食行動異常と強迫スペクトラム障害の合併
『摂食障害と強迫性障害の関係』で、過食をともなう摂食障害の約60%に何らかの不安障害を合併し、そのうち約40%が強迫性障害と報告されていることを書きました。
「拒食症(神経性やせ症)」では、強迫性障害の合併が高いことはよく知られていますが、過食症の方が強迫性障害の合併が多いという報告もあり、その論文では「制限型の拒食症」、「過食嘔吐を伴う拒食症」「過食症」の順に強迫性障害の合併率が高かったとされています。
摂食障害の中核病理である「ボディイメージの障害」は、「他者から観察できないあるいは些細な欠陥の認識」に対する「とらわれ(観念)」と「外見の心配に反応した、反復的な行為(例:鏡での確認など)、または心の中の行為をする(例:他者と自分の外見を比較する)」という「醜形恐怖症」と共通の病態を呈する場合もあるのです。
ちなみに「醜形恐怖症」は強迫スペクトラム障害の中で、「身体へのとらわれを有する群」に包括されています。
摂食障害と強迫性障害の合併例では、強迫症状として対称性や整理整頓が多く、社会機能が有意に低い例が多いといわれています。
三田こころの健康クリニックを受診された「過食」症状のある患者さんたちのうち、強迫スペクトラム障害を合併していた方では、強迫行為より強迫観念が多く、
攻撃的な強迫観念(何かばつの悪いことをするのではないかと恐れる)
宗教的な強迫観念(実直性)(道徳面について過剰に心配する)
その他の強迫観念(適切な言葉を使っていないのではないかと恐れる、どうでもよい内容の想像が頭に侵入してくるのに悩まされる、ある種の音や雑音に悩まされる)
などが多く、強迫行為では、
繰り返される儀式的行為(読み返しや書き直しをする)
抜毛や自分を叩く、頭をぶつける
などが多くみられました。
さらに、そうではないと保証されても、顔、耳、鼻、目や体のその他の部分がぞっとするほど醜いのではないかと恐れる「醜形恐怖症(身体醜形障害)」や、捨てた後でいつか必要になるかもしれないことを恐れて捨てられない「ため込み症」もわりと多くみられました。
また強迫スペクトラム障害を合併した患者さんでは、過食症やむちゃ食い障害と診断できた患者さんはごく少数で、「食行動障害あるいは摂食障害」というカテゴリーのうち、チューイングを含む排出性障害または回避・制限性食物摂取障害の方がほとんどでした。
患者さんが強迫スペクトラム障害が主たる病態を形成していても、体重減少あるいは摂食量の減少があれば「拒食症」、体重減少がなく摂食量が多いと訴えられれば「過食症」と、自覚的な「摂食量」や、食行動異常のみが主診断とされ背後の強迫スペクトラム障害を診断されていた例は皆無で、加えて、患者さんの生きてきた文脈も全く考慮されていませんでした。
「選択的摂食」を伴う「回避・制限性食物摂取障害」と診断したある患者さんは、「拒食症」という診断で、体重で枠組みを設ける行動療法を受けなんとか退院したい一心で、食べ物じゃないものも食べて(異食症)頑張って体重を戻して退院しても、決めたものしか食べられずに次第に体重が減っていき、なんども入退院を繰り返す生活が20年近く続いている、とおっしゃっていました。
この患者さんは、ある高名な先生に入院時の行動制限をトラウマと診断され、トラウマ治療が必要ということで三田こころの健康クリニックを紹介されたのです。
でも実際にはトラウマ症状はまったくみられず、強迫スペクトラム障害に対する認知行動療法を紹介して
すごく感謝されたことがあるのです。(このケースについては稿を改めて書きますね)
このように、食行動の異常があれば摂食障害と安易に診断され、強迫スペクトラム障害に気づかれずに摂食障害の治療を受け、挙げ句のはて、効果がなかったからトラウマという訳のわからない診断をされている患者さんもいらっしゃるのです。
食行動の問題を抱えている、あるいは摂食障害かもしれないと思われる方は、三田こころの健康クリニックで正確な診断を受けてみてくださいね。
院長