対人関係療法による治療のすすめかた〜医学モデルと「病者の役割」
対人関係療法はもともと、大うつ病性障害の外来通院患者を対象として開発された治療法ですから、薬物療法と同様に、「特定の病気に対する効果的な治療法」という位置づけになっています。
つまり、対人関係療法は、「対人関係スキルをあげる」「洞察を深める」という類ではなく、あるいは「対人関係に問題がある人」が対象でもない、「病気の治療法」という明確な目標を持っていますよね。
さて。
対人関係療法での治療プロセス全体で「医学モデル」が基本となっていますよね。
「医学モデル」とは「病気」という概念を用いて、その状態が患者にとって基本的に望ましくないもので
自分の意思でコントロールすることが出来ないものだ、ということを明確にし、そのような患者の状態を「治療可能な病気」と位置づけていますよね。
上記の引用のように「医学モデル」が理解出来ないと、「正しい」「正しくない」というジャッジメントが混在してしまいますよね。
ジャッジメントの弊害については『トラウマの現実に向き合う』を参照して下さいね。
このような位置づけで患者さんには「病者の役割」が与えられますよね。
「病者の役割」によって、通常の社会的義務である労働などがある程度免除されると同時に、患者として治療者に協力するなどの義務が生じるという「義務の転換」により、罪悪感が減じ治療がスムーズに進むとともに、重要な他者との対人関係においても「役割期待の不一致(ズレ)」をかなり是正することが出来ますよね。
ちなみに、神経性大食症(過食症)の「病者の役割」は患者としての義務がきちんと決まっていますよね。
この「医学モデル」は疾病利得を助長させるためではなく、『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』にあるように
ここでの治療は、「任せておけば治る」というようなものではありません。
あなた自身の問題なのですから、あなた自身が最も努力しなければなりません。努力すればするほど治療効果の上がる治療法だと考えて下さい。
ただし、「努力」と言っても、それは「過食をがまんする」とか「意思を強く持つ」というようなことではありません。
努力するのは、
○自分のまわりの状況(特に、対人関係に関するもの)に変化を起こすよう試みる。
○自分の気持ちをよくふり返り、言葉にしてみる。
という二点で十分でしょう。
私たちは、あなたの努力を手伝っていくということになります。
面接は、努力の仕方について検討したり、計画を立てたりする場所だと考えておいて下さい。
ということなのです。
ときどき、ご家族から「何でも病気のせいというと、そう思いこんでしまうのではないか」という話をお聞きすることがあります。
そもそも、こういう発想そのものが医学的疾患概念を逸脱した考えであり、米国精神医学会『精神疾患の分類と診断の手引き(DSM)』で規定される診断基準を満たしている状態に対して、それが臨床疾患であることを認めないということになり、結果的に「治療の足を引っ張る考え方」になっている可能性がありますよね。
ですから、対人関係療法の導入にあたって、診断を明確にすることと、その疾患について正しく知ることは、患者さんだけでなく、「重要な他者」であるご家族にとっても必要ですよね。
院長