摂食障害の回復と「評価への過敏性」の2つの次元
[2014.07.28]
社会学の観点から摂食障害の回復について論じた『摂食障害の語り〈回復〉の臨床社会学』には
摂食障害からの回復を一律に定義することはできないと慎重に留保しつつも、フェミニズム・ジェンダー論アプローチに立脚する浅野は、「摂食障害から抜け出すためには、自らもどっぷりとつかりこんでしまっている『容姿』にもとづく評価の構造を見すえて、そのカラクリを見抜いていくことが重要である」(浅野 1996: 140)と述べる。 『摂食障害の語り〈回復〉の臨床社会学』中村英代・著 新曜社と「評価の構造とそのカラクリを見抜いていくこと」という主体の能動的な働きについて示唆されています。 この「評価」とは過食症の対人関係療法による治療でもしばしば「焦点となる問題領域」として設定する「評価への過敏性」ということですよね。(過食症にだけ特別に設定される「対人関係の欠如」のことです) しかし、ほとんど知られていないことなのですが、じつはこの「評価への過敏性」は2つの次元があるのです。 その2つの次元とは摂食障害の病理でもある「肥満恐怖」と「やせ願望」に関するもので、
・自分自身に対する評価が「やせたか太ったか」だけで下される ・相手からの想像上の評価を気にするようになるという2つなのです。(もちろんオーバーラップするケースもかなりあります) 『自分自身に対する評価が「やせたか太ったか」だけで下される』という「評価への過敏性」は、「プチ・トラウマ」とも関連した「自分を傷つけそうな評価を特に気にする」ということで、ここでは「現実の対人関係(対幻想)」をあつかい相手との折りあいをつけていく、ということになります。
プチ・トラウマが他人からの評価に対する不安を生み出すと言っても、実際にはほとんどの人が他人から批判された経験を持っているわけであり、その人たちのすべてが他人の言動にそこまで敏感になっているわけではありません。 その違いを作るのは何かと言うと、その人のもともとの状態と、批判された体験をどのように位置づけたか、ということです。 『ダイエット依存症』水島広子・著 講談社この「どのように位置づけたか」というやり方は
私たちの気分を悪くするのは他人や出来事そのものではない。それに対する自分のとらえ方である。とらえ方を決めるのは自分のこころの姿勢である。 『怖れを手放す』水島広子・著 星和書店というアティテューディナル・ヒーリングで中心となる考え方ですし、また
「心の不調」は、厳密にいえば直面している問題そのものから、直接生じることは決してない。 「心の不調」は、その問題を「どのように意味づけたか、どのように価値づけたか」によって生じるのである。 『吉本隆明「心的現象論」の読み方』宇田亮一・著 文芸社のように、吉本隆明がいうヒトの心が「個人幻想」「対幻想」「共同幻想」という3つの対人関係として立ちあらわれるという考え方とも共通するものですね。 このプチ・トラウマに関して、「複雑性PTSD」や「愛着障害」と安易に診断してしまうドクターもいらっしゃるようです。 安心感を感じることができずに、不安を伴う状態ですから、「複雑性PTSD」や「愛着障害」に見えなくもないのですが、むしろ「不安型気分変調症(性格スペクトラム障害)」のようです。 (『愛着の形成プロセスとその障害』『さまざまな「慢性うつ病性障害」2』参照) クロニンジャーの理論で言うと、
「自己志向」「協調性」「自己超越」などの性格が心の病気が起きるかどうかを決定し、「新規追求」「損害回避」「報酬依存」などの気質が心の病気の内容を決めるということですから、「その人のもともとの状態(気質)」と「どのように位置づけたか(性格)」をみていく必要があるということですよね。 「批判された体験をどのように位置づけたか」を考慮して、現実の対人関係の中で「自己志向」「協調性」「自己超越」を高め、「新規追求」「損害回避」「報酬依存」などの気質を調節出来るようになるという「脆弱性からの成長」の視点を取り入れない限り、「他者(親)のせいにする」という他罰・外罰傾向を強めるだけでなく、「他者(親)が変わってくれないと自分も変われない」という「他者に委ねた生き方」を助長してしまいますよね。 もう一つの「評価への過敏性」は、『相手からの想像上の評価を気にする』という「自分の価値を下げそうな評価をとくに気にする」という想像上の相手とのやり取りになっているのです。
じつは、自分が他人からどう評価されるかということにとらわれている人と話していると、「リアルな人間関係が少ない」ことがわかります。 想像上の人間関係はたくさんあるのです。 例えば、「こんなことをしたら○○だと思われるのではないか」「きっと××と言われるに違いない」というように、頭の中では相手が大活躍しています。 『ダイエット依存症』水島広子・著 講談社気分変調性障害(慢性うつ病)や社交不安障害でもみられるこのような状態を三田こころの健康クリニックでは、患者さんの言葉を借りて「脳内劇場」と説明していますよね。 治療の中では「実際の(リアルな)やりとり」に主体的に関わることで、「自分自身との折りあい(個人幻想)」を扱っていきますよね。 対人関係療法は、現実の二者関係(対幻想)だけでなく、「現実の対人関係をあつかう」ことで自分の脳内劇場も変えていくという現実志向ですから、
摂食障害、社交不安障害など、「形」にとらわれる病気になる人たちは、ほとんどが、リアルなやりとりが少ない人たちです。 ですから、治療において、自分の気持ちを見つめて実際に人に伝え始めてみると、劇的な効果が現れるのです。 『ダイエット依存症』水島広子・著 講談社ということで、ここでも対人関係療法の基本原則である
○自分の気持ちをよく振り返り言葉にしてみる ○自分のまわりの状況(特に、対人関係に関するもの)に変化を起こすよう試みるということが貫かれており、これが
この病気(摂食障害)の治療の大原則は、あくまでも、症状にとらわれないということであり、同時に、症状から自分のストレスに気づくことなのです。 『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』水島広子・著 紀伊國屋書店にあるように、2つの「評価への過敏性」に対しても、主体をもって能動的に関わるプロセスが必要になるということですよね。 院長