与えられたもの
患者さんの中には「〇㎏以下じゃないと絶対に嫌です」と言う方がいらっしゃいます。
理由を尋ねると、「小学校〇年生の時の体重がそれだから」とか、ただ漠然と「十の位が〇じゃないと受け容れられないんです」など、様々な答えが返ってきます。
しかし残念ですが、摂食障害からの回復には、あなたにとっての「理想体重」を手放すことがとても重要です。
私たちのからだは、受け継いだもの(遺伝子)によってあらかじめ決められています。サイズは違っても足の形がお父さんそっくりだとか、並んで歩く後姿がお母さんそっくりだとか、あなた自身もいろいろな場面で自覚してきたのではないでしょうか。
体つき(骨格や筋肉の付き方、骨の太さ、体重、体型)や容姿などは、好むと好まざると自分で自由に選ぶことはできません。しかし、与えられたものをどのように生かすかはあなた次第です。好きな洋服を身にまとうこともできるし、ヘアスタイルだって自由に選べます。メイクだってできるでしょう。与えられたものを否定したり、ないものねだりするのではなく、それを受容し生かすことで、あなたの可能性は無限に広がるのです。
そういう私も、ある年齢まではやはり「自分に与えられたもの」に満足できず、鏡を見てはここがあそこがと気にしてばかりいました。
けれど、治療を通じて徐々に、「これが私なんだ」と良い悪いを評価せずに受け入れられるようになっていきました。それは何かを諦めるというよりは、手放すといった感覚でした。実際に、「痩せること」や「体重をコントロールすること」を手放したことでできなくなったり諦めたりしたことは私はないように思います。むしろ、その頃とは比べようもないほど身体もこころも自由になった気がします。
自分にとって「ちょうどよい体つき」とはどんなものなのか、治療が進んでいくと身体が教えてくれるようになります。ただ、客観的な指標が欲しい方にはこちらをご紹介したいと思います。
「摂食障害から回復するための8つの秘訣」では、自然な体重(ちょうどよい体つき)でいるときの身体的指標と心理的指標、社会的指標を下記のように説明しています。
◆自然な体重でいるときの身体的指標
・摂食障害行動(たとえば拒食、過食、嘔吐、強迫的な運動)に頼らなくても体重が一定の範囲に保たれる。
・年齢相応に生理が月に一度あって、ホルモンレベルが正常
・血圧、心拍数、体温が正常
・血液検査で電解質、白血球数、赤血球数などの生化学的数値が正常
・年齢相応の骨密度
・エネルギーレベルが正常(ひどく疲れている、ふらふらする、終日イライラしている、などの症状がない)
・性欲が正常か、少なくともいくらかはある
◆自然な体重でいるときの心理的指標と社会的指標
・注意を払うことができ、集中できる(読書、映画鑑賞、仕事、学校の授業などに打ち込める)
・普通の社会生活を送っていて、ネット上だけでなく直接つながりあう本物の人間関係がある
・強迫的な思考、食べ物への強い欲求、過食したい衝動などが減っている、またはない
・一人でいても、周りに人がいても、何を食べるかを自由に選べる
・レストラン、友人宅、パーティー、休暇先などでも食べることができる
・何らかの儀式を行わなくても食べられる
・気分が不安定に揺れたりしない
キャロリン・コスティン、グエン・シューベルト・グラブ著「摂食障害から回復するための8つの秘訣」より
あなたにとって何キロがちょうどよい体つきなのか。それには答えがありません。
”ちょうどよい”かどうかは、あなたの体重で決まるのではありません。
あなたがどんな風に自分の人生を生きているか、それが最も大切な指標ではないかと思います。