過食のエネルギーは「イライラ」と「不安(心配)」
『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』には、過食症は「「冒険好き」の「心配性」がなりやすい」と書いてありますよね。
最近の過食症やむちゃ食い症の傾向をみていると、「冒険好き」が高い人はほとんどいらっしゃらないのです。
むしろ「「心配性」と「ねばり強さ」が拒食症を作る」タイプの人が拒食の時期を経ずに過食症やむちゃ食い症になっていることが多いのです。
過食症やむちゃ食い症の人では、衝動的で不適応的な気分調節行動はみられるものの、ひと昔前にはよくみられていた万引きやリストカット、薬物乱用などの他の衝動行為を伴う過食症は減ってきた印象があります。
衝動性の高い摂食障害の患者さんは、すぐに結果を求めるため、三田こころの健康クリニックで専門に行っているような対人関係療法などの精神療法による治療を受けたいと考えられないことも一因なのかもしれません。
上記のように摂食障害では、感情が摂食障害の引き金になり、摂食障害症状は、苦痛をともなう感情を調節するための気分解消行動であることが実証され、広く認識されていますよね。
「苦痛をともなう感情」は、以前は「過食のエネルギーは「怒り」と「罪悪感」」であったのが、最近では、「思い通りにならないイライラ」と「不安(心配)」に変わってきています。
「イライラ」や「不安(心配)」を感じている自分自身に対する自己非難や自己嫌悪が、身体、外見、体重、体型などのボディイメージに置き換えられます。
そのようなボディイメージに対するネガティブな感情を摂食障害行動と使って解消しようとすることで、摂食障害というかりそめの「アイデンティティ」に同一化しやすく、苦痛な感情がなくても摂食障害行動が習慣化して、自己破壊パターンによる混乱と迷妄に陥りやすいようです。
このように最近の摂食障害の患者さんでは、重要な他者との対人関係と症状との間に関連があることが少なく、集団との関係の中での対人関係のあり方の困難さ(生きづらさ)が、症状を引き起こしていることが多いのが特徴のようです。
自分に対する自己評価(判断や解釈などの思考)や感情への向き合い方、つまり、自分自身との折り合い(自分自身との関係)と集団との関係が、摂食障害の維持因子になっている、ということなのです。
多くの出来事が、自分の期待に沿わないものとして感じられますが、そもそも自分自身や他者に対する期待が明確でないため、不全感や空虚感を感じやすいことが「イライラ」の根底にあり、これを解消するために摂食障害症状を使ってしまうのです。
また「どうなって欲しい?」という期待が明確でないため、未来に対する「不安(心配)」に過敏になると同時に、感情調節の不全や、過去の体験からくるネガティブな感情による不適応的な感情反応を引き起こしやすく、この感情を解消するため摂食障害行動が起きやすくなるのです。
私たちの気分を悪くするのは他人や出来事そのものではない。
それに対する自分のとらえ方である。
とらえ方を決めるのは、自分のこころの姿勢である。
水島広子『怖れを手放す』星和書店
摂食障害からの回復は、過食をガマンしたり食べないように努力することと考え、症状のコントロールに躍起になっている限りは回復できないだけでなく、ますます摂食障害の症状に振り回されてしまいます。
他人や出来事に対する「とらえ方」を変容させ、感情に目を背けず、感情との向き合い方など行動パターンを修正し、自分の気持ちを実際に感じてみて、感情は感情にすぎないという体験をもとに感情に対する「こころの姿勢」を変えていくことで、自分の中の健康な部分に触れることが修正感情体験となり、摂食障害から回復できるのですよね。
院長