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ストレスと適応障害

[2019.10.31]

さまざまな心の不調を自覚し、メンタルクリニックを受診したことがある人も多いと思います。

多くの場合、心理士さんからこれまでの経過を聴かれた後、医師の診察は10〜15分です。そこで「抑うつ状態」や「うつ病」あるいは「適応障害」と診断され、休んだ方がいいと、休職診断書が出されます。
場合によっては、仕事を辞めたほうがいい、と転職を勧められる場合もあるそうです!
 

そして、「これを飲んで様子をみてください」と、抗うつ薬と抗不安薬、睡眠薬などが処方され、次回の予約は2週間後、場合によっては1ヵ月後です。

 

ストレスの曝露から離れて3ヶ月以上続くことがないとされる「適応障害」の診断で、1年近く休職 されている方もいらっしゃるようです。この場合は、診断が間違っているか、治療法が間違っているか、診断も治療法も両方が間違っている場合が考えられます。

こころの健康クリニック芝大門に転院、あるいはリワークプログラムへの参加を希望して受診された方に話をお伺いすると、上記のような経験をお持ちの方がすごく多いのです。

 

何度か休職したことのある患者さんの中には、傷病手当金の支給が打ち切りになったケースもあります。

傷病手当金は、病気やケガのために休業し、仕事に就くことができず、給与が支払われない場合に1年6ヵ月に限り保険者から支給されるものです。しかし、復職して再休職した場合など、同じ病気により仕事に就けなくなった場合も通算されますので、傷病手当金の打ち切りが生じてしまうのです。

 

独立行政法人労働政策研究・研修機構が平成22年に行ったアンケート調査では、精神疾患により休職した従業員の復職率は45.9%でした。
アンケートに回答した約2万社の企業で、職場復帰したのち、再発がほとんどないと回答した企業は47.1%、半数以上が再発したと回答した企業は32.4%だったそうです。何と30%の企業で、半数以上の人が再発・再休職を余儀なくされているんです。。

「抑うつ状態」「うつ病」「適応障害」などのいい加減な診断で、抗うつ薬を処方されるだけで適切な精神療法もなされず、復職基準を知らない主治医が復職可能の診断書を提出し、精神科を専門としない産業医が環境調整や復職支援プランを作成せずに復職可能の判断を下すと、職場復帰して3ヶ月以内(多くは1ヶ月以内)に再休職となり、同じことが繰り返されてしまうのです。

 

私自身の経験でも、知り合いの産業医に聞いた話でも、コンビニ受診が可能なメンタルクリニックでこのような事例が多発しているようです。
このような話を聞くと、暗澹たる気持ちになってしまいます。
 

  

そもそも「適応障害」とは、「はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3ヵ月以内に情動面または行動面の症状が出現」するもので、「症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛」であり、「社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害」のうち1つまたは両方を満たすものとされています。

また国際疾病分類(ICD-10)では、「はっきりと確認できるストレス因」について、「ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機」であり「この項目の存在は明確に確認されるべきであり、強力な、推定的であるかもしれないが、それなしに障害は起こらなかったという証拠がなければならない」とされています。

つまり、「ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機」などのストレス因に対して、「不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛(情動面または行動面の症状)」を呈するストレス反応が起きている場合を「適応障害」と診断します。 

 

ラザルスは、ストレスを「ある個人の資源に何か重荷を負わせるような、あるいは、それを超えるようなものとして評価された要求である」と定義しました。

この定義の重要な点は、評価にあります。つまり、環境側からの圧力や要求をその人がどう感じるか、あるいは、どう解釈するかによって、同じ状況にあっても、ストレス(註:ストレス反応)の強さは変わってくるということです。どう感じるかは、その人の能力ばかりでなく、経験やパーソナリティによっても違ってきます。

(中略)

そのひとつは、ストレスは、それをどのようにとらえ、どのように対処するかというプロセスとして理解することが有用だということです。

平島『不安のありか』日本評論社

 

こころの健康クリニック芝大門では、「適応障害」が起きる要因として、

  1.  労働環境や労働内容に問題がある場合(長時間労働や業務内容過多など)
  2.  労働者側に課題がある場合(物事のとらえ方や対処法の稚拙さ)
  3.  労働環境と労働者の双方に問題がある場合(上記1.+2.)
  4. ど ちらにも問題がない場合(業務と業務遂行スキルのミスマッチ)

の4つを説明していますよね。

 

最後の④ 業務と業務遂行スキルがミスマッチの場合は、いわゆる「職場不適合」ですから職業適性検査等で自分自身の得意不得意を見極めた上で、仕事を再選択しなおす必要があると思われます。

 

② の対処スキルの稚拙さを適応障害と誤って診断されていることが多いのですが、その人にとってはストレス反応を引き起こすストレッサーであったとしても、大多数の人にとって「ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機」とは認識されず、ストレス反応も起こしませんので、この場合は「適応不全」ということになります。

このタイプは、さまざまな身体化症状を訴える人が多い様な印象があります。身体症状が社会との関わりを遠ざける免罪符のようになっているようです。

この場合には、物事のとらえ方の多様な理解の仕方を学んで行く精神療法とともに、情動や行動の対処スキルを身につけるトレーニングが必要ですよね。
薬が解決をしてくれるわけではありませんし、また、部署異動や転職をしたからといって、改善するものでもありません。

 

最初の①と③の2つが厳密に「適応障害」と診断されます。

そう考えると「適応障害」の治療方針は、

  •  ストレス因(ストレッサー)に対するアプローチとしての環境調整
  •  個人のとらえ方のコントロールとしての精神療法
  •  情動面または行動面の症状に対する対処法(コーピングスキル)

の3つが必要だということがわかると思います。

 

「適応障害」に対して、薬物療法はあくまでも対症療法的な補助手段にすぎません。
心理社会的なアプローチがなされず、薬だけ処方されるのは適切な治療とは言い難いだけでなく、治療にすらなっていないため、再燃・再発による再休職は当然、起こるべくして起きるということでもあります。

 

また「適応障害」は、

  1.  抑うつ気分を伴うもの
  2.  不安を伴うもの
  3.  不安と抑うつ気分の混合を伴うもの
  4.  素行の障害(問題行動)を伴うもの
  5.  情動と素行の障害の混合を伴うもの
  6.  特定不能

と分類されています。

医療機関で「適応障害」と診断された人のうち、このような説明を受けたことがある人は、皆無ではないかと思います。

「適応障害」の治療では、患者さん一人ひとりの状況と状態に合わせた情動面または行動面の症状に対する対処法の指導が必要なのですが、上記のような「適応障害」の分類の説明がなかった場合は、治療になっていない可能性を考えてみる必要があるかもしれません。

 

また多くのリワークプログラムでは、プログラムの遂行のみに重点が置かれ、「適応障害」に対してピント外れの指導が行われ、患者さん一人ひとりに合わせた対処法の指導が行われていないことも多いようです。

たとえば、物品請求書の作成や計算ドリル、アサーションやコミュニケーションのロールプレイなどが、どのような機序で患者さんの物事のとらえ方やストレス対処法を変化させるか?を考慮されずに、プログラムに参加すること、リワークに通うことだけが、復職の条件になっていることも多いようです。

 

職場復帰支援(リワーク)プログラムでは、集団としてのプログラムと患者さん一人ひとりの個別性を重視したプログラムの両方が必要です。それが『さまざまな疾患による休職と職場復帰(リワーク)』で説明した内容なのです。

再燃・再発の防止と職場復帰を本気で考えていらっしゃる方は、こころの健康クリニック芝大門のリワーク外来にお問い合わせくださいね。

 

院長

 

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