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摂食障害の鑑別治療学1

[2013.09.17]

DSMによる診断基準では、異常な体重減少や食行動の異常など、外から観察出来る現象を列挙してあり、摂食障害の中核的な精神病理である「やせ願望」「肥満恐怖」あるいは、「ボディイメージの障害」などへ触れてはあるものの、個々の患者さんの内面の独自性には言及されていません。

患者さんは食べものに対するイメージ、身体感覚、パーソナリティ、対人関係のパターン、家族関係、ストレスコーピングやコミュニケーションスタイルなどどれをとっても大きな違いがあります。

食習慣や食行動の異常が摂食障害と同じような症状を呈したとしても、各人の独自性や背景を無視して同じ治療法を進めてよいか?ということに大きな疑問が出てくると思います。

 

例えば。
対人関係療法は摂食障害の中でも特に、神経性大食症(過食症)に対する効果が実証されている精神療法ですが、対人関係療法はもともと大うつ病性障害に対して認知行動療法や薬物療法と同等の効果のある期間限定の短期精神療法として作られました。

対人関係療法は理論を持たないとの誤解がありますが、対人関係療法はうつ病の原因を説明するものではなく、うつ病の原因および脆弱性における遺伝、生化学、発達、パーソナリティの各要素の役割を認識しながら、うつ病患者の気分と現在の対人関係の関連を強調したものとなっていますので、発症の原因について言明しないということですよね。

しかしながら対人関係療法は、病気の発症における、愛着、きずな、ストレス、対人関係上の不和の重要性や、対人関係療法の理論的な基礎など、対人関係療法の原理の多くは、精神分析の一派であるサリヴァンやマイヤーらの対人関係学派から得られており、うつ病が対人関係の状況の中で起こり、この対人関係状況に対して急性期の精神療法的介入をすると、急性エピソードからの回復を促進し、再燃や再発に対する予防効果を持つ可能性があるということで、うつ病患者のニーズに合わせて特別に作られ、その後、摂食障害(過食症)などの他の疾患向けに修正されてきました。

 

何百というさまざまな精神療法がありますが、特定の疾患に対する効果を検証されているものはごくわずかであり、同時に特定の疾患のすべての患者がこれらの治療に反応するわけではないということも以前から知られていました。

治療を選択する際には、単なる治療者の個人的な好みではなく、広範囲の選択肢を考慮すべきであり、それについて考えられる効果のエビデンスを比較検討すべきであるという「鑑別診断学」の考え方があります。

つまり治療者は、自分が用いる治療法の理論と技法の特徴を検討し、どのようなタイプの患者に有効でどのような限界を持つかを自覚している必要があるということです。

もし限界があるなら、それを越えて立ち入ることは患者にとっても決して好ましいことではないはずですから、自分の立場や技法に適したタイプの患者の選択基準を明確にしておく必要があるということですよね。

 

どのような臨床的特徴を持った患者にどの治療法が最も良く効くか」という評価について行われた、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の「うつ病治療における比較研究プログラム(TDCRP)」の中で得られた対人関係療法の限界について、次回、考えてみようと思います。

院長

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