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自分自身に対する信頼感

[2019.05.13]

過食症:食べても食べても食べたくて』の「第2章 怖がらずに何でも食べる」で、リンジーさんが過食症から回復するまでの道のりを、「前熟考期」「熟考期」「準備期」「実行期」という「行動変容を動機づける5つの段階」の観点から、その時々でとり組んでいく課題とともに解説してきました。

 

その時々の課題は、「自分との関係を改善する」「行動の仕方を変えていく」「他者との関係を改善する」の3つに分けられます。

「自分自身との関係を改善」していくプロセスの一番最初は、過食や過食嘔吐が自分の何にどのように役立っていたのかを理解し、過食や過食嘔吐を使わずに済むためのスキルを身につけ、そして、自分の考え方のパターンや「行動の仕方を変えていく」課題に取り組みます。

 

だんだんと、私はただ自分自身であることが快適になっていきました。

失敗しない完璧さと自立のイメージを保とうと常に必死でしたが、今では、内気さ、自分の意見、恐れを隠すことはやめたのです。

自分が何者であるのか、またなぜそうなのかを理解し始めると、過食症がいかにうまく私に貢献してくれていたのかもわかるようになりました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんは、「自分に正直になる」という目標を立て、「全か無か思考(完璧主義思考)」という自分自身に対する「評価」を手放しました。(「「○○しなきゃ」は自分を苦しめる」参照)

その過程でリンジーさんは、過食症症状が持つ意味についてわかるようになりました。

 

リンジーさんは、『8つの秘訣』の「秘訣6 自分の行動を変えるということ」と同じような「食べることを許す」「問題行動をしてしまったときの決まり」などの課題に自力でとり組みながら、「秘訣5 やはり食べ物の問題なのです」の「食べ物の決まり」「食べ物とのつきあい方」「満腹感と空腹感」にとり組んでいったプロセスがわかりますよね。

 

空腹の信号に気づいて、それに応じて食べることができるようになっていました。

もう食べ物を怖がることはありませんでしたし、栄養のある食事も、今まで禁止していたデザートも、すべて楽しんで食べることができるようになったのです。

満腹になれば食べるのをやめ、おかわりすることにもお皿に食べ物を残すことにも両親の呵責は感じなくなりました。

自分の中の食に対するルールに従うこともないですし、強迫的な儀式はやめました。

本当に、怖がらずに食べられるようになったのです!

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんの回復過程を読んでみると、過食や過食嘔吐そのものがなくなることは、回復というゴールに向かって進んでいく時に当然通過するマイルストーンであり、過食や過食嘔吐がなくなること自体が最終目標なのではない、ということがわかりますよね。(「回復とは過食嘔吐を手放すことではない」を参照してくださいね)

過食や過食嘔吐からの回復のゴールは、対人関係療法でも強調するように「充実した人生を送ること(ライフ・ゴール(人生の目的))」なのです。

 

過食症は私という存在のあらゆる側面に浸透していたので、過食嘔吐をやめることは回復の一部にすぎませんでした。

次第に、単純な会話から切迫した危機的状況に至るまで、あらゆる状況に対する見方や経験の仕方が大きく変化していきました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

怖れを手放す』に「私たちの気分を悪くするのは、他人や出来事そのものではない。それに対する自分のとらえ方である。とらえ方を決めるのは、自分のこころの姿勢である」というフレーズがあります。

リンジーさんは「とらえ方」を「見方や経験の仕方」と表現していますよね。

 

私たちは、相手を主語にした「決めつけ」や「一般化のしすぎ」によって、「自己関連づけと他者への非難」を生み出し、出来事を受動形で体験して、「否定的思考」にどっぷりとはまり込んでしまいます。
そして、「全か無か思考(白黒思考)」によって、良い/悪いという「評価」に縛られてしまいます。(「自分をいじめる私たち」を参照してみてくださいね)

この「評価」のプロセスが「とらえ方」です。

摂食障害特有のこの「とらえ方」によって、生きづらさや苦しさが生み出されるのです。

 

リンジーさんが「内なる自己」「内なる自己の智慧」と呼ぶ「こころの姿勢」については、今日は簡単に、自分の思考に対するメタ認知的気づき(アウェアネス)と説明しておきますね。

 

いったん、誠心誠意正直に振る舞おうと決めると、他人が望んでいると思うことについて心配しなくなり、自分自身の必要としていることに集中できるようになりました。

自ら最善の決断ができると信じられるようになったことで、私を常に正しい方向へと導いてくれる、内なる自己を発見したのです。

私はこの内なる自己の智慧に経緯を払うようになり、世の中でそれを表現してもよいのだと思うようになりました。

この私の内なる自己は、それ以来私が行ってきた、すべてのことを導いてきたのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

「他人が望んでいると思うこと」は、『8つの秘訣』では「心の読みすぎ」と説明されています(p.125)。つまり、自分の頭の中の1つの考えを現実であると思い込んでしまうのです。

そして、「心のフィルター」や「自己関連づけと他者への非難」を発展させてしまいます。

この「心の読みすぎ」から抜けることができるとどう感じるか、リンジーさんの体験を読んでみましょう。

 

覚醒時に体験しているのは、大概は穏やかさであり、私自身に対する信頼です。

ただし、幸福を感じたり、緊張したり、自分のことを誇らしく感じたりもしますし、イライラも満足も心配も悲しみも経験します!

たいていの場合、私は——私のお気に入りである——愛情深い、という状態でいようと思っています。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんは、「誠心誠意正直に振る舞う」ことを通して摂食障害特有の「とらえ方」を手放し、「内なる自己(自分の内なる真実)」に対する信頼感を培いながら「維持期」に移行したのでした。(『素敵な物語』「第16章 自己主張〜自分に正直であるということ」も参照)

 

院長

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