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摂食障害から回復するために回避されてきた気持ちに向き合う

[2018.07.02]

以前は、ストレス(出来事や状況などのストレッサー)やネガティブな感情(ストレス反応としての苦痛を伴う感情)が摂食障害症状(とくに過食や過食嘔吐)の直接の引き金になると考えられていました。

最近では、「内的感覚への気づき困難」と「感情調節スキル不足」によって、情動反応が高まるとすぐにそれを止めなければという切迫感を覚え、過食あるいは嘔吐という過剰に学習された「衝動的な不適応な気分調節行動」が始まると考えられています。

 

たとえば、みなさんの中でも月経前に過食や過食嘔吐が増えることを体験されている方も多いかもしれませんね。内的感覚への気づき困難によって、月経前あるいは月経中に身体に起きる反応を自然なものと認識できずに、気分調節行動に走ってしまいますよね。

そして「衝動的な不適応な気分調節行動(摂食障害症状)」を行ったことにより、低下した感情に対するコントロール感(やっちまった感)が恥と自責感(罪の意識)をもたらします。

感情の受容と感情耐性が低下することで、ますます「衝動的な不適応な気分調節行動(摂食障害症状)」だけが精神的な支えになると感じ、「食べ吐き」に頼るようになる(クセになったと感じる)摂食障害症状のサイクルにはまり込んでいくことが示されています。

 

空腹は気持ちを麻痺させ、過食はその気持ちをなだめ、嘔吐は安堵をもたらす。
回復の試みは、堪えがたいものとして経験され、回避されてきた気持ちに向き合うことで達成される。
ただし、その過程では、そうした気持ちから逃避したいという欲望も伴い、それが症状の再発へとつながることもある。

グリーンバーグ『エモーション・フォーカスト・セラピー入門』金剛出版

 

「乱れた食行動(摂食障害症状)」を使って気持ちを感じることを回避していると(抑制:気そらし)、しだいに自分の気持ちがわからなくなるだけでなく、その気持ちを引き起こした出来事も思い出せないようになってきます(抑圧)

皆さんの中にも、初めて過食したとき、あるいは初めて嘔吐したとき、だけでなく、高校生の頃、中学生の頃、小学生の頃、幼稚園の頃、どんなことがあったかを思い出せない人も多いのではないでしょうか?

気持ちを回避すると、それを引き起こした出来事も思い出せないようになってしまうみたいです。

 

「回避されてきた気持ちに向き合う」準備として、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来では、「回復への動機を認識し、探究し、強化してみよう」(『摂食障害から回復するための8つの秘訣』p.28)を治療導入時の課題にしています。治療開始までに少なくとも「準備期」まで治療準備性を高めておいてくださいとお願いしてますよね。

回復への動機の段階が「準備期」まで達して「回避されてきた気持ちに向き合う」準備ができたら、対人関係を含む日常の出来事を振り返る中で、「出来事をどう体験したのか(観察・解釈・感情・行動)」を治療者と一緒に見ていきますよね。

 

「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」は、人間関係の中での出来事(評価を受ける、人と較べる)だけでなく、さまざまな日常の出来事の中で誰しも感じる不安や怒り(イライラ)、抑うつ(気持ちが沈む)などの感情体験を、「過食衝動」を使ってなだめよう、麻痺させよう、なかったことにしよう、としてしまいます。

過食衝動は、始めたばかりの頃には高まった感情体験をすぐに解消してくれる渇望(肯定的期待感)として感じられます。しだいに理由や誘因もなく、気がついたときには過食や嘔吐をしているようになります。あるいは今日は過食する嘔吐すると計画したりするので、多くの「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」が「クセになった」と感じてしまうのです。

 

たとえば、45分間タバコなしでいられるはずはないと考えている喫煙者がいたとしよう。彼らは、45分間持ちこたえられても圧倒的な喫煙欲求を抑えられるなどとは考えもしない。
しかしマインドフルネスは、その衝動や渇望から目をそらしたり、その勢いに圧倒されたりせずにそれを観察し、取り組むための「すぐれた道具」となる。

前述の喫煙者が、タバコに火をつけないでいるとますます吸いたくなる衝動にかられても、吸わない時間を与えられることで、衝動と渇望は彼ら自身の中で変化する。
さらに、マインドフルネスを通じて、人が馴染みのある条件行動、習慣行動をとる代わりに、メタ認知の気づきによって「全体像」を見ることができるようになる。
この気づきは私たちに選択する自由があることをわからせてくれるのだ。

ボウエン・他『マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

 

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来では、上記のマインドフルネスを「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」「心の状態の変化についての気づき(行動の仕方を改善する)」として、「衝動の波に乗る」を勧めていますよね。(『8つの秘訣』P.209参照)

 

過食を始めたり、食べることをコントロールできないと感じたりしたときは、いったんストップして自問することです。

「何が起こっているのだろう。このきっかけになった対人関係上の問題は何だろう。それによって自分はどんな気持ちになっているのだろう。この状況を何とかするためには、どうしたらよいのだろう。」

はじめは難しいかもしれません。

動揺する状況を心にとめるようにし、そのときに起こっているものや気持ちに注目してみてください。そのときに起こっているものに、です。

これがうまくできるようになると、自分の悩みを隠すために食べ物を利用しなくてすむようになってくるでしょう。

ウィルフリイ『グループ対人関係療法』創元社

 

多くの「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」は、過食衝動が起きてから取り組もうとして、うまくいかないことが多いですよね。

車の運転を学ぶときも、いきなり路上で練習するのではなくまずコースの中で練習して、それから路上に出るというプロセスを踏む必要があるのと同様に、いきなり本番で過食衝動と向き合おうとしても難しいのです。

そのため、普段から自分が何を考え、どんな気持ちになっていて、身体にはどんな感覚があるのか、自分のこころの中で起きていることを振り返る練習を積みかさねておく必要があるのです。

 

ネガティブな感情は感じないようにすればするほど、大きく感じられてしまいます(リバウンド効果)。専門外来ではシロクマ抑制課題として説明したりしていますよね。

このように、出来事と「回避されてきた感情に向き合う」ことは、その奥に追いやられていた健康的な感情に接近することでもあります。
そして「乱れた食行動(摂食障害症状)」を使わなくても、自分の気持ちを実際に感じることができて(感情受容)、耐えられるのだという実感(感情耐性)を体験することなのです。

その実体験を通して、「乱れた食行動(摂食障害症状)」が肩代わりしてくれていた感情を受け入れ、調整し、なだめ、変容する能力を自分がもらい受け、それを高めていくことが、「乱れた食行動(摂食障害症状)」から回復するという意味ですし、「生き方を変えていく」プロセスなのですよね。

 

院長

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