摂食障害行動をそそのかし回復を邪魔する批判的な思考
身体が夏の省エネモードから冬に向けての備蓄モードに変化するこの時期は、夏前から無理なダイエットに取り組んだ人にとって、飢餓状態から回復するためのリバウンド大食が起きやすい季節です。
ダイエットよる飢餓状態からの回復期の大食は過食(むちゃ食い)に似ていて、いくら食べても満足感が得られず、苦しくなるまで食べ続けてしまいます。
「せっかく体重を減らしたのに・・・」と食べることで体重が増えるのが怖くなり、数日間、絶食してみたりしますが、食べたい衝動は止まるどころかますますエスカレートしてしまいます。
食べることに嫌気がさし、食べてしまう自分を恥じて気持ちが落ち込み、食べてしまうことや食べ吐きを何とかしたいと勇気を振り絞ってメンタルクリニックを受診すると、うつ病の疑いがある、抑うつ状態になっている、といわれ、抗うつ薬が処方されます。
しかしこれでは、回復期の大食や過食(むちゃ食い)あるいは食べ吐きは良くなるどころか、ますます悪化し治りにくくなってしまうのです。
多くの人は自分の中の苦しい気持ちを避けるか取り除きたいと願っていて、それができないと動揺します。ところが現実問題として、気持ちは思い通りにコントロールして取り除けるものではありません。
ただし、それをどのように受け止めて、表現して、和らげて、対処するかということはコントロールできます。
特定の気持ちがあるからといって落ち込むのはエネルギーの無駄で、気分がますます滅入るだけです。
ゴールは、心にある気持ちは受け容れて、理解して、しっかり感じ取り、そして自分自身から切り離すか少なくとも区別して、あなた自身は回復への道を先に進み続けることなのです。
コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
そうはいっても、やっと減らした体重が増えるのが死ぬほどイヤなのですから、「気持ちを受け容れて・・」という悠長なことはやりたくありませんし、それ以前に苦手ですよね。
そこまで「やせ」にこだわり、早急に結果を求めてしまうその根底にあるのは、「漠然とした生きづらさ(無力感と孤立感)」のようです。
そしてその「生きづらさ」を加速させているのが、さまざまな「思考(考え)」のようです。
体重を減らそうとしてデザートは悪いものだから食べては「いけない」と考えているときにケーキを食べてしまったらどんな思考や気持ちが湧き上がってくるでしょうか。
まず、自分は意志が弱くてだらしのない人間だという思考が浮かんで、罪の意識や恥ずかしさやそれに似た気持ちを感じるでしょう。
次に、食べてしまったカロリーを捨て去るために嘔吐するとします。
その結果、罪責感や恥ずかしさが和らぐと、ダイエットのルールを破ってしまったときの対処法として嘔吐する行動が強化されます。「悪い」と思う食べ物を捨て去る方法として嘔吐が定着すると、次回にケーキを食べてしまったときにどうなるでしょう。ひょっとしたら、デザートのルールを破った以上どのみち嘔吐するのだから、いまさらケーキをたくさん食べても変わらないし、この際食べては「いけない」と決めているものさえ食べてもいいだろう、と考えるかもしれません。
このように、特定の食べ物を自分に対して禁止すると、禁止を破って食べたいという気持ちがかえって強くなりがちなのです。
コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
過食(むちゃ食い)やダラダラ食い、大食、あるいは食べ吐きなど、「乱れた食行動」から回復していくプロセスでは、「気持ちをしっかりと感じて健康で効果的な方法でそれを表現できるようになると、あなたの心の中の気持ちは、行動を支配しようとするよりも、むしろ適切な行動を見極めるための指針となり始めるでしょう」と『8つの秘訣』に書いてありますし、対人関係療法の治療でも取り組んでいきますよね。
この「気持ち(あるいは身体感覚:情動)」を引き起こしているのが「思考(考えやイメージ)」なのです。
(Akoさんの「摂食障害が教えてくれること」の「ブレてるー」と「ぶり返す」を参照してみてくださいね。)
連鎖反応は思考から始まります。
しかし、思考または「認知」が気持ちや行動にどれほど大きな影響をあたえるかについては、ほとんどのクライエントさんが理解していません。
あなたが摂食障害に苦しんでいるのでしたら、自分の中に自分を傷つける歪んだ不健康な思考が存在しているはずです。これらの思考は、苦痛な気持ちを呼び起こして、自分を痛めつけるような行動へとつながっていきます。
私たち著者は、日頃からクライエントさんに「自分自身についてどんな思いを抱いていますか?」と尋ねるようにしています。そうするとクライエントさんは、過去の体験、今まさにしている体験、また先々起きるかもしれないと怖れていることについて、自分が何を考えて、自分に向かって何と語りかけているのかがわかりやすくなります。
コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
「自分に向かって何と語りかけているのか」は、『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』で「自分自身に対する愛着の安定性を知りたければ、不安だ、悲しい、腹が立つ、後ろめたい、恥ずかしいと感じるときに、自分が自分自身に対して何を語りかけているかに注意を向けるだけでよいのです」と説明されています。
自己内対話は、もっとも重要な他者である自分自身との対人関係、つまり自分の「愛着(アタッチメント)スタイル」と関連しているということなのです。
「感情とは、自分の思考に身体が反応して引き起こされるものである」という『8つの秘訣』の名言は、適切な行動を見極めるための指針としての気持ち・身体感覚と同時に、「回復を邪魔している思考、また摂食障害の行動をそそのかす思考」、つまり自分自身を批判したり、感情を無視したり、自分自身を虐待するような思考にも焦点を当てていく必要があるということですよね。
CBT(認知行動療法)では、思考が気持ちや行動を引き起こすと考えます。
つまり、気持ちや行動を変えたいと思えば、それよりも先に思考を認識してそれを変えるのです。状況を変えられないときでも、思考は変えられます。
最初に頭に浮かぶ思考は必ずしも変えられるとはかぎりませんが、それに続いて引き起こされる思考なら、コントロールできるようになるのです。
コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
私自身、認知行動療法(CBT)を勉強したこともありますが、「最初に頭に浮かぶ思考(自動思考)」を変えるという考え方がすごく苦手で、そんなこと出来っこないし、また元の考えに戻ってしまうじゃないか・・と感じていました。(CBTの専門の先生方に叱られそうですが・・・)
私自身の体験では、自動思考が浮かぶとそれに反応した感情が生まれ、その感情に対して「批判的な思考の群れ」がいくつか浮かび、最初の感情が大きくなっていく、そんな感じを持っていました。
「批判的な思考の群れ(私はモジュール思考群と呼んでいます)」には何とか対処できるのであれば、その方法を一緒に見ていきましょう。
院長