摂食障害から回復するために必要なスキル
三田こころの健康クリニックでクロニンジャーの気質性格検査をしてみると、本に書いてあることと違って「新奇性追求(冒険好き)」が高い人はほとんどいらっしゃらないことは以前から指摘していました。
本に書いてあることが現在の状況に合わないもう1つのポイントが、過食症やむちゃ食い症の人は「自己志向性」がかなり低く、一方で「協調性」は異常に高いことをどう読み解くかということなのです。
摂食障害の人の特徴として、私の患者さんのデータをはじめさまざまな調査の結果「協調性」が比較的高いということは注目に値します。
「手がかからないよい子」というタイプにしろ、「明るくて社交的」というタイプにしろ、「協調性に問題あり」と思われているような人はほとんどいません。
他人への配慮も十分で、それが十分すぎるためにかえって問題になるというパターンが多いのです。
(中略)
一方、「自尊心」はかなり低くなっています。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店
プロセスであるはずの「自己志向性」を結果としての自尊心(知覚能力)と誤解すると、「自己志向性」の低さと「協調性」の高さの乖離を読み誤ってしまうことになります。
「自己志向性」やその中心である「自己受容」は、「メンタライゼーション」と言い換えることもできます。
メンタライゼーション、あるいはメンタライジングとは、
自己・他人の行動を、心理状態(欲求・感情・信念)に基づいた意味のあるものとして理解すること
です。
つまり自己の次元の成長である「自己志向性」が低くて、社会性や関係性の次元の「協調性」が高い状態は、他者の顔色を読んだり、頭の中であれこれ推測はするものの、その推測が現実と合っておらず、読み間違いをしているということです。
本人は気遣いをしているつもりでも、自己中心的な解釈(脳内劇場)の中での気遣いに終始し、現実の他者とのリアルな関係性が欠如している状態です。これは過敏型自己愛の特徴のひとつでもある、自分自身の心理状態だけでなく他者の心理状態への理解が難しいということなのです。
彼らと関わるとき、いつも私は心に1つのイメージが湧きます。
マンホールの蓋の上にしゃがみ込んで、ただただその蓋が開いて下から汚水が噴き出してこないようにすることに全体重をかけて何とか生きている人のイメージです。
彼らはみな、幼少時代からの厳しい、未解決の感情を処理することもできないままとにかく上から重たい「心の蓋」をして、それが噴き出してこないように、全体重をかけてすべての感情を抑え込んでいるのです。
崔烔仁『メンタライゼーションでガイドする外傷育ちの克服』星和書店
上記を読むと、『素敵な物語』で述べられている摂食障害の発症プロセスがヴィヴィッドに理解できるような感じがします。
私たちは感情を抱いたり表現したりするのではなく、それを不合理だとして否定し押し込めるようにと教えられます。
(中略)
感情や直観に耳を傾けることをやめてしまったとき、私たちの心は恐ろしい暗闇へと放り込まれます。
そしてこの暗闇では、感情、空腹感、そして欲望が、すっかり不可解で破壊的な力へと変わり果て、私たちの体と心に復讐してそれをめちゃくちゃに打ち壊してしまうのです。
(中略)
こんなふうに自分の大切な部分を否定することは、大きな痛手となります。月日が経つにつれ、もやもやとした、何とも言えない空虚感に苛まれるようになるのです。
そして何とかそれを埋めようとします。
自分の感覚を否定し続けてきた結果、もう自分が本当は何を欲しているのかわからず、何かに飢えているこの感覚を体の空腹感だと思ってしまいます。
こうして、狂ったように食べまくるようになるか、食べても食べても満たされない食欲を恐れて、食べることそのものを止めるようになってしまうのです。
ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
こうみると、摂食障害症状や摂食障害行動は、自分の大切な部分を押し込めているマンホールの蓋が開くのを一生懸命におさえている状態のようですよね。
蓋を開けて自分の心を見つめることや感情や身体感覚など自分の大切な部分を使って現実に対処するためのスキルが十分でなかったときに、唯一、自分を支えてくれた方法が摂食障害行動だったんだと理解できますよね。
そのため「脳内劇場」から離れて、現実的なライフスキルを身につけていく必要がありますよね。
○気持ちのつかまえ方とコミュニケーションの基礎⇨人の心の仕組みと動き方を知る。
○怒りへの対処法⇨誰の問題化を明確にし、トラブルにならない言い方を身につける。
○自分の選択に自覚と責任を持つ⇨自分の人生は自分が主人公・味方をふやす。
三田こころの健康クリニックでは上記の3つのスキルを身に付けることを、対人関係療法を治療の柱にしているんですよ。
院長
※ちなみに「脳内劇場」三田こころの健康クリニックに通院されていた患者さんが語られた言葉で、患者さんから許可をもらって使っています。「脳内劇場」と書かれている本もあるようですが、パクリですのでご注意ください。