精神心理療法に特化したリワークプログラム
現在、多くの精神科医療で行われている曖昧な「適応障害」という診断によって、抗うつ薬や抗不安薬の過剰処方が行われています。
そのことが適応障害の治りにくさを引き起こしている可能性について、『適応障害による長期休業と退職』で説明しました。
職場復帰支援プログラム(リワーク)も例外ではありません。
もともとリワークは、長年風雪に耐えつづけた建物が「最後の麦わら(さほど過酷でないストレス)」で崩壊してしまうように発症する「(疲弊うつ病を含む)内因性うつ病」の職場復帰支援として開発されました。
内因性うつ病は、大きく分けて2つの発症パターンがあります。(春日武彦『はじめての精神科』医学書院)
(1) 過酷なストレスによるうつ病(つまり一線を越えてしまった。治療も必要だし環境改善も必要)
(2) さほど過酷でないストレス下なのに生じたうつ病(治療が必要)
上記の(1)がいわゆる疲弊うつ病、(2)が狭義の内因性うつ病です。
「内因性のうつ病」であれば、ある程度自然経過がわかっているため、休息を取り徐々に生活の範囲を広げ、症状が軽減してきたタイミングで6ヵ月程度のリワークプログラムを導入し、休職から1年ほどで復職されることがほとんどでした。
しかし現在は「内因性のうつ病」よりも「適応障害」が多くなっています。
「適応障害」は、誘因となったストレス因が解消されてから6ヵ月以上続くことはなく、また、ストレス因が持続していても新しい適応水準に達したときには症状が消失する、とされています。
多くのリワークで4〜9ヵ月と利用期間が決められていることが、「適応障害」の現状に合わないのです。
『適応障害による長期休業と退職』で触れたように、長期休業者の約9%が「適応障害」と診断されていることや、適応障害での退職率が高いことを考えると、診断が間違っているか治療法が合っていない、としか考えられないのです(『適応障害の診断と治療の実際』参照)。
本来、医療リワークは復職に向けての精神疾患の「治療」プログラムであり、この点が地域障害者職業センター(職リハ・リワーク)で行われているプログラムとの大きな違いであることがうつ病リワーク協会のHPに明記されています。
しかし、うつ病リワーク協会の会員施設の一部でも、新聞記事の要約や模擬会社での伝票入力など、地域障害者職業センター(職リハ・リワーク)で行われているプログラムと大差がないリワークが行われており、「質の劣る一部のリワークが企業側からのリワークへの失望を招いた(第4回 うつ病リワーク協会年次大会)」との危惧も語られています。
こころの健康クリニック芝大門は、うつ病リワーク協会の施設会員です。
うつ病リワーク協会の施設認定基準には、①日本うつ病リワーク協会から認定された医師が一名以上配置されている、②産業医の資格を有している、③カンファレンスなど参加し情報を共有している、④プログラム内容等を熟知している、などがリワーク担当医師に求められる基準になっています。
ちなみに、産業医の資格を有している医師のうち、実際に産業医として活動しているのは、産業医資格所有者のうち約1/4程度です。
院長である私は、うつ病リワーク協会の認定リワークスタッフでもあり、さらに産業医の資格を有しているだけでなく、実際に数社の企業と契約し嘱託産業医としての業務も行っていることから、職場復帰に最適なプログラムを構築できたのです。
うつ病リワーク協会では、リワークプログラムが備えるべき目的として、症状自己理解、コミュニケーション、自己洞察、集中力、モチベーション、リラクゼーション、基礎体力、感情表現、の8つが挙げられています。
うつ病リワーク協会のリワーク施設認定基準には、以下のように記載されています。
集団の凝集性や心理教育の効果などを考えた場合、利用者の疾患が同一であることが望ましい。それが難しい場合は、F3、F4以外の疾患の比率の条件を設けることで、集団の凝集性が弱まらないように配慮していることが求められる。
(中略)
職場での対人関係を背景として疾病が発生したことを考えれば、上司や部下、同僚といった縦や横の役割関係を中心とする職場場面を想定したプログラムの実施が重要である。その際には職場内での対人葛藤や不適応な対人パターンが再現されるような工夫が必要である(協働作業課題や集団討議など)。また、スタッフは利用者に対して都度適切なフィードバックを行う中で気付きを促し、対人パターンを修正、新たな社会適応技術が獲得できるよう励ますことが重要である。
集団療法ではグループメンバーの凝集性とグループの成熟過程を重視します。
このやり方は人格レベルの成熟という点では優れているのですが、時間もかかりますし、グループメンバーの変動があると凝集性が変化してしまうというデメリットもあります。
こころの健康クリニック芝大門では、職種も休職にいたった経緯もさまざまな人たちの多様なニーズに対応できるようにするために、「同一疾患での集団凝集性」という考え方を解除することにしました。
そして対人関係療法の問題に対しては、生物・心理・社会・職業モデルと相性のいい、ホロヴィッツの「自己- 関係観察」という概念を援用して、どのような病態にも共通する課題を設定したのです。
ちなみに、ホロヴィッツの「自己- 関係観察」の概念は以下の通りです。
⒜ 感情・考え・情動のコントロールについての気づき;考え方の質
⒝ 心の状態の変化についての気づき;効果的な行動を積極的に学ぼうとする気持ち
⒞ 自己概念あるいはスキーマ(関係のなかにおける役割モデル)についての気づき;関係性の質
このような共通課題を設定することにより、上司から叱責されたり、同僚に気を遣いすぎて疲れてしまい出社できなくなった人、物事の捉え方や考え方の偏りによって気分が晴れなかったりする人、あるいは自己中心的な考えしかできず、与えられた仕事に不平不満を言うばかりで、次第にその考えにとらわれてしまい仕事ができなくなった人など、誤って「適応障害」と診断されて休職した人たちにも、リワークを適用できるようになりました。
「パーソナリティの偏りに由来する抑うつ状態(治療というよりは自分の心とのつきあい方を学ぶべき)」と『はじめての精神科』で説明されている「不適応状態」だけでなく、『適応障害の診断と治療の実際』で説明した「神経衰弱」や、対人関係の問題による「重度ストレスへの反応」の人たちにも、リワークプログラムを適用できるようになったのです。
院長