摂食障害思考に触れつつ巻き込まれないために
今年は新型コロナの影響で自粛生活を強いられ、夏の間ダイエットに取り組んだ人も多いかもしれません。
ダイエットのつもりで食事を制限したり抜いたりすると、飢餓状態に対抗するために身体が目を覚まし、飢餓大食が起きやすくなります。
飢餓大食から始まったとしても、過食や過食嘔吐に移行して摂食障害行動を習慣づけないために、あるいは、大食やだらだら食いを伴う排出性障害を発症してしまった人も、医療機関で処方された薬(抗うつ薬や抗不安薬)が過食や過食嘔吐を解決してくれると思うのではなく、身体感覚を感じて、頭の中の摂食障害思考とのつきあい方をふり返ってみる必要があります。
回復について真剣に考え始めたとき、ジェニーは、エドと別れるとつらくなる部分もあるという事実に向き合わなければいけませんでした。
エドの悪い部分だけと縁を切るのは、実際に無理でした。悪いところを「捨て去る」には、どうしても良いところも「あきらめる」必要があったのです。
エドは、ジェニーに自分は特別だと感じさせてくれて、心地よい気分にしてくれました。
ですから、エドと別れるにあたって、ジェニーは、自分は特別だと感じられる日がいつかまた来るのかどうかもわからないまま、回復への道を先へと進み続けなければいけなかったのです。失うものは大きくて、それを失うことに対して踏ん切りをつけるという作業も必要でした。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
エド(摂食障害思考)のいいところは、「自分は特別」とか「摂食障害思考に従っている限り太らない」と、根拠のない約束をしてくれることにあります。
しかし、食べ物を制限したり、食べたものを嘔吐したりして飢餓状態を続けていると、身体は生存のために脂肪として貯蓄できる炭水化物や高カロリーの食べ物を過剰に吸収しやすくなるのです。
『新型コロナウイルス感染症と摂食障害』でリンクを貼った松本先生の「食事、睡眠、仕事や勉強、人付き合い 生き延びるために日常生活をどう乗り切るか」にもこうあります。
まずいのは、飢餓的な状態で食べてしまうことです。すごく吸収されてしまいますから。
摂食障害の症状があって、食べ吐きをやっている子は、普段、一生懸命食べないようにしていますが、うっかり食べてしまうと少し食べただけでものすごく太る。めちゃくちゃ吸収される食べ方をしているからです。
吸収を悪くするためには三度の食事をきちんと食べることです。
さらに、「もしも我慢すべきこと、何か頑張るべきことがあるとするならば、吐いたり下剤をたくさん使ったりすることはやめてみてください。吐いたり下剤を使ったりしている限りは、摂食障害は良くならないみたいです」と松本先生はおっしゃっています。
「嘔吐したり下剤を使うから過食してもいい」というチャラにする、なかったことにする考えを持っていると、過食そのものを減らすことはできません。ですから、嘔吐したり下剤や利尿剤を使っている人は、精神療法による治療を受ける前に少しずつ減らしておく必要があるのです。
また嘔吐を繰り返す排出性障害の人も、少しずつ嘔吐までの時間を延ばすことからはじめ、思考や感情に耐える力がついて嘔吐をガマンできるようになってから精神療法が始まるのです。
エド(摂食障害思考)のささやきに乗ってしまうと、本当はやせたいのに正反対の行動を取らされてしまっていることに気づく必要がありますよね。
そうは言ってもほとんどの人は、過食や過食嘔吐をしないように、と悪戦苦闘してしまいますよね。
ジェニーさんもガムテープを使って、キッチンや冷蔵庫を封印したりして何とか過食嘔吐を止めようと躍起になりましたが、それらの試みはことごとく失敗に終わってしまったようです。
ガムテープにしても、これまで試したいろいろな方法にしても、これほど私なりに試行錯誤しているのに、これまでに一度も、過食衝動をすぐに完全に消し去ってくれるような行動は見つけられませんでした。
それは、過食の前触れのあの恐ろしい気持ちを追い払ってくれるような魔法の行動なんて、そもそもないからです。
でも、心というものはよくできていて、実は私たちの感情は、一時的には高ぶっていたとしても、やがて自然に、時間とともに落ちつくようになっているのです。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
過食や過食嘔吐をしないようにすることは、「死人のゴール(Dead Men’s Goals)」と呼ばれています。「死人のゴール」は行動ではなく、単にしないことを説明しているだけですから、逆に、過食や過食嘔吐を助長してしまうのです。
要は、ゴールを「これをやらない」という表現で表すと、セラピーで身につけたり、強化したりする行動がなくなってしまうのです。
(中略)
「代わりに何をしますか?」
「今までの行動の何を変えますか?」
「どんなスキルを学ぶ、もしくは練習しますか、またはどのようなスキルをもっと効果的に使えるようになる必要がありますか?」
(中略)
ACTのような行動療法の目的は、今までの望ましくない行動ではなく、新しくより望ましい行動を強化することです。
たとえば、衝動の波のサーフィン(urge surfing)やマインドフルなストレッチをしたり、碇を下ろしたり、落ち着いた声で話すなど、これまでとは異なる行動を強化していくのです。
上記は第3世代の行動療法であるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)のやり方ですが、実は対人関係療法で治療者と一緒に考えていく協働的な行動フォーミュレーションは、精神力動的な治療よりも行動療法に類似する方法の1つ、といわれているのです。
みなさんも「食べないようにしよう」と考えてしまったら、「おっと!代わりに何をするんだっけ?」と思考を調整してみてくださいね。
院長
日本摂食障害協会の『摂食障害 理解と回復のために』を元に作られた記事が、NHKオンライン「ハートネット」ポータルサイトに公開されています。
摂食障害かなと思ったら
(1)摂食障害のある人に医療ができること