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気分変調症と混合性抑うつ不安症(アップデート版)

[2023.10.11]

2022年3月に『気分変調症と混合性不安抑うつ・・・・・障害』というブログを書きました。このブログは今でも、アクセス数トップを維持しています。

今回は、ICD-11の【気分変調症】と【混合性抑うつ不安・・・・・症】の説明を行いますので、前回のブログのアップデート版と考えてください。

 

また、ICD-11の病名に合わせて、前回のブログのタイトルの[不安抑うつ]が、今回のブログでは[抑うつ不安]と順序が入れ替わっています。

 

気分変調症

DSM-5では、神経症性障害(神経症性抑うつ)の気分変調性障害と、(2年以上続く)慢性の大うつ病とを合わせて、【持続性抑うつ障害(気分変調症)】というカテゴリーが作られました。

 

ICD-11の【気分変調症】は、DSM-Ⅲ以降の「抑うつ神経症」を引き継ぎ、「神経症性抑うつ」および「抑うつパーソナリティ」を包含する概念として説明され、「2年以上続く慢性の軽症抑うつ」と定義されています。

 

気分変調症は、1日のほとんどの期間、そうでない日よりも長い期間、(2年以上続く)持続的な抑うつ気分を特徴とします。

抑うつ気分は、うつ病エピソードに通常見られる追加の症状が伴いますが、症状はうつ病エピソードより軽い場合があります。例としては次のものが挙げられます。

活動に対する興味や楽しみが著しく減少する
中力や注意力の低下、または優柔不断
低い自尊心、または過剰または不適切な罪悪感
将来に対する絶望感
睡眠の妨げ、または睡眠の増加
食欲の減少または増加
エネルギー低下または疲労感

気分変調症は、不安障害または恐怖関連症、身体的苦痛障害(身体表現性障害)、強迫性障害または関連障害、反抗挑戦性障害、薬物使用による障害、食行動障害または摂食障害、パーソナリティ障害など、他の精神障害との併存が一般的です。

小児や青年では、抑うつ気分よりもむしろ広汎な易刺激性を示すことがあります。しかし、易刺激性の存在はそれ自体で気分変調症を示すものではなく、他の精神障害、行動障害、神経発達障害の存在を示すか、欲求不満に対する正常な反応である可能性があります。

若年成人では、精神障害、行動障害、神経発達障害の併発率が高いのが一般的です。

Dysthymic disorder

 

こころの健康クリニック芝大門で、【気分変調症】と診断した人の中には、「ずっと苦しかったけど、性格だと言われるのが怖くて受診できなかった」とおっしゃる患者さんが多いのです。

そのような患者さんでは不安障害との併存が多いのが特徴です。

 

DSM-5では「抑うつ障害群」の特定用語として、「不安性の苦痛を伴う」という項目があります。

 

  1. 張り詰めた、または緊張した感覚
  2. 異常に落ち着かないという感覚
  3. 心配のための集中困難
  4. 何か恐ろしいことが起こるかもしれないという恐怖
  5. 自分をコントロールできなくなるかもしれないという感覚

 

「不安性の苦痛」は、「抑うつエピソード」または「持続性抑うつ障害(気分変調症)」の大半の日に、上記の症状の少なくとも2つ以上が存在する状態と定義されます。

 

そうなると、《不安性の苦痛を伴う気分変調症》と【混合抑うつ不安症】の鑑別が問題になってきます。

 

混合性不安抑うつ障害から混合性抑うつ不安症へ

うつ病や不安症のそれぞれの症状を部分的に有していながら、どちらの診断基準も満たさない一群である【混合性不安抑うつ障害】は、ICD-10では「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害などの群」に含まれていました。

「神経症性障害」には、広場恐怖症や社交不安障害などの「恐怖症性不安障害」、パニック障害や全般性不安障害など「他の不安障害」、「強迫性障害」などが含まれ、【混合性不安抑うつ障害】は「他の不安障害」に含まれています。

 

ややこしいことに、DSM-5では適応障害の中に「不安と抑うつ気分の混合を伴う」という亜分類があり、さらに、ICD-10の適応障害では「混合性不安抑うつ反応」として、[不安と抑うつ症状の両方が顕著だが、混合性不安抑うつ障害や他の混合性不安障害に分類されるほど重くはない]という項目があります。

 

上記で出てきた「他の混合性不安障害」は、全般性不安障害の基準を満たし、かつ、他の不安障害(例えば、強迫性障害、解離性障害、身体化障害、鑑別不能型身体表現性障害)の部分症を伴うもの(短期間しか続かないものも含む)、とされています。

 

一方、ICD-10の【混合性不安抑うつ障害】は、ICD-11では【混合抑うつ不安症】(不安抑うつ→抑うつ不安)と名称も変更され、「抑うつ症群」に追加されました。

 

混合型不安抑うつ症は、不安とうつ病の両方の症状が2週間以上続くのが特徴です。

うつ病の症状には、憂鬱な気分、または活動に対する興味や喜びの顕著な減少が含まれます。

不安の症状は複数あり、神経質、不安、イライラする、心配な考えを制御できない、何かひどいことが起こるのではないかという恐怖、リラックスできない、筋肉の緊張、交感神経系の自律神経症状などがあります。

抑うつ症状も不安症状も、別々に考えた場合、別の抑うつ障害や不安または恐怖関連障害の診断要件を満たすほど重篤でもなく、数も多くも持続性もありません。

混合型不安抑うつ症では、患者の約半数は、発症から1年以内に症状の寛解を経験することを示唆するいくつかの証拠がある一方で、寛解しなかった人は、診断要件を完全に満たす精神・行動・神経発達障害、典型的にはうつ病性障害または不安障害もしくは恐怖関連障害を発症するリスクが高くなります。

Mixed depressive and anxiety disorder

 

上記のように【混合抑うつ不安症】は、《軽度の気分変調症》+《軽度の全般性不安障害》と考えることができそうです。

 

全般性不安障害

以下の症状のうち、少なくとも3つ以上

  1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
  2. 疲労しやすいこと
  3. 集中困難、または心が空白になること
  4. 易怒性
  5. 筋肉の緊張
  6. 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または落ち着かず熟眠感のない睡眠)

 

全般性不安障害の症状のうち半数は、【気分変調症】の「不安性の苦痛」と共通するものが含まれています。

つまり、軽症の慢性うつ病である【気分変調症】の随伴症状と、全般性不安障害は共通点があるということです。

 

気分変調症の経過

精神科診断の構造化面接を用いた【気分変調症】の自然経過では、高率(39%)に寛解が認められることが報告され、12ヶ月後に【気分変調症】のままであったのは11%でした。

さらに、経過中、大うつ病エピソード、パニック障害、全般性不安障害、広場恐怖症、社交不安障害など、半数以上が診断変更になったと報告されています。(サイヴライト,タイラー. 気分変調症と不安およびその他の神経症性障害との関連. in バートン,アキスカル.『気分変調症―軽症慢性うつ病の新しい概念』金剛出版(1992))

 

そう考えると、神経発達症特性に伴う反芻思考による不安⇋【混合抑うつ不安症】⇋不安の増大⇋《不安性の苦痛を伴う気分変調症》⇋【気分変調症】、という図式が想定されます。

矢印が右に進むとうつ状態が強くなり、うつ状態が軽快してくると不安症状が目立つようになってきます。

そうすると【気分変調症】は半数以上に経過中に軽快がみられ、不安症群に診断が変更になった理由も考えやすいのです。

 

つまり、診断基準にあるように「持続的な抑うつ気分が2年以上続く」純型の【気分変調症】はごく稀であり、多くの【気分変調症】は、【混合抑うつ不安症】や【混合性不安抑うつ障害】の亜型なのかもしれません。

 

自閉スペクトラム特性と気分変調症の関連

【混合抑うつ不安症】の診断基準には、「発症から1年以内に寛解しなかった人は、診断要件を完全に満たす神経発達症を発症するリスクが高くなる」との説明があります。

【混合抑うつ不安症】は1年以内に寛解することが想定されているのです。

 

また【気分変調症】の診断基準の中には、「若年成人では、神経発達障害の併発率が高い」という一文があります。

鈍い反応性と自信・気力のなさ・劣等感、アンヘドニア(無快楽症・憂うつ症)を特徴とし、失敗への敏感性や偏った考え方(思い込みやこだわり)を持つとされる「無力型気分変調症」は、自閉症スペクトラム(ASD)との類似性が想定されています。(『「複雑性PTSD」と「気分変調症」の不安と抑うつ』参照)

 

加えて、「神経発達障害(自閉スペクトラム症などの神経発達症)」は、不安と抑うつの合併が多いことも知られています。

 

つまり、【混合抑うつ不安症】や【気分変調症】は、「神経発達症特性(自閉スペクトラム特性)」の二次障害とも考えることができるわけです。

 

このように考えると、うつ病や慢性うつ病、あるいは気分変調症の診断で通院中だけれども改善がみられないと感じていらっしゃる方は、治療方針を見直す必要があるかもしれませんね。

 

院長

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