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休職の意味と課題

[2021.06.02]

こころの健康クリニック芝大門のリワークは、「休職期間が4ヶ月ほど残っている人」を対象にしています。

 

他の医療機関で行われているリワークは、たとえば4ヶ月とか6ヶ月で、プログラムを完遂することで復職可能としているところがほとんどです。

一方、こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、職場復帰準備性が高まった時点での復職が可能としています。そのため、リワークに通う期間(職場復帰準備性が高まるまでの期間)は、当然のことながら人によって異なります。

 

ごく稀に「他のリワークは4ヶ月かかると言われた。休職期間があと1ヶ月しか残っていないので、そちらのリワークに行きたい」と申し込まれる方もいらっしゃいます。職場復帰準備性の改善は人それぞれであることを説明しても、なかなか納得してくださいません。

 

休職期間がギリギリでリワークを申し込まれる方に共通するのは、職場の人間関係やコミュニケーションの問題が休職のきっかけになっているにも関わらず、「うつ病」と診断されて数種類の抗うつ薬が最大量で投与されている方が多いようです。

また日中の過ごし方や睡眠覚醒リズムなど、生活リズムを整える指導もなされていないことがほとんどです。

 

職場のメンタルヘルス対応マニュアル』という本にはこうあります。

 

休職期間の延長ですが、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」において、「療養期間の目安を一概に示すことは困難であるが、例えば薬物が奏効するうつ病について、9割近くが治療開始から6か月以内にリハビリ勤務を含めた職場復帰が可能となり、また8割近くが治療開始から1年以内、9割以上が治療開始から2年以内に治ゆ(症状固定)となるとする報告がある。」とありますので、休職期間としては通算6か月から1年となるように延長することも1つの方法です。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

誘因なく発症する「(内因性)うつ病」であっても、「9割の人が6ヶ月以内にリハビリ勤務を含めた職場復帰が可能になる」にもかかわらず、休職期間満了で退職になったり、休職期限のギリギリまで休職せざるを得ないのはどういう理由があるのでしょうか?

 

どの患者でもまずは、心身の休息、抗うつ薬、小精神療法で開始するのがよい(笠原『うつ病治療のエッセンス』みすず書房)」とされていることを踏襲されているのだと思いますが、『「うつ病」と間違われやすい「適応障害」』シリーズで解説したように、本来「適応障害(反応性抑うつ)」や、もともとストレス脆弱性のある「神経症性抑うつ」が「うつ病」と誤診され、抗うつ薬の多剤大量投与により治りきれずに長引いている、とも考えられるのです。

 

現実には、上司が厳しすぎるとか、合わない同僚がいるとの理由でうつ病になることは、まずありません。

多くの場合、自己愛の傷つきによって他罰的になると同時に現実と向き合うこと回避し、抑うつ状態(神経症性抑うつ)となり、労働効率や機能の低下につながり、休職にいたる、というケースがほとんどのような印象があるようです。

 

逆にいうと、「働き方改革」などにより長時間労働は問題視されるようになってから、過重労働や業務過多による純粋な「神経衰弱的な反応性抑うつ(適応障害)」で休職するケースが減った印象があります。

 

そもそもの休職の意味について、『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』には目が覚めるようなことが書いてありました。

 

「休職」と言うと「仕事を休む」という意味で使われることが多いのですが、労働法上の「休職」の定義は「解雇猶予」なのです。

「解雇猶予」と聞くと、かなりどぎつい言葉に聞こえてしまいますが、実は休職は解雇に比較的近い状態にあることを指すのです。

(中略)

現在の日本では、企業が積極的に復職支援に力を入れることを推奨しておりますが、本来は労務の提供ができることは労働者の義務であり、労働者自らの努力で行わなければならないことなのです。この原則論をつい忘れがちになるのですが、休職というのは解雇猶予の状態にあることは頭の片隅に入れておく必要があります。

森本・向井『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』中央経済社

 

「解雇猶予」という驚くような言葉が飛び出してきましたが、労働契約法をよく考えるとその通りなのですよね。

例えば仕事のパフォーマンスが上がらないとか、欠勤しがちであるなど「事例性」が目立つケースに対して会社から「しばらく休みなさい」と指示されることがあります。と同時に「病院に行って診断書をもらってくるように」とも指示されます。

 

休職の診断書が欲しい人には申し訳ありませんが、医学的根拠がないことを公文書として扱われる診断書に記載すると偽証罪に問われます。診断書には証明できる事実しか記載できないことをご了承ください。

 

考えてみると、「仕事ができない=病気がある」という構図は成り立たないのです。

「病気があっても仕事ができる状態(事例性がない)ならば仕事をする、仕事ができない状態(事例性が大きい or 疾病性が大きい)ならば休職する」という考え方が基本なのです。(『職場のメンタルヘルス対応マニュアル』一部改変)

 

「病院に行って診断書をもらってくるように」という会社の指示は、仕事の量を減らしたり就労時間を軽減したりなどの職場環境調整が必要なのか、そもそも心の病気のために仕事ができないのかを診断してもらい、病気のために仕事ができない(疾病性が大きい)のであれば休職させるので、診断書にその旨を記載してもらうように、という意味であって、何が何でも診断書が必要ということではないことに注意が必要です。
(字義通りに受け止めてしまう自閉症スペクトラムの人では、揉めることが多々あります)

本来なら、このような場合の対応は産業医が行うことになっているのです。

産業医面談で受診を勧められ、休職を含めた治療の必要性について臨床医が判断し、診断書を提出するという流れが本来のあり方なのです。

 

さらに病気休暇制度がない会社の場合は、欠勤は無給扱いとなります。傷病手当など社会保障制度を活用するためにも、病気であれば診断書をもらってくるようにと指示されるのです。

環境調整が必要なのか、病気の治療のために会社はどのような対応をすればいいのか、あるいは本人のパーソナリティの問題や社会性の問題なのか、このようなことを会社の産業医と主治医の連携でやっていくわけです。

 

しかし、社員さんの自覚症状と業務の関係が不明瞭だったり、仕事を続ける上で支障となるような病気の診断がつかないことも多々あります。

その場合は、社員さんは無給のまま休み続けることになります。自らの努力で行わなければならない労働力を提供できない場合は、労働契約が成り立ちません。これが休職という名の解雇猶予になるわけです。

 

現実には、多くの精神科や心療内科、メンタルクリニックの医師は、安易にうつ病・うつ状態、あるいは適応障害と診断して抗うつ薬を投与する場合がほとんどです。しかしそのようないい加減な対応では、何人もの人が1年半の傷病手当の受給期間が過ぎて無収入になったり、休職期間が満了して退職せざるを得なくなるケースもよく目にします。

 

ですから、休職の診断書を出す主治医も、休職する社員さんも、漫然と休養を取るのではなく、『「社会的うつ」と産業医の復職判定』で言及した「通常の社会的役割と義務や責任が免除される代わりに、医療者の指示に従い病気を治す義務」というパーソンズの「病人役割(病者の役割)」をしっかりと理解する必要がある、ということですよね。

 

院長

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