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職場の対人関係の問題とパワーハラスメントの問題

[2021.06.11]

4月からの新年度が始まって3ヶ月目に入りましたね。

新入社員のみなさんは4月5月の2ヵ月間、目まぐるしい変化の中で無我夢中だったことと思います。

 

リワークでのトレーニングを経て復職された患者さんの復職後フォローアップで、俗にいう「3の法則」に注意が必要と伝えています。

 

新しく入社して1〜3ヵ月経った頃には、仕事をしていることが当たり前になり、どの程度の仕事であればどのくらい頑張ればやれそうなのか、の目途が立ってくる頃です。

復職者であれば就業制限や就業配慮が解除になる頃で、疲れが溜まってきたことを自覚しやすい時期でもあります。

 

復職して1年以上経過した労働者については、4月〜7月に再休業に至った労働者が多い傾向がみられた。1年を経ずに再休業した労働者についても、6ヶ月以上就労していた復職者では4月〜7月に多い傾向がみられた」とうつ病リワーク協会での報告がありました。

考察として「年度末の移動による当該労働者の仕事の質や量、人間関係等の環境の変化による影響が考えられる。当該労働者が異動していなくとも、所属部署の別な者が異動したことによる仕事の質や量、人間関係等の変化についても影響している可能性が考えられる」とされています。

 

3月の年度末、4月から新年度の始まりから3〜4ヶ月間は変化への適応のため身心の不安定さ(ストレス反応)が出やすい時期と考えられます。

6月はもっとも休職や再休職が起きやすい時期なのです。

 

厚生労働省の『職場における心の健康づくり』には、仕事上のストレス因(ストレッサー)として、「職場の人間関係の問題」「仕事の質の問題」「仕事の量の問題」がトップ3となっています。

 

とくに「職場の人間関係の問題」は、ストレスチェックでの高ストレス者面談でも「仕事の量の問題」とともに、頻繁に相談を受ける内容でもあるのです。

 

ちょっと脱線しますが、産業医として高ストレス者面談を行っていて感じることですが、そもそも自分の特性に合わない仕事を選んだ場合(仕事の質の問題)、仕事の進捗が遅いことについて上司から注意され(職場の対人関係の問題)、それでもなかなか仕事を片付けることができず「仕事の量の問題」として前面に出ている人もかなりの数いらっしゃいます。

 

話を戻して、「職場の人間関係の問題」として近年問題になっているのは、パワーハラスメントとの関連です。

 

パワーハラスメントによりメンタルヘルスに不調を来し、休職するケースも多いです。

いわゆる被害者が受けたとするパワーハラスメントにはさまざまなものがあり、法的にはパワーハラスメントには当たらないものも多いです。

そのため、パワーハラスメントがあったのかなかったのか、そのパワーハラスメントの心理的負荷の強度はどの程度かにより企業が負うリスクには違いがあります。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

上記の引用にもあるように、パワーハラスメントの場合は、受け手がそのように捉えたとしても、パワーハラスメントに該当しないということもあります。

 

事例化するケースで多いのが、業務の指導や注意が、叱責や罵倒などになってしまっていることです。

 

「特別な出来事以外」の心理的負荷の強度が「強」の事例として

  • 部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
  • 同僚などによる多人数が結託して人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
  • 治療を要する程度の暴行を受けた

との記載があります。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

人格否定や人間性の否定が含まれ、それが執拗であった場合のみ、パワーハラスメントに該当します。

 

パワハラという言葉で上司を非難する多くの人がおっしゃるように、叱責されただけ、あるいは叱責の仕方だけではパワーハラスメントに該当しないのです。

 

指針を行政で作成され、ハラスメントに該当しないと考えられる例として、「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること」があげられています。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

産業医として、あるいは主治医として話を聞いていると、「上司のその言い方はまずいなぁ。確かにパワハラと認識されてしまうよなぁ」というケースも多いのが実感です。

 

たとえば、「この程度の仕事もできないのかっ?!」「何年、会社員をやっているんだ?!」「できますと言ったのは嘘だったのか?!」などのダブルバインドを多用した言い方をよく聞きます。

また、「そんなことでは将来使い物にならない!」「期待していたのに失望させるな!」「やる気はあるのか!」などのアンビバレントな言い方なども多いですよね。

あるいは、「相談するように」と言われていたので上司に相談に行ったら、「そのくらい自分で考えろ!」「考えてから相談に来い!」と言われる場合もあるようです。

多くの人がこのような言い方で叱責された経験はおありですよね。

 

パワハラと誤解されやすい言い方として、前掲書には「①上司に能力と意欲があり、②仕事ができない部下に理解を示さず、③感情の赴くまま侮辱・罵倒に近い叱責を、④自覚なく行うという特徴があります」と記載されています。

 

このような言い方をする上司と合わないと感じる人も多いと思います。

 

パワハラトラブルの1つの類型に「どうしても人間的にウマが合わない」というものがあります。他の部下や上司であれば何の問題もなく業務ができているのに、特定の上司や部下になると途端に衝突することになりパワハラトラブルに発展するというものです。

このような類型に当たる可能性が高いのであれば配置転換を行うべきかと思います。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

さまざまな要因で休職した人の中には、上司との人間関係の問題が引き金になった方も多くいらっしゃいます。

PTSDレベルの症状が出ているにもかかわらず、多くの精神科や心療内科、メンタルクリニックでは堂々と「うつ病」という診断がつけられて、不適切な治療が長々と行われています。

 

また職場復帰の際に異動を申請されて受理されることが多いのですが、そもそも上司と合わないという理由だけで復職時に部署異動させる、ということは困難なのです。

さらに異動した新しい部署での仕事に慣れるという新たなストレス因がかかることになります。そのため、異動の勧めるにあたっては、現部署に復職した場合と、異動した場合のメリットとデメリットを詳細に吟味しておく必要があります。

 

しかしながら、たとえばハラスメントの要素が背景にある同じ部署に復職した場合、職場環境が変わっていないため、再休職になる可能性は非常に高いことが考えられます。

 

「あなたの職位では、職場の中で後輩に仕事を教えないといけない立場が求められる。部下や後輩がミスして自分が正しいからといって怒鳴るのは、あなたの立場として適切なのだろうか」といった形でしょう。

つまり、求められる像を明確にしつつ、現状とのギャップを本人に自覚してもらうことや、ギャップを埋めるために会社が指導することが重要なポイントです。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、復職可能の診断書を提出する時に、同時に産業医に対してうつ病リワーク協会の「職場復帰準備性評価シート」を添付した情報提供書を送付していますよね。

情報提供書で対人関係の問題をコミュニケーションの仕方の問題として指摘するのですが、産業医からは「上司(管理職)に注意や指導はできない」と言われることが多く、職場の対人関係の問題はなかなか悩ましい問題であることは確かです。

 

文春オンラインに『新入社員が知っておきたい、ブラック企業によくある「要注意フレーズ」4選』という記事が掲載されていました。あるあるなのか、うちの会社とは違うなーと感じるのか、皆さんも参考にしてみてくださいね。

 

院長

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