない場合もあります。

会社は営利企業であって福祉施設やリハビリ施設ではありませんから、適応障害の社員さんにとって、仕事上の困難を乗り切る最も適した方法は、仕事を覚え仕事に慣れていくことです。

 

私自身、うつ病リワーク協会の会員でリワーク認定スタッフとして認定されています。もちろん、こころの健康クリニック芝大門はうつ病リワーク協会の会員リワーク施設として登録されています。

しかし精神科産業医として「うつ病リワーク」を考えた場合、軽症や非定型のうつ状態などの適応障害、あるいは自閉症スペクトラム(発達障害)が増えている世情と、リワークで行われているプログラムが合致していないのではないか、と感じる今日この頃です。

 

院長

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