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マインドフルネスは過食症の治療に何をもたらすか

[2016.12.26]

過食(むちゃ食い)や過食嘔吐の引き金になるのは、アルコールや薬物使用と同じように、怒りや不安、抑うつ、人間関係における衝突など、強烈な否定的感情を体験したときに起きやすいことがわかっています。

 

 

多くの人がその場の対処法として薬物使用に強烈な肯定的期待感(渇望)をもつのである。
物質使用者は、怒りを感じるときや、物質使用者との付き合いや仲間から否定されることへの恐怖に直面する、といったストレスの多い状況に直面すると、精神的な支えとして嗜癖行動に頼る以外の方法がないと考えるようになる。
マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

 

リラプス・プリベンション(再発予防)でも対人関係療法と同じく

 

飲酒の発端となったものは何か。
患者が最初に「ついつい酒に手を出してしまった」その日、何が起きたのか。
引き金となった状況に関する情報が得られれば、再発を防ぐために新しい対処スキルを患者に獲得させ、その訓練ができるのではないか。
マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

を見ていき、「新しい対処スキル」を身につけて、脅威と感じられた自己効力感をエンパワーすることを目標にしています。

 

ハイリスク状況を特定していくうち、いろいろな仲介因子が原因となっても、一番重要なのは、「リスク」に対する個人の主観的な認知であることを私たちは学んだ。
(中略)
ハイリスクの状況で再発を減らす効果を持つ最大の要素は、別の対処反応を活用できるようにすることだ。これはRP(再発予防)モデルにおいて中核をなすものである。
25年間にわたり、私たちはリラプス・プリベンション・プログラムで効果が早く簡単に習得できる対処法を試みてきた。
そのなかで、最も有力で手軽に利用できる方法が、マインドフルネス瞑想であった。
(中略)
それは、ストレスの多い生活スタイルのなかで再発の危険にさらされたとき、患者が平静を保てるように手助けする方法である。
マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

ここで対人関係療法とのアプローチの違いが明らかになります。
リラプス・プリベンション(再発予防)では、ハイリスク状況と向き合ったときの個人の主観的な体験の仕方に対して平静を保つことができるようになることをテーマにしていますよね。

 

この方法が優れていると感じるところは「ニーバーの祈り(平安の祈り)」と同じように、変えることのできる状況と変えることのできない状況を見分け、どちらにも対応できる自己効力感を培っていくことにあります。

また、マインドフルネスは物事が変化する本質を気づかせてくれる。
それは私たちの心や身体や環境が絶え間なく変化しているということだ。

たとえば、45分間タバコなしでいられるはずはないと考えている喫煙者がいたとしよう。
彼らは、45分間持ちこたえられても圧倒的な喫煙欲求を抑えられるなどとは考えもしない。
しかしマインドフルネスは、その衝動や渇望から目をそらしたり、その勢いに圧倒されたりせずにそれを観察し、取り組むための「すぐれた道具」となる。

前述の喫煙者が、タバコに火をつけないでいるとますます吸いたくなる衝動にかられても、吸わない時間を与えられることで、衝動と渇望は彼ら自身の中で変化する。
さらに、マインドフルネスを通じて、人が馴染みのある条件行動、習慣行動をとる代わりに、メタ認知の気づきによって「全体像」を見ることができるようになる。
この気づきは私たちに選択する自由があることをわからせてくれるのだ。
マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

 

対人関係療法での感情との付き合い方』でマーク・エプスタインの『ブッダのサイコセラピー』から引用し、

「自分の気持ちをよく振り返る」ことに取り組むことによって、「なじみのあるひどく不快な感覚」とともにいても同一化することなく、過ぎ去るのを見守るだけの「自覚の強さ」が培われるのです。

と書きました。

これが「衝動の波に乗る」ということであり、

普段の瞑想練習で重要なポイントの一つは、マインドフルネス———思考や感覚に「しがみつき」、すなわち一体化することなくそのとき体験していることを観察する能力———を強化することだ。
(中略)
患者が日常での瞑想訓練によってこの能力を身につけられれば、衝動や渇望、飲酒を導くような考えから自分を「解放すること」ができるだろう。
Marlatt, G. A., & Gordon, J. R. (Eds.). (1985). Relapse prevention: maintenance strategies in the treatment of addictive behaviors. New York: Guilford Press.
マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

これまで自分が感じた苦痛や不快感を和らげたり、コントロールするために試みてきた方法(過食や過食嘔吐)が一次的な効果はあったとしても、長期的には効果がなかったこと、それらは生じては消える心のさざ波にすぎなかったことに気づいていくプロセスで、それらの自分に対しても受け入れられる自己受容(セルフ・コンパッション)がマインドフルネスの土台になります。

 

仏教心理学は、わき起こる不安を認知し、それを感じ、受容すること、そして体験から永遠に目をそらすのではなく心から理解することに焦点を当てる。
これは、慈悲に根ざしたアプローチであり、嗜癖の行為に罪や非難や恥を感じるのではなく、心を開いて受け入れることを尊重するものである。
マインドフルネスに基づく嗜癖行動の再発予防』日本評論社

そして、自分の目標(なりたい自分)に近づく価値に基づく行動のために、苦痛や不快感に対する自分の反応の仕方を変化させることで、自分自身との関係を改善し調和をもたらす方向性が必要になり、そのための優れた方法がマインドフルネスということなのですよね。

院長

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