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愛着の形成プロセスとその障害

[2014.03.10]

乳児期には母に包まれた世界の中で過ごし、乳児の生まれ持った「気質」の上に母親から心象がコピーされ「性格・性質」が形成されてきます。(『愛着スタイルと社会適応』参照)

 

幼児は1歳半〜2歳前後の時期に母親の元から外の世界を探検し始める自律的行動が発達すると同時に、養育者の愛情を確認するアンビバレントな時期があり、この時期をマーラー(Mahler)は「再接近期」と呼びます。(『虐待と愛着(アタッチメント)2〜反応性愛着障害』参照)

幼児が不安に駆られ養育者の愛情を確認する行動が「愛着行動」と呼ばれ、養育者の存在によって幼児の不安がなだめられます。次第に養育者は幼児の心の中に「内在化」されるようになり、養育者がいなくても幼児は不安をなだめることが可能になります。
これが愛着形成のプロセスです。

 

児童期には、自・他の違いを認識するようになり、青年期に「自己」のアイデンティティが確立してきます。
この時に、他者に対する基本的信頼感自分に対する基盤となる肯定感、あるいはネガティブな感情の自己統制、自立と依存のバランスを保つ機能などが機能的な愛着(アタッチメント)と言われます。

 

ところが愛着(アタッチメント)の形成プロセスで、愛着は形成されているものの、質に重度の障害がある場合をジーナーらは「安全基地の歪み」と名付けています。

「愛着障害」は虐待やネグレクト、養育者の頻繁な変更などによる愛着形成のプロセスである「再接近期」での発達停止どころか、「選択的な愛着が形成されない」という最重症の障害で、一般家庭レベルでは起きないとされています。

愛着(アタッチメント)の形成が損なわれると、社会的、感情的な発達に問題が生じてきます。
とくに不安や孤独、苦痛などのネガティブな感情を感じたままにしておく(抱える)ことが困難で(気分不耐)、他者との関係でなだめたり落ち着かせたりすることも困難です。

また対人関係の文脈では、他者に対する基本的信頼感(身近な人への信頼感)が低く、自己評価(自分への信頼感)に不全があるために癇癪を起こしたり、被害的・攻撃的になりやすいことがわかっています。

 

このような症状は児童青年期では『重度気分調節不全障害:DMDD』と呼ばれ、朝は不機嫌なのに夕方からハイテンションになるという気分変動とかんしゃく(怒りの爆発)などの気分調節不全があるもので、青年期には「双極II型障害」と類似した気分変動を示すといわれています。

また不安・抑うつ状態におちいり(不安型気分変調症)、不信感を抱いて相手にしがみつく反面、見捨てられ不安も強く過剰な依存を示したり、その間で揺れ動いたり、自傷行為や過食嘔吐、アルコール耽溺などの衝動的な自己破壊的行動から「境界性パーソナリティ障害」と間違われることが多いようです。

アタッチメント形成の障害にもとづく情動調節の障害は、多動や不注意、気分変動が同時に認められることから、「複雑性PTSD」や「注意欠如/多動性障害(ADHD)」、「間欠性爆発障害」や「重度気分調節不全障害」、「気分変調性障害(とくに不安型気分変調症)」「境界性パーソナリティ障害」や「双極II型障害」などと症状だけでは鑑別できない状態を呈しますから、幼少期の生育歴などの情報が必ず必要になりますよね。

 

精神科診断は適切に行えば、適切な治療につながり、治癒あるいは十分な改善をもたらす可能性も高くなります。
診断面接(半構造化面接)には1時間ほどの時間がかかりますが、それができるのは高度に特化した医療機関に限られてしまいます。

 

三田こころの健康クリニックでは、対人関係療法というエビデンスのある治療を専門的に行うため、診断面接に1時間半〜2時間の時間を取っています。

その中で、疾患教育とともに対人関係療法の説明を行いますよね。
それによって患者さんが理解されたと感じ、受診してよかったと思っていただければ、病気のために今後の人生が損なわれないようにしていくための人生全体を変えうるような大きな転機になると思っています。

院長

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