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毒親育ちと愛着と複雑性PTSD

[2023.08.07]

巷で「毒親(毒になる親)」という言葉が流行して、いまだに様々な書籍が出版されていますよね。

 

「逆境的小児期体験」に伴う「外傷的育ち」を、「アダルトチルドレン」や「毒親育ち」などの言い方で表現されている場合もあります。

 

「逆境的小児期体験」は、虐待と家族機能不全によってアセスメントされます。

 

厚生労働省は「虐待」を4つに分類しています。

 

厚生労働省の定義では「無視」「きょうだい間での差別扱い」は、心理的虐待に入れられています。

 

しかし、国際的理解では「無視」は「ネグレクト」に、そして「きょうだい間での差別扱い」は児童虐待の中には入れられていません。

日本では心理的虐待が強調される傾向にあることが指摘されています。

 

このような家庭環境での「外傷的育ち」の乳幼児期は、養育者が安心基地(セキュア・ベース)として機能していないことから、さまざまな問題が引き起こされます。

 

養育者からの波長合わせ(アチューンメント)による情動調整がなされないため、児の【愛着(アタッチメント)関連の調節機能不全(対人関係障害)】と、【神経基盤の調節不全(感情調節・自己制御の障害)】が起きてきます。

 

幼児期のアタッチメント・パターン

幼児期のアタッチメント・パターンには、以下の3つのパターンが知られています。

 

「回避型(Aタイプ)」:感情を抑制し他者との関わりを避ける

「アンビバレント型(Cタイプ)」:拒絶と親密の間を揺れ動く

「安定型(Bタイプ)」:安定的な関係性を維持できる

 

上記の「回避型(Aタイプ)」と「アンビバレント型(Cタイプ)」を合わせて、「安定型(Bタイプ)」と対比する意味で「不安定型」と呼ぶ事があります。

 

「不安定型」は「安定型(Bタイプ)」と同様、それなりに機能的なのですが、巷に溢れている本の中では「不安定型」を愛着障害であると誤って記載されているものがほとんどようです。

診断基準でいう「愛着障害(アタッチメント障害)」とは、愛着対象が欠如し愛着が生じていない状態を指しますから、愛着が機能的である「不安定型」とはまったく別物なのです。

 

さらに「安定型」「不安定型」に加えて、「無秩序・無方向型(Dタイプ)」が知られています。

 

「無秩序・無方向型(Dタイプ)」は、近接と回避という両立しない行動を見せ、不自然でぎこちない動きをしたり、タイミングのずれた場違いな行動や表情を見せたり、突然うつろな表情を浮かべたりする、などが特徴としてみられます。

 

「無秩序・無方向型(Dタイプ)」には、一部AタイプあるいはCタイプ的な特徴を見せる「D不安定型」と、落ち着いているときにはBタイプ的行動が有意になる「D安定型」が、ほぼ同じ割合で存在するといわれます。(遠藤. アタッチメント理論の現在. 教育心理学年報 第49集; 150-161. 2010)

 

「無秩序・無方向型(Dタイプ)」と「安定型(Bタイプ)」が同時に存在することは、巷に溢れている誤った愛着(アタッチメント)関連の知識しかお持ちではない方にとっては、理解が難しいと思います。

しかし「無秩序・無方向型(Dタイプ)」行動を引き起こす根底には、「行動的フラッシュバック」があると考えると理解しやすいと思います。(『複雑性PTSDとさまざまなフラッシュバック』参照)

 

また、アタッチメント・パターンは3歳頃から徐々に、養育者に対する過度の世話や懲罰的な態度からなる「統制型」に変わり始めることが知られています。

 

外傷的育ちと「自己組織化の障害」

「外傷的育ち」の学童期では、【愛着(アタッチメント)関連の調節機能不全(対人関係障害)】による「自閉スペクトラム(AS)特性」と、【神経基盤の調節不全(感情調節・自己制御の障害)】による「注意欠如多動(ADH)特性」が目立つようになり、多動性や破壊的行動などの衝動性が問題となってきます。

 

さらにアイデンティティが芽生えてくる学童期中期から思春期では、【メタ認知障害(否定的自己概念)】や「解離」症状もみられるようになってくるようです。

 

精神発達を構造的にみれば、関係性の発達(X)、認識の発達(Y)、自己制御の発達(Z)の三つの軸からなっている。

「生物学的な個体」としてこの社会に生み落とされた子どもが、人と関係する力を培い(X)、世界を意味(概念)によって認識し(Y)、注意や欲求を状況や規範に応じて自己制御する力を伸ばし(Z)、それによって「社会的な個人」へと育つプロセスが精神発達なのである。

発達障害が基本的に、「自閉症スペクトラム(関係の障害)」、「知的障害(認識の障害)」、「ADHD(自己制御の障害)」のかたちをとるのは、偶然ではなく、発達がこの三軸構造をなしていることの反映であろう。

滝川. 一次障害と二次障害をどう考えるか. そだちの科学(35); 2-6. 2020.

 

精神や神経系の発達を考えると、「外傷的育ち」、すなわち「発達性トラウマ障害」「複雑性PTSD」と、「AS/ADH(自閉スペクトラム/注意欠如多動)特性」に共通するのは、『感情調節障害』『対人関係の障害』『否定的自己概念』という【自己組織化の障害】のようです。

 

「外傷的育ち」によって引き起こされる「DESNOS(極度ストレス障害)」は、ICD-11の「複雑性PTSD」の診断基準の中の【自己組織化の障害】として集約されました。

これが『子ども虐待という第四の発達障害』の特徴と考えられるのです。

 

「外傷的育ち」の人が思春期にさしかかると、再体験症状(侵入症状)・回避症状・脅威の知覚症状(過覚醒症状)のPTSD三徴や、解離症状を自覚するようになると言われます。

思春期まで潜在していた虐待などの幼少期のトラウマ体験は、ここでようやく明らかになってくるのです。

 

ICD-11では、「PTSD」も「複雑性PTSD」も、『診断はあくまでも上記の症状によらなければならない』として過剰診断を戒めています。

ところが臨床の現場で診ていると、「毒親」との言葉を使い幼少期の機能不全家庭でおきた出来事を列挙・強調される方の中には、PTSDの三徴を欠く方の方が多いような印象があります。

 

あるいは、カウンセラーから複雑性PTSDではないかといわれ、こころの健康クリニック芝大門を受診された方のなかで、自閉スペクトラム(AS)特性に伴う強迫観念(強迫反芻)や妄想を再体験症状(侵入症状)と間違ってとらえられていた方も、かなりの数いらっしゃいました。

 

公認心理師は、その業務を行うに当たって要支援者に主治の医師があるときは、その指示を受けなければならないこととされている(法第42条第2項)。

(中略)

もとより、公認心理師は、要支援者の状況の正確な把握に努めているものであるが、特に要支援者に主治の医師がある場合には、要支援者の状況に関する情報等を当該主治の医師に提供する等により、公認心理師が主治の医師と密接に連携しながら、主治の医師の指示を受けて支援行為を行うことで、当該要支援者の状態の更なる改善につながることが期待される。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について

 

上記の規定から、カウンセラーさんから「複雑性PTSDではないか?」「発達性トラウマ障害ではないか?」と言われ、こころの健康クリニック芝大門の受診を検討されている方には、先に心理師さん、あるいはカウンセラーさんからの情報提供をもらってきていただくようお願いしています。

 

出来事基準(トラウマ体験)を満たしても、再体験症状(侵入症状)・過覚醒症状・回避症状のPTSD三徴を満たさず、自己組織化の障害があり、さまざまな機能障害(行きづらさ)を伴う状態は、自閉スペクトラム症(ASD)あるいは自閉スペクトラム(AS)特性の特徴とされています。

 

一方「外傷的育ち」、すなわち「発達性トラウマ障害」「複雑性PTSD」と診断できた方は、集中困難や時間感覚の欠落、記憶障害などの「解離症状」を主訴に受診される方と、「気分変調症」のような気分の落ち込みや、急に湧いてくる不安や恐怖感など「全般性不安障害」に似た症状など、気分や感情の問題を主訴とされる方が多いようです。

 

「外傷的育ち」の虐待のうち、身体的虐待や性的虐待は「複雑性PTSD」と親和性が高い一方、心理的虐待やネグレクトはうつ状態を呈することが多いと報告されています。

「外傷的育ち」と気分障害としてのうつ病性障害との違いは、「発達性トラウマ障害」や「複雑性PTSD」のうつ状態では恐怖症を伴うことが多いこと、解離症状があること、などが鑑別になるようです。

 

このように、一般のメンタルクリニックでうつ病やうつ状態、あるいは適応障害と診断されている方の中に、「発達性トラウマ障害」や「複雑性PTSD」などトラウマ関連障害の患者さんがかなりの数いらっしゃると推測できます。

禁忌である抗不安薬の服用がない方で、トラウマ関連障害の専門的治療を希望される方は、こころの健康クリニック芝大門に相談してくださいね。

 

院長

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