摂食障害症状の再燃とその対処の仕方
『摂食障害思考と自己批判』で触れた「遠ざかり境界性自己障害」について、その特徴の1つに『「条件つき承認」など歪んだ養育のなかで形成される承認や報酬に依存しやすい認知様式』が挙げられています。
このタイプは、苦痛を体験しても愛着対象を頼らずに自分だけで対処しようとします。
その背景には、感情(特に弱さ)を感じることを避け、自分が批判している自分自身を見せることを嫌がるなど、「愛着軽視型」アタッチメントスタイルと似た特徴を持っています。
自分だけで対処する刹那的な報酬依存による行動は、不快な感情や身体感覚に対する回避と解消行動(気分不耐)として、①状況判断することなくすぐに行動に移してしまう(性急自動衝動性)と、②少ない報酬であっても少しでも早く得ようとする(衝動過敏性)、の2つの特徴があります。
無条件で安定した愛情供給はなく、子どもが親のなだめ役等として役立った時だけ親からその存在を承認される。子どもは自身の存在に無条件の安心感がないなかで、この「条件つき承認」に依り頼むようになっていく。この「条件つき承認」は「報酬」と言い換えることができ、彼/彼女らは自己の存在の不安定さを「報酬」によって刹那的に補う行動様式を身に着けて生存する。
(中略)
この「報酬」だけに価値を見出す様式が目的論的モードである。過食嘔吐、排出行動が「報酬」に位置づけられる。
自身の過剰適応的な社会生活における「持ち出し」を埋め合わせてゼロに戻すこの密かな報酬は、人知れず自己供給される。崔炯仁. 摂食障害とメンタライゼーション——外傷的育ちの生きづらさに光を届ける. こころの科学209: 58-63, 2020
ジェニーさんは、報酬としての摂食障害行動が再燃したときに、いつものパターンにはまり込んでしまっていただけではなく、以前よりもさらに悪い状況に陥ってしまっているように感じたようです。
まる一年も過食、嘔吐、拒食をしていなかったのに、それまでのお馴染みの行動があっという間に戻ってきてしまいました。
驚いたことに、今回の摂食障害行動は一年前にやめたときよりもさらにひどくなっていました。
しかも私自身は、再燃してから何日間もそのことで自己嫌悪に陥っていたのに、それでもエドの指示にずっと従っていたのです。
(中略)
でも今回は、摂食障害がまた私の一日をコントロールし始めたと感じたときに、誰にも電話をかけられませんでした。
もっともっと過食をしたいとしか考えられませんでした。
過食をして、不安や心がざわつく感じを麻痺させたいと思っていました。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
過食症やむちゃ食い症の対人関係療法による治療の途中でも、何度か症状がひどくなったと感じられるタイミングがあります。
治療初期、中期、後期によって取り組み方は異なりますが、治療初期や中期では、出来事と気持ち、あるいは気持ちを引き起こした思考との関係をみていきますよね。
治療初期や中期によく使うのは、「衝動の波に乗る」やり方で過食衝動のきっかけを探ります。
過食したくなったときに、まず、「何を感じているのだろう?」と感情に焦点を当てるのです。
そして、その感情を引き起こした出来事を振り返っていきます。
『「体重が増えるのが恐くて食べられない」考えとどう向き合うか』でHALTの使い方を説明しましたので、参照してみてくださいね。
エドが私の盲点をついてきました。
数ヵ月間、過食も嘔吐もしないで、順調に食事プランに従っていたのですが、昨日、エドが不意を突いて、過食するようにと強く迫ってきたのです。
そのときには、確かにエドにとって絶好の条件が揃っていました。
私は、とてもお腹が空いていましたし、昔よく過食をしていた場所にいました。おまけに退屈していたのです。
(中略)
気がつけば私は、過食のまっただ中にいました。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
ジェニーさんの体験を読んで、「あれっ?」と感じた人もいらっしゃるかもしれません。
摂食障害について書かれた本のほとんどに「過食はストレスの表れ」と書いてあるからです。
ジェニーさんにとって、順調に食事プランに従っていたことがストレスだったのでしょうか?
あるいは、お腹が空いていたこと、退屈していたこと、あるいは昔よく過食をしていた場所にいたこと、どれが過食を引き起こすストレスだったのでしょうか?
実際、ほとんどの患者さんでは、ストレス(ストレス因)そのものが過食の引き金になるのではないのです。
ストレス反応、つまり、その出来事をどう体験したか、その「体験の仕方」がHALTと合致したときに過食の引き金になるのです。
(『むちゃ食い・過食嘔吐が習慣化するメカニズム』『中期から慢性期の過食や過食嘔吐の治療』参照)
ジェニーさんの場合は、「不安や心がざわつく感じを麻痺させたい」と書いています。
「お腹が空いていた(HALTのH)」、「退屈していた(HALTのL)」、そして「昔よく過食をしていた場所(HALTのA:気がかり)」の3つに加えて、心が動く(ざわつく)ことに耐えられない「感情不耐」が過食の引き金になっているようですね。
治療後期には、「衝動の波に乗る」の後半の「何を避けようとしているのだろう」「本当に必要としているものは何だろう」と、自分に正直になり、過食衝動の根底にある心の動きを見ていきます。
摂食障害症状のスイッチが入ったとき、自分だけで対処する刹那的な報酬依存行動である摂食障害症状(むちゃ食いや食べ吐き)を使わずにやりすごすためには、ジェニーさんも後に思い至ったように、「摂食障害にではなく人に助けを求める」ことが必要なのですよね。
『新型コロナウイルス感染症と摂食障害』で、「ソーシャル・ディスタンス(social distance):社会的に他者と疎遠になること」と「ソーシャル・ディスタンシング(social distancing):社会的(物理的)な距離の保持」の違いについて触れ、摂食障害の人にとっては自粛生活がソーシャル・ディスタンスになってしまい、症状に悪影響を与える可能性について書いたことがあります。
「摂食障害にではなく人に助けを求める」ために、自分の中で起きている健康な部分と摂食障害の部分の闘いを終わらせ、和解する方法を知っておく必要があるのですよね。
院長
※日本摂食障害協会からのお知らせ
(1) 【無料・イベント】摂食障害について考える~私たちの主張2020~【2020年6月7日】
(2)【有料・オンライン講座】家族ができる神経性やせ症の食事支援【全6回講座】
※摂食障害ポープジャパンの安田さん(『摂食障害から回復するための8つの秘訣』『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』の翻訳者)が、フェイスブックに投稿されていました。
みなさん、お久しぶりです!
「8つの秘訣」の著者、キャロリンコスティンさんの、摂食障害コーチのクラスがすべて終わり、実際にインターン生になりました!!!
どなたか、英語で話せる方、摂食障害コーチを受けてみたい方、どうぞご連絡ください。1回50分、通常価格5000円のところ、2回まで、無料でお受けさせていただきます。お気軽にご連絡くださいね!
※取材の協力依頼(日本美容サロン協議会)
現在、NHKの福祉番組「ハートネットTV」において、 6月の番組で「摂食障害」についての放送をするために 準備を始めております。
そこで、現在まだ回復途中の方で 取材にご協力を頂ける方を探しております。取材にご協力を 頂ける方は下記のアンケートにご回答、取材のご協力を いただければ幸いです。
※今回は協力されない方は、ご回答の必要はありません。<応募> https://select-type.com/e/?id=mXo-6dOlf1Y
<回答締切> 2020年5月26日(火)12:00まで ※多数応募の場合は応募を締切させていただきますので、 予めご了承ください。
<取材内容案> ご自身の「摂食障害」のご経験を伺わせてください。 症状が悪化するようなやりとり、安心なやりとりとは どのようなものがありますか?、など。