拒食症にみられる過活動の意味
『拒食症の症状の意味を考える』で、健康な場合は飢餓が続けば、生命の危機に陥らないよう食欲が増して体重を戻そうとする反応が生じる、ということを書きました。
しかし中には、食事制限を続けると、ますます食欲が低下するメカニズムを持っていて、拒食状態に陥りやすい人がいることがわかっています。
動物にも似たような状態があることが知られていて、脂肪の少ない品種の豚を掛け合わせて生まれた仔豚を親から引き離すなどのストレス下に置いたときに
・食欲低下
・体重減少
・過活動
など拒食症と似た行動パターンがみられ、Thin sow syndrome(やせ雌豚症候群)と呼ばれています。
この仔豚は拒食症なのでしょうか?
拒食症の場合は「やせ願望」「肥満恐怖」という摂食障害に特有の精神病理があり、ダイエットに取り組むきっかけや食欲がなくなった背景にストレスや不安、自信のなさなど心理的な問題があることが多く、そのため、精神療法が必要になります。
しかし「やせたい気持ち(desire for slenderness)」と、病理である「やせ願望(drive for thinness)」は異なり、拒食症の場合は、むしろ「恐怖」がテーマになります。
この「恐怖」はストレスや不安と関連しており、自信のなさに向くと「肥満恐怖」となり、食欲調節の機能的破綻に向くと「飢餓恐怖」になります。
拒食症の場合の過活動はエネルギーを消費してさらにやせるため、と解されることが多いのですが、上記のThin sow syndrome(やせ雌豚症候群)での過活動は食べ物を求める探索行動ということになります。
実際、拒食症の人に過活動を聞いてみると、「なぜだかわからないけど、やらないとコワイ」とおっしゃいます。
運動しないことによる「肥満恐怖」とも取れますが、「なぜだかわからないけどコワイ」を生理的恐怖と考えると、エネルギーを消費するためとは正反対の混乱した食物探査行動と理解出来ますよね。
本来の生命維持に関わる食欲調節の機能的破綻と、混乱した生命維持活動と考えると、安静と食事練習、それから健康な体重に戻ることへの恐怖心の緩和と安心の提供が真っ先にすべきことですよね。
身体状態が回復していない患者さんにとっては、精神療法でさえ混乱を助長することになりますよね。
恐怖心の緩和と安心の提供に必要なのが安全基地であるべき家族内葛藤の解決ですから、児童・思春期の拒食症には家族療法が推奨されています。
その際、患者さんの心の状態に応じて、ご家族も「家族がしなければならないこと、してはいけないこと」や、「摂食障害のプロセスと家族のかかわり方」について『摂食障害の準備・誘発・維持因子2』『「待てない」気持ちと短期精神療法』などを参照してくださいね。
院長