摂食障害と気分障害
[2014.01.20]
摂食障害、とくに過食症と気分障害が併存することはよく知られています。
とくに慢性うつ病性障害(気分変調性障害)や双極性障害では、うつ状態が強くなったときに過食が起きやすくなります。しかし、「非定型の特徴をともなう気分障害(非定型うつ病)」や大うつ病性障害では注意が必要です。
いわゆる「非定型うつ病」は
A. 出来事に対する気分の反応性 B. 特徴的な症状 (1) 著明な体重増加または食欲の増加 (2) 過眠 (3) 鉛様の麻痺 (4) 長期間にわたる対人関係の拒絶に敏感 C. メランコリー型や緊張病性の特徴の診断基準を満たさないという特徴を持ちます。 なかでも問題は【(1) 著明な体重増加または食欲の増加】で、たんなる「食べ過ぎ」や「どか食い」にすぎないのにこれを安易に「過食」としてしまう過誤診断が多いようです。 (『むちゃ食い症候群』参照) さて、気分変調性障害(慢性うつ病性障害)や双極性障害などの気分障害は、摂食障害、とくに過食症にとっては準備因子となります。 (『摂食障害の準備・誘発・維持因子1』参照) 他の医療機関に通院したことのある過食症の患者さんの中には、うつ病が合併していると診断され抗うつ剤を服用したことがあるが効果が感じられなかったのでやめてしまった、あるいは抗うつ剤で過食が悪化した、とおっしゃる人が多くいらっしゃいます。 実際に三田こころの健康クリニックに対人関係療法による治療を希望されて受診されたうつ病と診断されている過食症の患者さんを診断してみると、多くは、過食(あるいは自己誘発嘔吐)後の罪責感や自責感をうつ病とみなされ抗うつ剤が処方されていました。 (抗うつ剤には食欲増進作用があるため、過食症には不向き) 気分変調性障害に大うつ病性エピソードが重畳した「二重うつ病」の既往がある人は数例いらっしゃいましたが、大うつ病によって抑うつ状態が強くなるとむしろ過食は減る経過をたどるようです。 つまり、大うつ病では過食するだけのエネルギーが残っていないのです。 数年前、摂食障害学会で、ある有名な施設から併存疾患としてうつ病がもっとも多かった、という発表があったのですが、質問してみると気分変調性障害はほとんどなかったとおっしゃっていました。 三田こころの健康クリニックでも水島広子先生のクリニックでも、過食症の併存疾患(先行疾患)では気分変調性障害が7割を占め、大うつ病はほとんどなかったことと矛盾します。 どういうことかというと、症状がいくつ当てはまったからこの診断という操作的診断基準(DSM)を安易に使用した弊害なのです。 実はDSMには症状がいくつ当てはまったかではなく、診断を決定するのは臨床判断であることを明記してあります。 つまり、患者個々の発達レベルやパーソナリティ、病前性格や葛藤、愛着スタイルを含む対人関係パターン、職場・家庭環境などの生活環境(環界)との関係など、その人の人生のどのような文脈で病気が発症してきたのか、という精神病理やナラティブまで視野に入れた患者さんをわかろうとする努力がおざなりにされ短時間診療、薬物療法偏重主義が横行していることに原因があるようです。 「診断する」という営為は治療方針(方向性と方法)を決定づける重要なプロセスです。 そのため、かならず治療者は、病気をどう理解し位置づけたかのフォーミュレーション(説明)を行います。 治療はこの先の人生が病気のために損なわれないようにするという、病気から自分の人生を取り戻す作業ですから、対人関係療法に取り組んでいらっしゃるかたはそういう気持ちでいてくださいね。 院長