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家系図 

[2020.08.14]

ある日、ふと家系図を書いてみようと思いました。大きめの紙を用意して、自分の知る限りのつながりを書いてみました。

私は、幼いころから祖父母や両親から、自分の生い立ちや親や兄弟の話などをよく聞いていました。それらの話を思い出しながら、人物の横に口癖や性格、印象など思いつく言葉を書き添えていきました。

そうして出来上がった家系図を眺めてみると、実におもしろい発見がありました。世代を越えても、そして血縁関係のない両親それぞれの家族のなかでも、同じようなことが繰り返し起こっていることに気が付いたのです。

 

私が両親との間で経験したことは、おそらく私の両親も同じようなことを自分の親との間で経験してきたのではないだろうか。何世代にも渡って、同じテーマが引き継がれてきたのではないだろうか。そう思った瞬間、私の中で長年引っかかっていたつかえが取れたような気がしました。なかなか整理できなかった両親への思いも、私と両親という関係性だけでなく、何世代も前からの連続したつながりの一部としてとらえることで、ようやく腑に落ちたと感じられたのです。

 

患者さんの中にも、両親や兄弟姉妹など家族に対する複雑な気持ちをお話される方は少なくありません。また、そうした家族関係が摂食障害の発症原因であると考えている患者さんやご家族もいらっしゃいます。確かに私自身も、そう感じていた時期がありました。

しかし、その感じ方は徐々に変わっていきました。例えば親の育て方や関係性が原因で摂食障害を発症したとして、私が親元を離れ一人暮らしを始めたら症状は改善したでしょうか。いいえ、良くなるどころかむしろ悪化しました。同じように育った兄弟が摂食障害を発症しているかと言ったらそんなことはありません。摂食障害は何か一つの原因で発症するのではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると言われています。

例えば、あなたのもともと持って生まれた特性、出来事、そしてその出来事をどのように経験したのか。そういった複数の要因がたまたま鍵と鍵穴のように一致した時、摂食障害として発症するのです。ですから、摂食障害の原因をほかの「誰か」やほかの「何か」に求めることは不可能なのです。また、そういった原因探しは、「〇〇のせい」という怒りを生み、その怒りに囚われることで回復の道が阻まれることすらあるのです。大切なことは、「変えられるのは自分だけ」ということです。両親や兄弟姉妹を含め、あなた以外の人間を変えることはほとんどできないと言っていいでしょう。しかし、「あなた自身」は変わることができるのです。

 

そしてもう一つ。家族やパートナーに対し、病気の理解をどこまで求めるか、という点にも触れておきたいと思います。私が両親のせいでこうなった、と感じていた頃、それと同じくらいに「私の病気のことを分かってほしい」と思っていたからです。けれど、家族やパートナーが摂食障害について正しく理解できているかどうかと、あなたの病気が回復するかどうかは実は全く別の問題なのです。

 

「私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した」の著者ジェニー・シェーファーさんはこう述べています。

私が回復してきた過程において、両親には、エドが私をどう支配しようとしているのかという事実はわかりえないんだ、とお互いに理解し合えたときに、私は両親から本当の意味での支えを得られるようになったと思っています。「何が実際に起きているかはよく分からないけれど、でもいつでも助けになるよ」と、私の両親はよく言っていました。私たちのことを、本当の意味で理解できなくてもいいんです。ただ、私たちのことを信用してくれればいいのです。

 

ジェニーさんは、「病気の理解」ではなく、「私に対する信頼の気持ち」が大事だと述べていますね。

 

例えば、私が母に向かって、「太っている感じがするの」と言ったとしても、母は、私は太っていないと説得しようとしなくていいのです。その代わりに、母には、私は本当に太っていると「感じているんだ」という事実を認めてほしいのです。母には、それがどういう気持ちなのかということは理解できないけれど、でも母は、私の言うことをそのまま受け入れてくれます。それが、私には必要なことなのです。

 

ジェニーさんのお母さんはこのように述べています。

私も、あなたのお父さんも、摂食障害については今もよくわからないの。でも、私たちはいつでも「あなた」を理解していたし、あなたが話してくれた内容や気持ちは本物だと完全に信じていたのよ。何があっても丸ごと受け止めるのが、家族や友達の役割だと思っているから。そうでしょう?

ジェニーさんは、それに対して、

その通りです。私は摂食障害についての本を三冊書いていますが、両親はいまだに病気そのものについては完全には理解できていません。この点に注目してください。つまり、それでも私は良くなれたのです。

 

摂食障害からの回復に必要な家族のサポートは、「病気」の正しい理解ではなく「あなた」の感じたこと、「あなた」の生きている世界をそのまま「そうなんだね」と受け止める、ということが大切なんですよね。

そして互いに他者への変化を求める前に、まずは自分自身と向き合うことが何より重要なのではないかと思います。私にとっては、その大きなきっかけの一つとなったのが家系図を書くという作業だったのでしょう。

 

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