過食や不適切な代償行動の頻度と重症度
DSM-IV-TRからDSM-5への変更で、過食や不適切な代償行動の頻度に変更がありました。
DSM-IV-TRまでは、過食や不適切な代償行動は3ヶ月にわたって、平均少なくとも週2回という定義でしたが、DSM-5では3ヶ月間にわたって少なくとも週1回となりました。
一般人口の中には、「過食症」の診断は満たさないものの、時々、過食や自己誘発嘔吐がある人もいますから、過食や不適切な代償行動の頻度が週1回に緩められると、これらの人たちも「過食症」と診断されてしまう可能性が出てきます。
それに伴い、DSM-5では重症度判定も併記することになり、過食の頻度ではなく、代償行動の頻度でなされ、
軽度 :代償行動が、週1〜3回
中等度:代償行動が、週4〜7回
重度 :代償行動が、週8〜13回
最重度:代償行動が、週14回以上
となっています。
たとえば、過食嘔吐が毎日1回ある場合は中等度の上限、日によって過食嘔吐が1日2回以上あれば重度、毎日過食嘔吐が2回あれば最重度、ということになります。
この診断基準を厳密に適応するためには、どんな場合に、食べているエピソードを「大量」と感じ、客観的には大量でないのにむちゃ食いしていると感じるのか、そして実際にどれくらい摂取したのかを聴取する必要があります。
それでも、どのような状況や時間帯であっても、量の過多によらず自分の規則以上に食事を摂取した場合には、「過食してしまった」と取り乱し自己誘発嘔吐をする場合もあり、自覚的過食を伴う「排出性障害」などを「過食症(嘔吐を伴う過食症)」と誤って診断してしまうと、重症度の判定に迷うこともありそうです。
DSM-5で診断をした場合、DSM-IV-TRで「過食症」と診断される低体重のケースや、特定不能の摂食障害とされていたケースが、DSM-5では「拒食症」あるいは「過食症」とされる場合があります。
これが症状に準拠した操作的診断基準の限界のようです。
正常と病理の境界線は症状だけでは区別がつかないということですよね。
たとえば、「37.5℃の体温」と「37.5℃の発熱」の違いは、代謝によるものか、炎症によるものかの違いがあるように、摂食障害の場合は、自己評価が体型・体重の影響を受けるという、中核病理である「やせ願望」の有無が上記の炎症に相当するものと考えるのが妥当のようです。
さらに、「拒食症」と「過食症」の判別においては、体重や体重減少の程度、過食・嘔吐の頻度ではなく、三田こころの健康クリニックで行っているように
拒食の要素(クロニンジャーの「損害回避」:心配性)
過食の要素(クロニンジャーの「新規追求」:冒険心)
など、生まれながらの気質をベースに考えた方が、診断だけでなく、治療の面においても有用性が高いですよね。
ちなみに、DSM-5の解説には
一日中、少量の食物をsnackingしているのは、過食のむちゃ食いとはいえない
という一文があり、「だらだら食い(snacking/grazing)」は症状の現れ方は病理的ですが、それ以外の間食の習慣がある人や、体型を気にする若い女性を病気と診断して精神療法などの治療を促すのは現実的とはいえないとされており、生活習慣の是正が必要ということですよね。
院長