嗜癖(クセ)になった過食:計画的過食(とりあえず過食)とは
過食症やむちゃ食い症に対する対人関係療法による治療は、認知行動療法と比べて効果が出るのが遅いが、長期的な効果は同じ、脱落率や自尊心の回復には差がない、という特徴があるとされています。
対人関係療法による過食症やむちゃ食い症の治療で、過食(むちゃ食い)や過食嘔吐の減少・消失が遅れる理由は、一説には、対人関係療法では食行動を扱わないからといわれています。
実際、対人関係療法と食事指導を組み合わせたグループの報告では、8回未満での食行動異常の改善がみられたと報告しているので、摂食障害からの回復過程のなかで食べ物あるいは食べる行動に向き合うことは重要ですよね。
しかし、本当に大切なことは、食べ物や食べることと向き合う意図や態度なのです。
食べ物や食べることをガマンすると、逆に過食衝動が高まることは、皆さん、体験されていますよね。
過食衝動が起きたときに、過食する、ひたすらガマンする意外にも、自分を振り返り、何がキッカケなのか?どんな気持ちになっているのか?そしてその状況を変えるためにはどうすればいいか?などを自分に問いかけてみる選択肢もあるのです。
人生の中で誰しも、外的な刺激や出来事(ストレッサー)に対し、苦しみや痛みを感じます(ストレス反応)。
ところが問題は、ストレッサーに対して、良い/悪いという考え(解釈)を結びつけるところに問題があるのです。
同時に、その考え(解釈)に対して二次的にさまざまな感情が湧き起こってきます。
そして、私たちはすぐに何らかの反応をするように、内側から駆り立てられるように感じて、今までと同じような仕方で対処しようとしてしまうのです。
これが過食症や過食性障害(むちゃ食い障害)に特徴的な
・状況判断なくすぐ行動に移してしまう(性急自動衝動性)
・少ない報酬でも早く得ようとする(衝動過敏性)
ということですよね。
この二次的な感情反応に対して
1. 痛みや苦しみから注意をそらすために感覚的な心地よさを求める(感覚への逃避)
2. 自分の役割やアイデンティティに頼ろうとする(行動と自分の同一視)
3. 忘れ去ろうとしたり、人生や世界を拒絶する(破壊)
という、3つのレベルの反応(不適切な対処行動)が起きます。
『グループ対人関係療法』の著者のウィルフリィは
食べ物には、気持ちを静め、落ち着ける効果があります。
実際に、むちゃ食い障害の人の報告によると、過食の引き金としていちばん多いのは、ネガティブな気持ちです。
今まで、過食は、あなたが自分を大切にするためにとってきた方法だったのです。
と、過食を「気晴らし(distraction)」としてとらえています。
ところが過食は気晴らしとしての衝動のみならず、過食行動そのものが苦しみを生みだし、さらなる気晴らしとしての過食衝動につながるという強迫的な回避衝動にともなう嗜癖としての一面もあるのです。
ですから、食べることへの衝動が強くパターン化してしまい、先行するストレスフルな出来事がない場合でも、「いま食べておかないと、予定が詰まっている」と過食したくなる「計画的過食(とりあえず過食)」という行動になってしまうことがあります。
さらに多くの人は、過食や過食嘔吐が嗜癖(クセ)になったと感じ、過食衝動に抵抗することは難しく感じられてしまいますよね。
過食という習慣が、出来事に対する対処行動に組み込まれてしまい、何らかの精神的負荷から逃避する手段として食行動を使うという可能性を増大させているからなのです。
「とりあえず過食しておく」という慣れ親しんだ行動パターンにより、つかの間の安心感と、人生にはつきものの痛みを伴うさまざまな感情を遠ざけておく(注意をそらす)ことが可能になります。
しかし、誰しも感じる痛みや苦しさから注意をそらすことで、皮肉なことに、もとは心地よい気分解消手段であったはずの過食そのものが苦痛を引き起こすようになり、その苦痛を和らげるために、苦しみの源となった過食行動に逃げ込み、ますますそのパターンにはまり込むという嗜癖(クセ)の悪循環が生まれてしまうのです。
では、嗜癖(クセ)になった過食に対して対人関係療法はどのような治療を想定しているのでしょうか?
次回以降にそれを考えてみましょう。
院長