病院に行って診断書をもらってくるようにと言われたら
会社が求める仕事のパフォーマンスが上がらない時、上司や人事から「病院に行って診断書をもらってくるように」と言われる事があります。
仕事では遅刻・欠勤、業務のパフォーマンスの低下、業務上のミスの発生、周囲とのトラブルなど周囲が困っていることを「事例性」と言います。
事例性に該当する本人の困りごととしては、頭痛や下痢など体調を崩しやすいことが挙げられます。(森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社)
たとえば上司の困りごととしては、簡単な指示しか与えていないのに言った通りに指示通りにやってくれない、締め切りを過ぎているのに一人でかかえ込んで相談してくれない、周囲の同僚は後始末に追われて本来の業務も滞ってしまう、などがあります。
上司は、本人の能力なのか(事例性)、病気(疾病性)のために仕事に差し支えているのか(作業関連性)の判断に迷い、処遇をどうしたらいいのかを人事に相談することになります。
上司も人事も査定で低評価をつけて解雇やリストラ対象にすることが目的ではありません。そのため、もしかすると病気なのではないか、と受診を勧めるわけです。
ところが、上司や人事に医療機関の受診を勧められたものの、当の本人に困りごとがなかった場合、会社指示ですから渋々受診はするものの、会社の対応に不信感を抱いてしまいます。
精神科医の立場としては、異常がないと診断書には書けないので、「適応障害」や「抑うつ状態」場合によっては「心因反応」などの苦し紛れの診断をすることが多いです。また、抗不安薬を処方してお茶を濁しつつ、休職するようにとか、上司と話し合って環境調整をしてもらうようにと言われることがありますよね。
しかし、当の社員さんは、精神科医に対する信頼形成(ラポール)もないため、服薬せず、通院も1回きりでやめてしまいます。
診断書を受け取った会社側は、とりあえず病名がついたことで安心なのですが、これ以上簡単な業務はないし、かといって評価の低い社員を受け入れてくれる部署もなく、また人事に相談することになります。
当の社員さんは業績の評価に不満を募らせ干されていると感じ、相談することなくますます一人で抱え込むという悪循環が生じてしまいます。
たとえば、「会社から診断書をもらってくるようにと言われた」と、こころの健康クリニック芝大門を受診した方の場合、疾病性ではなく事例性、とくに労務管理問題が疑わしい場合には、産業医寄りの立場で職場の事情を聞くことになります。
今回の経緯が相性やすれ違いによるものなのか、作業関連性が強いのかなどを踏まえることができます。
もし、本人要要因が強い(作業関連性が弱い)のであれば、本人に対して、「今後も同じようにストレスがかかる状況になることもあるかもしれない。もし、そんな状況になったときに不調にならないで済むように、どう対処すればよいのか」を不調者本人と対話しておくことが再発防止につながります。
森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社
上記をまとめて、診断書ではなく産業医宛に診療情報提供書をお書きしています。
「会社から診断書をもらってくるようにと言われた」ことの問題点を考えてみましょう。
現場のスタッフであると同時に管理職もになう立場であった上司(プレイングマネージャー)が、業績評価制度を丁寧に説明して納得感を促し、今後の担当業務や取り組み方について問題の社員と相談したり、業務内容の指導をすることが困難であったことも要因の一つであったと考えられます。
さらに、プレイングマネージャーでもある上司は、部下に低い評価をつけてしまうと部長から管理能力の問題を指摘されることを恐れているのかもしれません。
あるいは、解雇やリストラを告知するときの心の痛みがあるため、評価の低い社員の処遇に困ってしまう日本的な会社の先送り体質も荷担していたのかもしれません。
もう一つの問題点は、このプロセスに産業医が関わっていないことです。
上司や人事が疾病性を疑う場合、受診を勧める前に産業医に相談して、そもそも受診が必要なのかどうか、受診するとすればどの医療機関に紹介すればいいかの判断はしてもらえるはずです。(中には名ばかり産業医もいらっしゃるようですから、確約はできません)
「会社から診断書をもらってくるように」と言われた方は、まず、産業医面談を申し込んでくださいね。
しかし中には、産業医面談を渋る会社もあるようですから、粘り強く交渉してみてくださいね。
院長