メニュー

楽になりたい

[2020.05.08]

今日は、私がなぜ摂食障害の治療を受けようと思ったのか、そのきっかけと治療に至るまでの経緯をお話ししたいと思います。 

私が摂食障害を発症したのは中学1年生のときでした。

 

「そんなにあるの?」 

夏休みに入る前、先生から渡された身体測定の結果をのぞき込んだ男子が、突然こう言ったのです。私は、一瞬ドキッとして頭が真っ白になりました。そして続けざまに「俺のほうが軽いわ」と言いました。それでようやく私は、自分の体重が重いと言われたことに気づきました。その時の私は、その言葉にとてもショックを受けました。まるで自分という人間がとても醜く恥ずかしい存在で、自分のすべてがダメだしされたような、絶望的な気持ちになりました。私は、その男子を見返すために体重を減らそうと決意し、その日から運動や食事制限を始めたのでした。 

 

しかしここで注意したいことは、これはあくまできっかけであり、原因ではないということです。おそらくその時その一言を言われていなくても、また別の出来事をきっかけに私は摂食障害もしくは他の病気を発症していただろうと思うのです。私が経験したことは、確かに思春期の女子にとっては傷つく言葉だったかもしれませんが、似たようなことは恐らくもっとたくさんの人が経験しているのではないかと思います。けれども、そのような経験をした人全員が摂食障害を発症するわけではありませんよね。そして、誰しもが生きていれば経験するようなことが病気のきっかけになったということは、それ以前に既に病気の種は私の中にあったのだと思うのです。このあたりのことはまた別の機会にお話ししたいと思います。 

 

 13歳で摂食障害を発症し、私がきちんとした治療を受けたのはそれから20年近く経ってからのことでした。なぜそこまで長い年月がかかってしまったのか。それには幾つかの理由がありました。

最も大きな要因は、やはり何といっても「羞恥心」でした。両親は発症後から私の症状に気が付いていましたが、「意思が弱い」ことが原因だと考え、病院に連れて行こうとはしませんでした。私自身もその通りだと思い、症状をコントロールできない自分はなんて情けないダメな人間なんだろうと、いつも自分を責め続けていました。

病気を抱えながらもやっとの思いで医学部に進学しました。しかし、病気が勝手に良くなることはあるはずもなく、今度は医学部生のくせに、医者のくせに(病気を続けているなんて…)という羞恥心や自責感で、受診のハードルは高くなるばかりでした。 

 

そんな私が受診を決めたきっかけはただ一つ。もうこれ以上このままでは生きていけないと思うほど生きることがつらくなってしまったからです。一言ではなかなか説明できませんが、これまで何とかやり過ごしていたつもりになっていたことが、気が付いた時には自分ではもう対処できないほど問題が山積みになっていたのです。生きるつらさが羞恥心を上回ったことでやっと受診に至ったのでした。 

最初に生野先生とお会いした日のことです。 先生にどうなりたいかを尋ねられ、私は少し考えて、泣きながら「楽になりたい」という一言を絞り出しました。その時の気持ちは今でも忘れられません。今思えば、その時の気持ちが私のアンカー(錨)になっているような気がします。 

 

「8つの秘訣」にもあるように、そして私自身も経験したことですが、摂食障害の回復過程は決して真っすぐではありません。前に進んでいるように感じられない時も、後戻りしてしまったのではないかとさえ感じて治療を諦めようと考えてしまうときもあるでしょう。

しかし、症状がぶり返すこと=後戻り、ではないのです。症状がぶり返したということは、あなたがまだ出会っていない新しい課題にぶつかったということです。前進していなければ新しい課題には決してぶつからないのです。ですから、どうか、症状がぶり返したと思って落ち込んだり、自分を責めたり、治療を続けることを諦めたりしないでください。そんな時こそチャンスだととらえ、「今回のこの症状は、私に何を教えようとしているのか」「この症状の意味は何だろう」と、立ち止まってみてほしいと思います。 

最後に今日はこんな文章で締めくくりたいと思います。 

 

「ある建物が造られようとしている街の通りを歩いていると想像してみてください。毎日毎日、何か月もの間、通り過ぎるたびに空っぽの敷地を目にします。そしてある日突然足場が組まれ、あっという間に大きなビルが建ちます。まるで一晩で建てられたかのように思えるのです。 

乱れた食行動を克服するプロセスもこんなふうに進みます。長い間何も起こっていないように思えたり、何も進歩していないように思えても、実際はたくさんのことが起こっています。ただ、見えない領域で起こっているだけなのです。ビルの建設のように、準備をし、新しく長持ちする構造を支える基礎を設計したり、造ったりするには長い時間がかかります。乱れた食行動の原因を理解することで基礎が敷けて、人生で次々とやってくるストレスに立ち向かううえでのスキルを発達させることができると、やがて食べ物との新しい関係もできてきます。 

焦ってはいけません。ゆっくりと自分らしさを取り戻すことができてはじめて、体もついてくるのです。」 

(引用:「摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語」 アニータ・ジョンストン著) 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME