摂食障害といわゆる「発達障害」
対人関係やコミュニケーションに偏りがあり、活動と興味が限局し、生きづらさを抱えたアスペルガー症候群や広汎性発達障害など「自閉症スペクトラム障害」や、年齢不相応な不注意や衝動性を抱えた「注意欠陥/多動性障害(ADHD)」、あるいは、特定領域においてのみ到達度の低さがみられる「学習障害(LD)」などが、いわゆる「発達障害」として近年増加傾向にあり、クローズアップされています。
これまでも何度か触れたように、アスペルガー症候群や広汎性発達障害では、興味や関心の幅が限局され、没頭し固執しやすい特徴から強迫性障害も併発しやすいことが知られ、「過度の運動を行っている日数」が自閉傾向と相関し、また知覚の過敏性やこだわりなどから偏食であることも多く、食行動や食習慣の異常を伴いやすい傾向があります。(これが摂食障害と誤診されます。)
(「摂食障害と発達障害(重ね着症候群)〜その1」「摂食障害と発達障害の共通点〜その2」
あるいは「摂食障害と発達障害の共通点のまとめ〜その3」「摂食障害と発達障害の治療〜その4」)
もちろん、アスペルガー症候群や広汎性発達障害でも、典型的な摂食障害を発症することもありますが、多くは前思春期から思春期にかけて心理的に負荷がかかり、二次障害としての食習慣あるいは食行動の異常を呈しており、「やせ願望」や「肥満恐怖」の文脈で説明できないこと(アスペルガー症候群のやせ願望は「見返してやる!」になることもあります)、食習慣や食行動以外にもさまざまな強迫的なこだわりがみられること、低体重が回復してもこだわりが残ること、が鑑別になります。(自我親和的なので本人は苦痛を感じていないことも多い)
「やせ願望」や「肥満恐怖」が明確でないにもかかわらず、体重増加に対するあらゆる試みに抵抗する「拒食症」の中で、「思春期やせ症・前思春期群」とか「強迫性」あるいは「スキゾイド」のパーソナリティ特性と考えられてきた一群が、DSM-5では「回避/制限性食物摂取障害」としてまとめられました。
一方、ADHDでは
さまざまな程度の衝動性、
自己に対する評価の低さ、
不安定感(安定しているように見えても、時には自分のまわりが崩壊するような感覚)、
際限のない心配性、不注意、
結果の予測などの論理的思考が困難(実行機能の障害)
を認めることが多いことが知られています。
ADHDと摂食障害との関連では、「体型・食事・体重への囚われ」などの認知、「胃を空にしようと試みる」「会食を避ける」「隠れ食い」などの行動や「食事に対する罪悪感」など、「過食症(BN)」や「むちゃ食い性障害(BED)」に似た自覚的過食のあとの自己誘発嘔吐を行う「排出障害」や、チューイング(噛み吐き)など食行動の異常を示すことが知られています。
食行動や食習慣以外にもさまざまなアディクションや依存がみられ、これを「多衝動型過食症」と呼ぶこともあります。
アスペルガー症候群や広汎性発達障害などの自閉症スペクトラム障害とADHDは高率(40~60%)に合併することが知られていますし、思い通りにならないことに対する耐性の低さや衝動性、あるいは没頭性や固執がみられること、話し合われたことに対して一部しか理解していなかったり、自分に都合の良いように誤解したりなど、言葉を使ったやり取り(コミュニケーション)が難しく、対人関係療法だけでなく認知行動療法も困難といわれています。
(それでも治療可能な場合も多々ありますし、実際に効果が出ています)
とくにアスペルガー症候群や広汎性発達障害などの自閉症スペクトラム障害やADHDは、「重要な他者」である近親者もしくはパートナーにもその傾向を有する方がいらっしゃることが多いため、「重要な他者」にサポーターとして機能してもらう対人関係療法での治療は難渋します。
(ご自身で自覚がないことがほとんどですが)
いわゆる「発達障害」者に対しては既存の精神療法ではなく、認知的な偏りを扱いながらの問題解決的なアプローチや生活スキルトレーニング(LST)や社会スキルトレーニング(SST)などの行動療法的プログラムで改善がみられることもあり、当人の生来的な発達特性に応じた柔軟な対応が必要みたいですよね。
院長