摂食障害の子に対する自責感を軽くするために
進級や進学、就職などで、希望を胸に抱き、あるいは不安を抱えながら、新しい生活を始めた人も多いかも知れませんね。
このような時期、つまり外界からの新たな刺激に対して身心が適応しようと努力する反応をストレス反応と呼びます。
ストレス反応は、不快感を持って自覚されることが多いのですが、ストレスを単にネガティブな問題として受け止めることは、生存のために本来必要で不可欠な適応過程そのものを排除することにつながってしまいますよね。
ストレス反応は一般的には気分や感情の変化として受け止められることが多いのですが、なげやりになったり、消極的になったり、アルコールの量が増えたりなど、行動パターンの変化としても表現されます。
ダイエットからの拒食や、大食、ダラダラ食い、過食嘔吐なども、このストレス反応の表現の一つであると考えることもできます。
娘さんがダイエットを始めて、ほとんど食事を摂らなくなりどんどん痩せていく。あるいは大量のお菓子を買い込んで部屋に籠もってしまい、家族とは口をきかなくなった。
このような状況が起きてきたとき、ご両親とくにお子さんを思うお母さんは心痛を深めていらっしゃると思います。
『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』にはこのような1節があります。
援助者であるあなた自身が、自分のことを大事にしているお手本を見せてあげましょう。
(中略)
摂食障害に当てはめて言えば、これは、大切な人に最大のサポートを提供するためには、まずあなた自身が助けを求めてください、ということになります。
(中略)
摂食障害の知識のある専門家に連絡して、助言を求めましょう。研究成果に基づいた治療方法を採用しているかどうかの点も含めて広く色々な意見を聞くとよいでしょう。
(中略)
一人ひとりに合わせた、その人のための治療計画が必要になります。
どんな治療方法にしても、栄養面の支援が含まれているかどうかを必ず確かめてください。何と言っても食べ物が一番の薬です。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
摂食障害の治療として、認知行動療法や対人関係療法などの精神療法を始めるときには、何と言っても栄養状態が改善していることが最初の課題になります。
だからといって、前熟考期や熟考期の娘さんを無理やり医療機関に連れて行くことはしないでくださいね。
ジェニーさんも書いているように、まずお母さん自身が助けを求め、相談したり意見を聞くことが必要です。
そして気がかりな娘さんに接するときには、「病気」という視点ではなく「困りごと」という視点が何よりも大切です。
それは、ふつうに食べられない状態を「摂食障害」という病気とみなし、治療の対象とする現行のやり方では到達できない領域があり、それがふつうに食べられない状態の理解を不完全なものにとどまらせているという見解である。
磯野真穂・著『なぜふつうに食べられないのか 拒食と過食の文化人類学』春秋社
疾病性、つまり病気か病気でないか、症状が良くなっているか悪くなってきているかを話題の中心に置いてしまうと、生活ではなく病気が話題の中心になってしまいます。
家庭や学校は、病院や治療機関ではありません。学校や家庭は生活する場所であり、生活する場所で現実に起こっている困りごとを話題にする点が大切になってきます。(森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社・改変)
シンシアは間違った人生にとらわれたと感じ、失望感を抱いて、自分自身を責めており、罪悪感を抱き、お先真っ暗で、悲しくて腹が立つと感じていた。その間ずっと人生から引きこもっており、自分が体験していることを解決するどころか、それを扱う術すらまったく持ち合わせていなかった。彼女はあきらめきっており、抑うつの深みへとどんどん沈んでいった。
もし、あなたがこの若い女性を助けたいと思ったらどうするだろう?どうやって、役に立とうとするだろう?
シンシアを内科医に会わせて、彼女の困難を医学的に説明してくれるものがあるかを確認するために、身体検査を受けてもらうだろうか?
おそらく抗うつ薬治療が助けになると考えて、アセスメントのために彼女を精神科医に会わせたいと思うだろうか?
心理学者に会わせて、彼女の感情や反応に対して何らかの洞察を得るように努力させたいだろうか?
(中略)
情動を表出する代わりに、目標を明確化して、彼女の歪んだ思考を修正することに焦点を当てる別の心理学者はどうだろう?
もう一度コミュニケーションを取り戻すべく、結婚カウンセラーや家族療法家に会いに行かせるだろうか?
(中略)
この事例において、明らかに不幸な人を目の当たりにすることは、あなたの中に何らかの反応を引き起こす引き金になったに違いない。
(中略)
われわれの誰もが、当然のように自分独自の観点からものごとを見る。われわれに突きつけられているチャレンジは、自分の観点が何らかの形で自分を傷つけるようになってしまったとき、その観点を変えることなのである。
ヤプコ『鬱は伝染る。』北大路書房
ジェニーさんも「自分を責めないでください。(中略)支える側のあなたが後ろめたさや罪の意識から完全に解放されてはじめて、より良い支援を提供できるようになります」と書いています。
そうはいっても、ご両親とくにお母さんは「自分に問題があるのではないか?」、あるいは「育て方が悪かったのではないか?」、「対応の仕方が悪いのではないか?」と考え、「摂食障害の娘に、どう接したらいいんでしょうか?」と治療者に正解を求めてしまいますよね。
自分の弱さを恥じ、自責の悪循環に陥るよりも、このようにして自分の限界を知ったうえで、自分にできる今ここの努力を重ねていくことが、本当の意味での強さにつながるのだといえる。
藤原、他『心は鍛えられるのか』遠見書房
正解を求めたくなる行動の背景に、自分のせいだとか自分が悪いという自責が潜んでいますよね。
ですからお母さん方には「まず自分自身と向きあってみて、何が問題だと感じているのかを一緒に考えていきましょうか」とお伝えしているのですよ。
院長
お知らせ
日本摂食障害協会から、「新型コロナウイルス感染症が摂食障害に及ぼす影響」レポートが公開されました。